法人化によって利益の使い道を自身で決められるように
【相談時の状況】
岐阜県岐阜市 産婦人科医院院長(開業11年目)Aさん 45歳
家族構成:妻(専従者)43歳、子供12歳、10歳、8歳
世帯年収:4000万円(院長3500万円、奥様500万円)
資産:預貯金5000万円
世帯年収4000万円のAさんは典型的なフローリッチな開業医です。いろいろと問題を抱えていましたが、次のようなビジョンをお持ちでした。
①将来は65歳でリタイアして、オーストラリアにロングステイをしたい
②65歳からは年金などで月額100万円の不労収入、そして65歳までに2億円のストック(資産)を作っておきたい
③子供の教育費が3人とも私立医学部に進むと不十分。自分が親にしてもらったように、子供たちにも最高の準備(ひとりにつき3500万円程度)はしておきたい
④医療法人化を検討しており、税理士にもシミュレーションしてもらったが、面倒くさそうでいまいちメリットがピンとこない
このままでも65歳までに2億円は作ることができる状態でしたが、不労収入に関しては、公的年金と勤務医時代から始めている不動産投資(単身者向けマンション5戸所有)で月額50万円となっており、残り50万円が不足していました。
そこで、医療法人化によって個人と法人の2軸で資産を形成、子供たちの学資の問題と合わせてダブルで解決するよう取りかかりました。
Aさんは、相談当時には所得税、住民税合わせて最高税率50%の納税をされていましたが、節税についてはほとんど関心がありませんでした。法人化によるメリットには、事業承継やスタッフの確保、経費の枠が増えるなど様々ですが、そこにはあえて触れず、お金の流れを中心にお伝えしていきました。
年収が4000万円ということは、個人事業として単純に4000万円の利益が残ったということになります。そこから個人的な経費(基礎控除、生命保険料控除など)が差し引かれ、残った金額が課税所得対象額とされます。
個人の場合、一度この数字が決まってしまうと、もうこれ以降は誰がやっても節税の施しようがありません。
一方、法人化すると、4000万円の利益のうち3000万円をご夫婦の給料(2000万円を院長、1000万円を奥様)に、500万円を子供たちのために、残りの500万円をご夫婦の退職金になど、利益の使い道を自身で決めることができる――といった感じで、まず大まかなイメージをお伝えしたのです。
一般的に税理士さんから提示される決算上の細かな数値の変化ではなく、イメージ重視で説明することで、法人化のメリットについてご理解いただくことができました。
その後、Aさんは法人化を決意、以下のようなプランを立てました。
●利益を生命保険で目的を学資と退職金に絞る
●学資は逓増定期保険を法人で契約し、5年で返戻率がピークになる時に個人で買い取る
●退職金は65歳での返戻率が100%を超える長期平準定期保険での積立
積立額は、9月が決算月だったので7月下旬から利益がどれくらい出るかを試算して決定。また、同時期におふたりの給料の額も税理士を交えて検討し、調整していきました。
予定では学資の積立は3人のお子様がそれぞれ18歳になるまでに、預貯金と合わせて3500万円が確保できます。ご夫婦の退職金も65歳までの20年間で法人から1億5000万円以上を受け取ることができるよう計画を立て、個人で海外投資の積立も始めました。法人と個人のストック合計は2億円を超える資産形成プランを実践しています。
[図表]Aさんの医療法人化キャッシュフローチャートイメージ
海外移住する場合、現地での不動産購入を検討する手も
65歳時の不労収入月額100万円については、不動産投資をコアとし、さらなる個人の節税も兼ねて不動産を増資することにしました。
勤務医時代に運用を始めたマンションは5戸中3戸の入居率が80%台と低く、収益性の悪いものとなっていたのです。そこで、これらはリノベーションや売却をすることにし、優良新築物件にメンバーチェンジすることも視野に入れて、入居率95%以上を目標とした資産構築に向けて動き始めています。
将来の夢であるオーストラリアでのロングステイですが、移住ではなくロングスティであれば3か月の観光ビザで問題ないため、リタイアが近づいてきた段階で考えることにします。
オーストラリアは日本の居住者でも自由に不動産購入ができるため、将来的に余裕が出てきた時には、ストックの2億円を使って現地に別荘を購入するという方法もあります。
また、リタイア直前に海外口座を開設し、資金を移行すれば、スムーズな海外移住ができるでしょう。ただ奥様はオーストラリア移住にあまり積極的ではないので、リタイアまでに何度か旅行し、現地の魅力をつぶさに伝えていく自助努力は必要かもしれません。
Aさんは現在45歳、リタイアまで20年あります。時間を味方に付け、今後順調に資産形成が進めば、65歳には目標額を上回る可能性も十分にあると言えます。