子どもや孫が住宅購入する際の資金援助に対して、贈与税が非課税となる特例はよく知られています。しかし、この特例を使うと損をすることもあるので、注意が必要です。そこで今回は、住宅取得等資金の贈与を非課税にする特例について説明していきます。※本連載では、円満相続税理士法人の橘慶太税理士が、専門用語ばかりで難解な相続を、図表や動画を用いてわかりやすく解説していきます。

住宅取得等資金の非課税制度とは?

子どもが住宅を購入するときに、資金援助をする親は多いですよね。通常、年間あたり110万円を超える生前贈与には贈与税が課税されます。しかし、子どもが住宅を購入するための資金援助であれば、年間110万円に加えて700万円まで贈与しても贈与税が課税されない特例があります。一見お得そうに見えるこの特例ですが、実は、使わないほうが税金対策になる場合も存在します。また、この制度は毎年お決まりのパターンでトラブルになるケースがあるのです。

 

そもそもこの特例をひと言でいうと「子どもないし孫が住宅を購入するための資金援助であれば、700万円(認定長期優良住宅の場合には1200万円)まで贈与しても贈与税を課しませんよ」という特例です。あくまで住宅を新たに取得するための資金援助に限定されるため、既存の住宅ローン返済のための資金援助はこの特例の対象となりません。

 

※消費税増税が予定されている2019年10月以降、特例の適用を受ける住居の新築等契約を締結する場合、下記表が非課税限度額として適用されます(一部例外あり)。

 

[図表1]「住宅取得等資金の非課税制度」の非課税限度額(出所:国税庁)
[図表1]「住宅取得等資金の非課税制度」の非課税限度額(出所:国税庁)

 

この制度はかなり人気で、使っている方は多くいます。基本的には、この制度は非常に良いものです。相続税対策にもなりますし、亡くなる前3年以内の贈与がなかったことにされる「贈与税の年内加算」のルールも適用されません。

 

この制度の主な条件は次のとおりです。

 

・贈与を受けるのは子どもか孫であること(直系であることが条件です。たとえば妻の両親から夫が贈与を受ける場合などには、この特例は使えません)

 

・贈与を受けた年の翌年3月15日までに住宅を新築や取得していること

 

・贈与を受けた年の翌年3月15日までにその家屋に居住すること又は遅滞なく居住することが見込まれること等

「贈与税が0円」でも、必ず申告が必要

住宅取得等資金の非課税の特例を使う場合に、最も多くトラブルになるのが、「非課税の範囲内だから申告しなくていいと思いました」というケースです。この特例は、非課税額の範囲内だったとしても必ず贈与税の申告が必要なのです。

 

たとえば、住宅取得資金を500万円贈与したとします。住宅取得資金は700万円まで非課税なので、確かに特例を使えば税金は0円です。しかし、税金が0円だったとしても申告はしなければいけないのです。もし申告しなかった場合、特例を受けることはできません。500万円を通常の方法で贈与した場合には48万5千円の贈与税が課税されてしまいます。

 

贈与税の申告期限は、贈与した年の翌年2月1日から3月15日までです。毎年、この期限を過ぎてから、「住宅取得資金を申告しなかったんですけど、今からなんとかなりませんか?」という相談を受けます。この制度の恐い所は、申告期限に1日でも遅れたら非課税に絶対にしてくれなくなることです。

 

こんなことはあまりいってはいけないのですが、税金の世界は「遅れちゃいました、ごめんなさい」が結構通用します。遅れた分の利息は払わないといけませんが、利息さえ払えば、問題なく特例を受けられるものもたくさんあります。ただ、この住宅取得等資金の贈与税の非課税制度は厳しいのです。1日でも遅れたら特例を受けることができなくなります。この特例を検討している人は、必ず「税額がでなくても申告は必要!」と覚えるようにしてください。

「小規模宅地等の評価減」が使えなくなる可能性がある

将来の相続税対策の一環として子どもへ住宅資金の贈与を考えているのであれば、それはちょっと待ってください。実は、子どもに住宅を持たせると、将来の相続税が跳ね上がるリスクが存在するのです。その秘密は、小規模宅地等の評価減という特例にあります。この特例は、「亡くなった人が自宅として使っていた土地は、8割引の金額で相続してもいいですよ」といった特例です。1億円の土地であればたったの2000万円の評価額で相続できる特例なので、これが使えるか使えないかで、支払う税金は何千万円と変わることがあります。

 

この小規模宅地等の特例を使うためには条件が存在します。その条件とは、「自宅を相続する人が、配偶者もしくは亡くなった人と同居をしていた親族であること」というものです。原則としては、配偶者か同居親族だけなのですが、もしその両者とも存在しない場合には、「亡くなった人と別居していて、かつ、3年以上自分の持家に住んでいない親族」も特例を受けることができます。

 

わかりやすくいうと、賃貸暮らしや社宅暮らしをしている子どもです(この特例を業界用語で「家なき子特例」といいます)。この家なき子特例を使わせたいのであれば、子どもにあえて、住宅を持たせてはいけないのです。あえて賃貸暮らしを継続させるのです。

 

「おいおい、そんなこといっても、子どもはマイホームを欲しがっているんだよ」という人もたくさんいるでしょう。そんな時には、子どもに住宅資金をあげるのではなく、親が不動産を購入し子どもに無償で貸してあげる、という方法も存在します。いや、存在しましたというべきですね。

 

[図表2]小規模宅地等の評価減が使えないケース
[図表2]小規模宅地等の評価減が使えないケース

 

[図表3]平成30年4月1日までは、小規模宅地等の評価減が使えていたケース
[図表3]平成30年4月1日までは、小規模宅地等の評価減が使えていたケース

 

この方法は、国税庁から「過度な節税である」ということで、平成30年4月1日からは禁止されています。もし税理士や金融機関の人から、このような提案を受けても、「それってもう使えない手ですよね?」といいましょう。

資金援助したことを黙っていても、バレないのか?

「住宅を購入する時に親から資金援助を受けたことなんて、黙っていれば誰もわからないでしょ?」と思っている方。その考えは、大変危険です。はっきりいって、プロが見ればすぐにわかります。親から資金援助を受けたのに、それを税務署に申告していない場合というのは、簡単に見破れます。どうやって見破るかを教えましょう。一例になりますが、まずは、子どもが購入した不動産の登記簿謄本を用意します。

 

[図表4]登記簿謄本のイメージ
[図表4]登記簿謄本のイメージ

 

これが登記簿謄本です。登記簿謄本には、その不動産の所有者の情報が書いてあるのですが、ポイントになるのは、抵当権の部分です。住宅ローンを組んで住宅を購入するのであれば、必ず、登記簿にいくらの借入をどこの銀行からしたかが書かれます。

 

抵当権の設定なしに不動産を購入するということは、銀行から融資を受けないで不動産を購入したことを意味します。つまり自分達でお金をすべて用意したことになります。もちろん若くてもたくさん稼ぎのある人なら話は別ですが、たとえば30歳のサラリーマンが5000万円の物件を住宅ローンなしで購入するというのは、親の援助がなければ現実的ではありません。超高給取りのサラリーマンなら別かもしれませんが、税務署からすれば、そのサラリーマンが毎年どれくらいの給与を会社からもらっているかは筒抜け状態です。

 

そこまで収入があるわけでもないのに、住宅ローンを借りずに不動産を購入したということは、親からの資金援助があったと疑われても仕方ないのですね。親から住宅取得のための資金援助を受けることが悪いことでは決してありませんが、その場合には必ず贈与税の申告をすることを守ってください。

「相続時精算課税制度」と間違えて使うケースも

住宅を購入するための贈与税の非課税制度と非常に似た制度に、相続時精算課税制度というものがあります。この制度は、贈与税がなんと2500万円まで非課税にできる、非常にお得そうに見える特例です。しかし、この制度は相続税を先送りにするものでしかありません。お得そうに見えるだけで、実は全然お得にならないのです。

 

この制度を利用すべき場合は、贈与した財産を加えても相続税の基礎控除額を下回るケースや、将来相続税がかかりそうな人で生前中に110万円以上の贈与をしなければいけないケースです。「2500万円までの贈与が非課税になる」という響きに惹かれ、非常に多くの人が間違えてこちらの制度を使っています。自分がこの特例を使って得をするか、確認をするようにしましょう。

 

 まとめ 

住宅取得等資金の贈与税の非課税制度は、基本的にはすごく良い制度です。どんどん使っていただくことをおすすめめしています。ただ、注意点としては、まず申告が必ず必要になること。納税がでなくても翌年3月15日までに必ず申告してください。

 

次に、将来の小規模宅地等の評価減についてです。別居していても、持家のない親族であれば特例を受けることができます。あえて子どもに住宅を持たせないという対策もありますので、ここは慎重に検討してください。

 

最後に、「申告なんてしなくてもばれない」と思っている方。そんなことはありません。ばれないからダメというのではなく、きちんと申告すれば税金もかからないので、申告することをおすすめします。

 

 

橘慶太

円満相続税理士法人

 

 

【動画/筆者が「住宅取得等資金贈与の非課税制度」を分かりやすく解説】

 

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