少子高齢化による人材不足、経営環境の変化など様々な問題の影響により、会社の事業承継で頭を抱える経営者が増えています。一方、事業承継の方法として年々増加傾向にあるのが、M&Aです。本連載では、事業承継を控える経営者に向けて、M&Aの基本を紹介していきます。今回は、会社売却交渉の基本的な流れを見ていきましょう。

「売れる会社」と「売れない会社」、どこが違う?

M&A市場では買手が売手を選ぶ立場なので、売れる会社じゃないと選んでもらえません。では、どんな会社が売れるのでしょうか? 売れる会社と、売れない会社の特徴をピックアップしましたので、自分の会社と比較してみてください。

 

■売れる会社の5つの特徴

売れる会社は以下5つの特徴があります。

 

① 黒字である(3期以、赤字になっていない)

② 堅実な経営をしている(粉飾決算などがない)

③ 会社の価値を影響する簿外負債がない

④ 負債への返済は売上から返済ができる(負債金額は年商以内である)

⑤ 事業拡大ができる見込みがある

 

(2)売れない会社の特徴

逆にいえば、上記売れる会社の特徴を持っていない会社は、売れにくい会社といえるでしょう。

会社の売却方法によって「課税方法」は異なる

会社を売ったときの税金について、気になる経営者も多いでしょう。会社の売り方によって、税金の課税方法は異なります。

 

(1)株式譲渡時の税金

株式譲渡の場合、売手が「個人」なのか、「法人」なのかによって税金の種類が異なります。

 

①売手が個人の場合

売手が個人の場合、売却代金から諸経費を差し引いた譲渡所得に対して

所得税:15%

住民税:5%

合計「20%」に、復興特別所得税の2.1%をプラスして課税されます。

 

②売手が法人の場合

売手が法人の場合、譲渡所得に対して約30%の法人税が課税されます。

 

(2)事業譲渡時の税金

事業譲渡の場合、「法人税」と「消費税」と2つの税金が同時に課税されます。

 

①法人税の場合

純資産を超える譲渡金額分に対して課税されます。

②消費税の場合

営業権や有形資産など課税資産に対して課税されます。

会社売却の第一歩は、M&Aの仲介会社との契約から

会社を売る時の流れをみていきましょう。大きく以下のステップがあります。

 

(1)提携仲介契約の締結

会社を売る最初のステップは、M&Aの仲介会社と契約を締結することからスタートします。提携仲介契約には一般的に下記の内容が記載されています。

 

●仲介会社の業務内容

●着手金・成功報酬などの手数料

●契約の期間

 

なお、M&Aは高いスキルとノウハウが必要になりますので、契約の前に複数社に相談をしてから決めるようにしましょう。

 

(2)企業概要書の作成

提携仲介契約を締結後、仲介会社の担当者は売手会社について

 

●業務内容

●財務内容

●ビジネスモデル

●負債

 

など徹底的に調査し、会社の事業概要や財務内容をまとめた紹介資料を作ってくれます。これをM&A業界では「案件化」と呼びます。いい資料を作ってもらうには、できる限りの書類を準備するようしましょう。準備する書類は、以下のようなものが挙げられます。

 

●過去3期分の決算書・税務申告書類

●直近6ヵ月の試算表

●退職金など簿外債務を整理する

●会社所有不動産があった場合、その不動産に関連する書類

 

(3)トップ面談

今のM&A市場においては、売手に対して買手が多いのは実情ではありますが、交渉は2〜3社と絞るといいでしょう。スムーズに交渉を進めるに、経営者同士の面談は非常に大事です。トップ面談では、

 

●相手の会社の経営者はどんな人なのか

●自社に相応しい会社なのか

●経営者から感じる会社の雰囲気

 

など、経営者がお互い見極める場です。トップ面談では、仲介会社の担当の進行で大きく以下の流れで行います。

 

① 買手の社長より、会社の概要説明、買収の希望、買収後どのような会社にしたいなどの挨拶をする

② 売手の社長より、会社の歴史、アピールポイント、会社を売る理由など挨拶をする

③ 質疑応答

④ 現地視察する場合はその日程調整

⑤今後のスケジュールの確認など

 

(4)条件調整

トップ面談で気に入った会社があれば、成約を前提に、担当者より細かい条件調整に入ります。買手会社の事務レベルの担当者が、財務内容・ビジネスモデル・技術・営業・社員などの詳細を検討し、最終的に投資可能な金額、追加投資額など細かく検証していきます。その検証結果を持って、仲介会社の担当者と以下のような条件調整を行っていきます。

 

●株式譲渡、事業譲渡など売却方法を決める

●大まかな買収価格を決める

●経営者はそのまま残るかなどの処遇

●役員・社員の引き継ぎ条件

●引き渡し時期など契約時期を決める

 

(5)基本合意契約の締結

条件が整ったら、「基本合意契約」を締結します。ここからは独占交渉権の権利が発生し、基本的には1:1の交渉になります。基本合意契約には、以下のような内容が記載されています。

 

●譲渡金額など大まかな条件

●契約予定日

●独占交渉権

●基本合意契約の有効期限

●法的に拘束される範囲

●買取監査に関する内容

 

(6)買取監査(デューデリジェンス)

基本合意契約を締結したあと、最後の山場といわれる監査法人による「買取監査」に入ります。買収監査では、弁護士、公認会計士などの専門家が、売手会社の調査を行います。一般的な調査項目は会計財務ですが、業種によって法務、ビジネスによる買取監査が実施される場合もあります。

 

買取監査では、可能な限りリスクを洗い出し、買手側からの指摘に対して素早く対応するなど、仲介会社の担当者の腕の見せ場ともいえます。実際に弁護士や公認会計士が売手会社に赴き、多くの資料のやり取りが発生しますので、情報漏えいなどのリスクも出てきます。従って、短期間で買取監査を終わらせるために、事前に下記の準備をしておきましょう。

 

●会計事務所に基準日現在の試算表、内訳明細書を作ってもらう

●買取監査前日までの通帳の記帳を済ませる

●基準日現在の定期預金などの残高証明を出してもらう

●生命保険を加入している場合、保険会社に基準日現在の解約返戻金の金額を出してもらう

●株や不動産などの権利書を用意する

●総勘定元帳、補助元帳をすぐに確認ができるよう用意する

●株主総会議事録、取締役会の議事録を確認できるように準備する

●小切手、手形帳などすぐ確認ができるように用意する

 

なお、会社を売却したあとの運営体制統合戦略などについても、このタイミングで条件をすり合わせながら検討します。

 

(7)最終契約

買取監査が無事終わり、晴れて最終契約を迎えることになります。最終契約では、契約書の調印と同時に、法律に定められた一定のプロセスを踏む必要があります。以下にて、最も多い株式譲渡のクロージングのステップ例を紹介します。

 

① 取締役会に事前に株式譲渡の申請し、取締役会がそれを承認し、「譲渡承認書」を交付する

②「株式譲渡契約書」を締結する

③ 買手会社から譲渡代金を受領する

④ 買手会社に譲渡代金と引き換えに株券を引渡すのと同時に、社印、通帳などの貴重品も引渡す

⑤ 買手会社から取締役会に株券と名義書換申請書を提出する

⑥ 新しい株主名簿を作成する

⑦ 臨時株主総会を招集する

⑧ 臨時株主総会で新しい役員の選出をする

⑨ 取締役会を招集し、新しい代表取締役を選任してから、代表印などの登記を行う

 

なお、M&Aでは、通常の「株式譲渡契約書」にプラスして、万が一会社を売ったあとに知らなかった簿外債務が出てきたなどのリスクを回避するため、「表明と保証」という条文が存在します。難しい文章が並んでいますが、要はウソをつかなければ問題はありません。

 

クロージングが終わったら、社員や取引先、銀行への開示を行います。契約後なるべく早いタイミングで、代表から伝えるようにしましょう。その際に、なぜ会社を売ることにしたのか、会社や社員の将来がどうなるのかを正確に伝えることが大切です。

 

 まとめ 

今回は会社を売るときの大まかな流れをまとめました。

 

ひと昔前は、会社を売ることなど考えられないとする経営者が多くいました。しかし今では会社がプラスになるのであれば、M&Aを検討する経営者がかなり増えています。 せっかく努力して育てた会社だからこそ、もっともっと大きくなってほしい、もっともっと成長してほしい――。そう願うのであれば、会社のために、社員のために、会社を売ることを前向きに検討してみてはいかがでしょうか。

 

 

 

本連載は、株式会社エワルエージェントが運営するウェブサイト「M&A INFO」の記事を転載・再編集したものです。今回の転載記事はこちら

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