投資信託会社、生命保険会社、年金基金…といった、大口の運用資産を動かす機関投資家。比較的長期の運用を行うのが特徴で、市場に及ぼす影響も大きい。顧客から預かった資金を運用する、プロの機関投資家の運用戦略は、額の規模は違えど、個人投資家にとっても学ぶところは多いだろう。本記事では、元ヘッジファンドマネジャーで、欧米での豊富な運用経験を持つ森敦仁氏が、世界の機関投資家が投資信託を選ぶ際の注意点を解説する。

運用戦略を精査した上で、強みがどこにあるのかを確認

筆者の経歴はヘッジファンドマネージャーと、オランダの運用会社でのインベストメントオフィサーであるが、双方の共通点として、どちらもメインの顧客が世界の機関投資家であったことがあげられる。そこで今回は、その経験をもとに、プロの機関投資家は自らが投資するファンド(投資信託)をどうやって選んでいるのかを解説する。

 

 

1.運用戦略の理解

 

まずは、投資信託の運用戦略を理解することから始まる。難しそうに聞こえるかもしれないが、「投資対象は何か」「銘柄をどうやって評価・選択しているのか」「どういったときに売買するのか」「どのようなポートフォリオを組むのか」「銘柄数はどの程度か」などである。

 

必ずしも完全に理解する必要はないが、具体的に述べると次のとおりだ。

 

●投資対象は何か

 

投資対象資産(株式や債券など)、投資対象地域(国など)、具体的な組入銘柄(セクターや企業など)を確認し、自分達がどのようなものに投資をするのかをまず理解する。

 

●銘柄をどうやって評価・選択しているのか

 

アクティブ運用であれば、どのように銘柄をしぼり、個別銘柄の分析(特に、割高・割安の判断はどうしているか)を行っているかを確認する。

 

インデックス運用であれば、何の指数で、それは何をもとに構成されているのか(時価総額指数なのか、価格指数なのか)を確認する。

 

●その他

 

実際の売買はどのようなタイミングで行われるのか、また通常どのようなポートフォリオを組んで運用するのか(分散投資方針、銘柄数など)等についても確認する。

 

2.運用戦略の強み

 

おおまかな運用戦略が理解できたら次は、その運用戦略のどこに強みがあるのかを確認する。市場では、数多くのファンド、運用会社が利益を得ようと切磋琢磨している。しかしながら、利益を長期的に、継続的に得るのはそう簡単ではない。

 

したがって、この運用戦略がなぜ他のファンドより優れているのか、なぜ利益を出せるのかについて、自分が納得するまで確認することが必要だ。例えば、それは分析力、システムの性能、市場の歪み(非効率性)の利用、市場心理の利用、分散投資、流動性の低い銘柄を取引するノウハウ、などで説明できる。

 

なお、ここからは余談だが、筆者の意見としては、意外にこの点を曖昧にしたまま投資している個人投資家が多いように感じる。

 

例えば日本では、旬のテーマに関連する銘柄に的を絞って投資する、いわゆる「テーマ型」の投資信託が相変わらず売れ筋ランキングの上位に入る。投資理論的にも「運用実績がない」「旬のテーマに集中投資(分散投資がされてない)」「テーマが長期的に発展するか、将来の勝ち組企業がどこかは不透明」「すでに割高」など多くの問題点があるなかで(詳しくは、関連記事『日本で売れている「テーマ型」投資信託…欧米では不人気な理由』を参照されたい)、きちんと各ファンドの戦略や強みを理解したうえで投資している投資家はどの程度いるのであろうか。

 

「テーマ型」が必ずしも悪いとはいわないが、投資家は「テーマ」や「ストーリー」に投資するのではなく、もちろん運用会社や販売会社、営業マン等の信頼性への投資でもなく、どうやって利益を得るかという「ファンド」あるいは「戦略」に投資するのだということを忘れないでいてほしい。

自分自身で理解を深め、少しの手間で「正しい投資」を

3.過去の運用実績

 

「過去の運用実績は未来を予測するものではない」と多くの販売用資料等に書かれているが、過去の運用実績を全く見ないでファンドに投資する機関投資家は皆無だ。もちろん、将来的に同じことを繰り返すとは限らないが、過去の運用実績を見れば、そのファンドが過去どのように運用されてきたか、将来どのような期待ができるか、どの程度の損失を許容すべきか、すなわち期待リターンと想定リスクがイメージできる。最低3年、できれば5~10年の運用実績を見ておきたい。

 

これは、インデックス投資でも同じことである(日経平均も米国ダウ平均も、リーマンショック時は50%以上下落したことは理解して投資をしたい)。また先に説明した運用戦略や強み(弱み)を理解していれば、過去の実績が将来につながりそうなのか、そうではない(偶然な)のかがイメージできるはずだ。

 

4.ポートフォリオ

 

投資信託に元本保証はなく、マーケットの動きによる損は避けられない。このリスクは避けられないが、多くの機関投資家はこのリスクを「ポートフォリオを組んで分散投資」することにより、コントロールあるいは軽減している。

 

例えば、リーマンショック時に世界の多くの株式市場が50%程度下落したわけだが、その一方で米国債など格付けの高い債券には資金が流れ込み、大幅に債券価格は上昇(金利は低下)した。株式だけでなく、債券、オルタナティブなどマーケットに対し互いに違う(相関のない)動きをする複数の資産クラスのファンドをもつことは、リターンも分散するがそれを超えてリスク軽減につながる(参考:現代ポートフォリオ理論)。

 

こちらも余談だが、昨今、バランス型ファンド、ラップ口座/ファンドラップ、ロボアドバイザーなど、個人投資家向けのポートフォリオ形成のためのサービスを多く見かける。しかし、このようなサービスに高いコストを追加で支払わなくとも、複数の資産クラスのファンドを自分で買えば充分だ。過去の運用実績を見て、運用戦略とその強みを理解すれば、自分で選択できると筆者は考える。

 

 

プロの機関投資家は投資が自己責任であることを理解しており、先に述べた4つのポイントは少なくとも自分達で考え、理解した上で投資をしている。個人投資家の方々も参考にしていただき、少しの手間で、大切な資金を正しく投資していただければと思う。少なくとも「他人に勧められて買う(売る)」というのはファンド購入(売却)の動機としては避けてもらいたい。損したときに最も後悔するケースである。

 

 

※本連載に記載された情報に関しては万全を期していますが、内容を保証するものではありません。また、本連載の内容は筆者の個人的な見解を示したものであり、筆者が所属する機関、組織、グループ等の意見を反映したものではありません。本連載の情報を利用した結果による損害、損失についても、著者ならびに本連載制作関係者は一切の責任を負いません。投資の判断はご自身の責任でお願いいたします。

 

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