本連載では、円満相続税理士法人の橘慶太税理士が、専門語ばかりで難解な相続を、図表や動画を用いてわかりやすく解説していきます。今回は、相続税の連帯納付義務について見ていきます。

相続税の納付は、相続人の連帯義務

本来、相続税の支払いは相続人が一人一人、それぞれ自分で納めるものです。しかし、一方の相続人は期日までに支払いを済ませても、もう一方の相続人が税金を支払わなかった場合、その支払いは、期日までに支払いを済ませた相続人に求められます。これを「相続税の連帯納付義務」といいます。

 

インターネットで検索すると、連帯納付義務について詳しく解説をしているブログはたくさんありますが、すべて教科書通りのことしか書いてありません。「連帯納付義務は納税するまで続く」とか「連帯納付義務からは逃げられない」とか…もちろんこの解釈で間違いないのですが、実際に、実務上の大切なポイントは、そのような教科書的なことではなく、「連帯納付義務の督促を拒否した場合、だれの財産が差押えられるのか?」ということです。

 

今回は、弁護士からよく質問される、相続税の連帯納付義務を拒否した場合について解説していきます。

 

具体的な説明に移る前に、ひとつお断りをすると、今回の記事のテーマは、その根拠は明文化されていません。筆者が国税庁の複数の方から聞き取りをした内容をまとめたもので、内容について絶対的な保証があるわけではありませんが、複数人に同じ質問をして同じ答えが返ってきたので、信憑性は高いものです。

 

それでは、本題に入ります。まず、相続税を滞納した場合、差押えまでの流れを簡単に説明します。

 

1.滞納をしている本来の納税者に督促状が届きます

→それでも支払いをする様子がありません

 

2.連帯納付義務にもとづき、他の相続人に督促状が届きます

→その支払いを拒否したとします

 

3.財産の差押えの手続きに移ります

 

この時に重要なことが、財産は本来の納税義務者から差し押さえられるのか、他の相続人から差し押さえされるのかということです。なぜ重要かというと、仮に本来の納税義務者から差し押さえてくれるのであれば、他の相続人は連帯納付義務の督促がきても、それを拒否すればよいということになるからです。

 

本来は、連帯納付義務に基づいて他の相続人が税金の肩代わりをしてあげれば、本来の納税者は、お金を返すのが筋ですよね。しかし、税金の支払いも困難になっている状況なので、その親族にお金を返す可能性は低いといえます。そのことから、できるだけ肩代わりはしたくないと思うのが人情です。

差押えは本来の納税者からだが……

差押えは誰から行うのか、国税庁の人にきいたところ、

 

「まぁ、そりゃあ、本来の納税者から差押えるだろうねぇ」

 

とのことでした。ホッとひと安心ですね。しかし話は続きます。

 

「でも本来の納税義務者に差押えする財産がない場合や、不動産ばっかりで換金しづらいときは、連帯納付義務者の財産を差し押さえるだろうね」

 

この「換金しづらい」という部分は、言い換えると、差押えしづらい」ということです。預金などは、簡単に差押えできると思いますが、不動産などはなかなか難しいでしょう。この判断は、実際に差押えの手続きをする国税庁の職員の判断になるので、必ず本来の納税者から差し押さえられるわけではないので注意してください。

財産の差押えに対する、取るべき対策は2つ

1.本来の納税者に相続税を払えるお金があるのに、払おうとしない場合

理由はわかりませんが、支払い能力がありながら、納付しない方は結構います(深い理由があるのだと思いますが)。話を聞いてみると、下記のような答えが返ってくることがあります。

 

「私が税金払わないと、他の相続人が払うことになるんでしょ!? あいつらを困らせたいから、私は税金払わないわ!」

 

もしこのような場合には、次のように答えましょう。

 

「確かに督促状は他の相続人に届きますが、他の相続人が支払いを拒否した場合、あなたの財産から差し押さえされますよ。それでもいいのですか?」

 

そうすると、次のようになります。

 

本来の納税者さん「そうなの? それだったら今すぐ払うわよ」

 

2.本来の納税者に相続税を払うだけのお金がない場合

この場合のほうが、事態は深刻です。なぜなら、本来の納税者が相続税を払わない場合には、その支払いは最終的に連帯納付義務者に迫られるからです。

 

そもそも論ですが、相続税は、相続する財産の金額に比べれば、はるかに少なくなります。したがって、理論上は、相続した財産から支払えばいいので、納税できないということはないはずです。しかし、もし相続した財産が不動産だけであったら、その支払いは不動産を売却するか、延納や物納という方法をとらなければなりません。こういったことが絡むと、連帯納付が実行される可能性がでてきてしまいます。

 

そのことから、本来の納税者が「相続税を払わなそう」「払えなさそう」と感じたのであれば、初めから、「最終的には自分たちが、その人の相続税を負担しなければならない!」という前提で話を進めた方が得策です。

 

たとえば、遺言の内容を一部変更(相続人全員の合意が必要です)して、不動産だけを相続させるのではなく、相続税を負担できるだけの金銭も、その相続人に相続させることが考えられます。

 

 まとめ 

連帯納付義務の本来の趣旨は、相続税を円滑に徴収することにあります 。ただ、税金をちゃんと支払っている納税者からすれば、他の納税者の税金まで払わなければいけないのは納得がいきませんよね。

 

最終的に、連帯納付を拒否した場合に、どのような順番で差押えされるのかということが明確にされていけば、世の中から相続争いが少しは減るのではないでしょうか。

 

 

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