承継が決まった後の「引き継ぎ方法」が重要となる
前回の続きです。リタイア後、マレーシアに移住し、奥様との共通の趣味であるゴルフ三昧の生活をしたいという夢をお持ちのYさんの事例について見ていきます。
リタイア後の医院については、特に後継者がいないことについて悩んでいました。コンサルティングを依頼された時、お子様はすでに独立し、社会人として医療関係とは別の道を歩んでいたのです。
Yさんの医院は地域の方から愛されており、患者さんのなかには、子供のころから通い続け、今も息子さんと一緒に診てもらっているといった方も数多くいました。「廃院したり、誰かにお金で譲ったりするのは簡単だが、できればこのまま自分の意思を継いでくれる人に任せて医院を残したい」という気持ちもあり、心が複雑に揺れ動いていました。
そんな時、ちょうどいいタイミングで勤めていた大学の後輩でもある30代の副院長から開業の相談を受け、思い切って「このままここで自分の後を継いでみないか」と持ちかけたのだそうです。副院長は数日間悩んでいましたが、Yさんの熱い思いを受け止め、快諾に至りました。
副院長が承継してくれることは決まりましたが、リタイアまでどのように引き継いでいくかはプランがなく、新たな悩みが浮上してきたのです。
仕事を徐々に「アウトソーシング」していく
そこで筆者は他のクライアントの承継事例をもとに、プレイヤーの立場からマネージャーの立場に視点を変え、承継の長期計画を立てることを提案しました。元来、何でも自分がやらないと気が済まないという真面目な性格のYさんでしたから、まずは今までしていた仕事を徐々にアウトソーシングすることをお勧めしたのです。
診療は副院長を中心とし、スタッフの採用や教育をリーダー格のベテランスタッフに任せることで、トップダウンの経営から医療法人が組織として機能するような職場環境が整えられていきます。
最初はハラハラヒヤヒヤすることもありますが、グッとこらえて任せることができなければ、事業承継はうまくいきません。すぐ結果が出ることを期待せずに長い目で見守ってやることが大切になってきます。
こういったことも先の事例をもとに他の先生のやり方、気持ちの置き所など、承継がうまくいっているケースをお伝えしました。
現在、当初の不安とは裏腹に、期待以上に計画が進み、経営は副院長にほぼ任せられるまでになりました。スタッフのチームワークも向上し、Yさん自身は専用の個室で愛用のゴルフクラブを眺めたり、好きなクラシックを聞いたりしながら、一日2〜3人のペースで馴染みの患者さんを診ているそうです。
[図表]リタイアまでの準備 医院と個人の2つのカテゴリー
ところで、「承継」と「継承」の意味をご存知でしょうか。「承継」は経営権など権利を譲ることで、「継承」は思いを託すことだそうです。Yさんもこのまま順調に計画が進めば、医院や患者さんに対する開業当初からの熱い思いを副院長やスタッフに継承し、安心してハッピーリタイアメントが迎えられそうです。