親から子へ、または祖父母から孫へ…。このように親族間で「お金の貸し借り」が発生した場合、「贈与」と「貸付金」の区分について、税務署はどのように判断するのでしょうか。本記事では、相続・事業承継を専門とする税理士法人ブライト相続の竹下祐史税理士、天満亮税理士が、このようなお金のやりとりを「貸付金」として処理した場合、「贈与」と比べてどのような違いがあるのか、そのメリット、デメリット等について説明します。

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「贈与」と「貸付金(貸し借り)」の明確な違いとは

ご親族の間でお金の受け渡しが行われた場合、大きくこれは「贈与」と「貸し借り」とに分かれます。もちろん、ご本人同士がどういった意思・ご認識でこの受け渡しが行われたかによって処理が変わります。

 

贈与の定義については、この連載の第1回で解説をしましたが、「自分の財産を相手に無償であげること」をいいます(関連記事『孫のために…で課税!? 赤ちゃんへの「贈与」が認められないワケ』参照)。

 

贈与が成立するためには、財産をあげる側ともらう側の両方が「あげる」、「もらう」という意思表示があることが条件となります。

 

一方貸付金(貸し借り)とは、将来返済されることを約束したうえで資金を貸し付けることをいいます。貸した側は、資金は減りますが、同額の債権が財産として残ります。借りた側は、資金が増えますが同額の債務(返済義務)を負うことになります。

 

では、贈与と貸付金(貸し借り)について、少し見方を変えてご説明します。贈与を行うと、財産が贈与者(あげる側)から受贈者(もらう側)に完全に移転しますので、将来贈与者がお亡くなりになった際に、対象となる財産は遺産には含まれず、遺産分割協議(遺産を分けるお話し合い)の対象外となります(特別受益に該当する場合を除く)。

 

逆に貸付金については、前述の通り、債権が財産として残りますので、贈与者(あげる側)がお亡くなりになった際に、その未返済の部分が遺産として分割協議の対象となります。いい換えるとこの貸付金(債権)について、借りていた方以外の相続人も権利が生じる可能性があります。他の相続人の方が遺産として貸付金(未返済の部分)を取得した場合には、借りていた方はその相続人に返済する義務が生じることになりますので、ご注意ください。

贈与と貸付金で税金はどのように変わる?

次に、親族間の貸付が行なわれた場合、どのような税金が発生するのか、贈与と比べてどちらの方が有利なのかを見ていきます。

 

ご親族間でお金の受け渡しを貸付(貸し借り)として処理した場合、その瞬間には贈与税を含めて一切の税金は発生しません。この点、贈与と大きく違うメリットです。ただし、貸していた方が亡くなられて、未返済の部分がある場合には、これが亡くなられた方にとっての債権として相続税の対象となってしまいます。

 

例えば、ご親族間での2000万円のお金の受け渡しが行われた場合、これを贈与として処理する場合と、貸付として処理する場合とでどのように税金が変わるのかを比べてみます。

 

(1)贈与として処理する場合

暦年贈与(相続時精算課税制度を使わない通常の贈与)としての処理した場合の税金(贈与税)は以下の通り計算されます。

 

(2000万円-110万円)×45%-265万円=585万5千円

※祖父母や父母から、贈与した年の1月1日時点で20歳以上の子・孫への贈与の場合

 

非常に多額の税金ですね。贈与した金額のうちの1/4以上が贈与税として持っていかれてしまうことになります。

 

(2)貸付として処理する場合

2000万円の貸し付けが行われ、これが未返済のまま残った状態で貸された方がお亡くなりになってしまった場合、この未返済部分について相続税の対象となります。

 

相続税は財産の規模、相続人の人数によって適用される税率が変わります。財産の規模が大きいほど、相続人の人数が少ないほど、税率は高くなります。

 

例えば相続税の税率が10%の場合、貸付金にかかる相続税は以下の通りとなります。

 

2000万円×10%=200万円

 

上記(1)贈与よりも少ない税金となります。

 

例えば相続税の税率が40%の場合、貸付金にかかる相続税は以下の通りとなります。

 

2000万円×40%=800万円

 

上記(1)贈与よりも多額の税金となります。

 

ここまでお読みいただいてお分かりになられたかもしれませんが、ご親族間のお金の受け渡しについて、「贈与」と「貸付」のどちらが有利かは一概にはいえません。受け渡し金額と、お金を渡した側の財産の規模、相続人の人数によって、贈与税と相続税の税率が変わり、それによってどちらが有利かの判定が変わってくることになります。

 

従いまして、多額のお金のお受渡しをされる場合には、事前に渡す側の方の相続税の試算をしたうえで、「贈与」と「貸付」のどちらで処理するかをご検討されることをお勧めします。

 

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貸付金を税務署から贈与といわれないための対策3つ

前述の通り、お金の受け渡しが「貸付金」なのか「贈与」なのかによって税金にも大きな違いが出てきます。

 

「貸付金」として処理する予定が、税務署から「贈与」といわれて意図しない贈与税が課せられないための対策は大きく3つあります。

 

1.「金銭消費貸借契約書」を作成しましょう

2.「返済の履歴」を残しておきましょう

3.「利息の設定」に注意しましょう

 

順番に見ていきましょう。

 

1.「金銭消費貸借契約書」を作成しましょう

ご親族間の贈与について贈与契約書の作成をお勧めしておりますが(こちらのページで贈与契約書のひな形をダウンロードできます)、貸し借りの場合にも同様に、契約書の作成をお勧めします。

 

贈与も貸し借りもご本人同士の意思表示が条件で、必ずしも契約書の作成が絶対条件ではありませんが、将来この資金移動について、税務署や他の誰かから説明を求められた場合には、契約書が残っていればスムーズに証明できるからです。

 

簡易的な金銭消費貸借契約書の見本をご紹介します。シンプルな場合の例ですので、個別事情に合わせてカスタマイズしてお使いください(→見本のDLはこちら)。Google等で「金銭消費貸借契約書ひな形」等と検索して頂ければ、他にも多くのフォーマットが入手できます。

 

なお、貸付金額に応じた印紙の金額は以下の通りとなります。

 

[図表]貸付金額に応じた印紙の金額
[図表]貸付金額に応じた印紙の金額

 

2.「返済の履歴」を残しておきましょう

返済したことが無ければ、必ず贈与とみなされてしまうわけではありませんが、貸付金として主張しているのに、一度も返済の履歴がなかった場合には、そもそも貸し借りだったのか、贈与だったのではないかといわれてしまう余地が生じます。

 

従いまして、絶対条件ではありませんが、貸付であったことを説明しやすくするためにも、返済の履歴を残しておくことをお勧めします。

 

3.「利息の設定」に注意しましょう

利息がないと貸し借りとは認められないのでは、贈与と判定されてしまうのでは、と心配される方もいらっしゃいます。ただし、利息を設定するかしないかは個人の自由ですので、利息を設定していないからといって、お金の受け渡し自体が贈与とみなされることはありません。

 

この点が、前述の「返済の履歴を残しておく」こととの大きな違いですね。ただし、元々の貸付金額が多額である場合、仮に利息を設定していたら払われていたはずの金額が払われなかった(免除された)ことになりますので、この免除された利息部分が贈与とみなされるケースがありますので注意が必要です。

 

税務署の通達には、親族間の貸し借りに関する利息について次のように記載されています。

 

『相続税法基本通達9-10

夫と妻、親と子、祖父母と孫等特殊の関係がある者相互間で、無利子の金銭の貸与等があった場合には、それが事実上贈与であるのにかかわらず貸与の形式をとったものであるかどうかについて念査を要するのであるが、これらの特殊関係のある者間において、無償又は無利子で土地、家屋、金銭等の貸与があった場合には、法第9条に規定する利益を受けた場合に該当するものとして取り扱うものとする。ただし、その利益を受ける金額が少額である場合又は課税上弊害がないと認められる場合には、強いてこの取扱いをしなくても妨げないものとする。』

 

難しく書いてありますが、要するに、「夫妻、親子、祖父母と孫などの関係がある方たちの間で、無利子の金銭の貸し借りがあった場合には、この免除された利子分の贈与があったものとして取り扱います。ただし、金額が少額である場合などは、この取り扱いをしなくても良いですよ」といっています。

 

では、この「少額」とはいくらのことをいうのでしょうか。これについて税務署は明確なルールを定めていません。

 

ここから先は私見で絶対とはいえませんが、私が立ち会った過去の税務調査において、親族間の貸し借りに関する利息分の免除について贈与税を払うよう指摘を受けたことはありません。また上記の「通達」もあくまで税務署側のルールに過ぎず、法律ではありません。利息を設定するかしないかは個人の自由でもありますので、こちらもあくまで私見ではありますが、親族間の貸し借りに必ずしも利息は設定しなくてもよいのではと考えます。

 

ここまでで、親族間のお金の受け渡しについて、「貸付金(貸し借り)」として処理する場合、「贈与」として処理する場合の違いについてご理解いただけたかと思います。それぞれの処理をする場合の注意点も書かせて頂きました。

 

税務上どちらが有利かを判定するために、まずは相続税の試算からはじめられることをお勧めします。

 

 

竹下 祐史

税理士法人ブライト相続 税理士

 

天満 亮

税理士法人ブライト相続 税理士

 

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本連載は、「贈与のススメ」の記事を抜粋、一部改変したものです。

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