「金融商品投資」を行うときは何を判断基準とすべき?
◆目標運用利回りの決定
金融商品への投資を行う場合、目標運用利回りを設定しておくことが必要です。たとえば、自らの生涯目標を設定し、それを達成するための資産が不足しているのであれば、高い目標利回りの商品に投資することが必要になります。ただし、高い目標運用利回りを必要とする場合であっても、自らのリスク許容度を考慮し、リスクとリターンのトレードオフの観点から、その可否を判断しなければなりません。
そのためには、ライフイベント表と個人キャッシュ・フロー表の作成が不可欠です。将来の収入と支出の予測を行い、金融商品投資によって、資金不足に陥ることがないように、目標運用利回りを慎重に設定する必要があります。
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目標運用利回りを設定する際には、リスク許容度も測っておく必要があるでしょう。リスク許容度とは、自らが負担可能な「金融商品投資に伴うリスクの大きさ」のことをいいます。
通常、投資期間がリスク許容度を決定する最大の要因になります。投資期間を長期化すれば、目標運用利回りの達成確率は高くなります。株式に長期投資すると、短期投資に比べ収益のふれ具合が小さくなり、安定的な収益を得ることができます。
過去40年間について東京証券取引所1部上場銘柄全体の投資収益(年当たり)を投資期間別にみても、1年投資の場合は最高72.1%、最低-24.8%であり、その開きは96.9%にも及んでいますが、30年保有すると最高12.8%、最低6.8%であり、その開きは僅か6.0%となります[図表1]。
◆リスク許容度の決定
リスク許容度を測定する際には、相場が下落した場合どの時点で損切りを行うか、明確にしておく必要がります。つまり、どの程度の投資損失が発生したときに、資産運用を中止しようと考えるのかということです。リスク許容度に影響を与える要因を整理すると以下のようになります。
たとえば、40歳の資産家の方が、老後の生活資金として2億円が必要であると考え、現在所有する5,000万円を運用するとともに、今後、積み立てることができる金額が月20万円であるとしましょう。
この人が60歳までに積み立てる資金の合計額は、20万円×12カ月×20年=4,800万円です。これらによって60歳のときに2億円の老後生活資金を作りたいとすると、期待リターンの組み合わせの例としては、当初の5,000万円は税引き後利回り5%、今後の積立ては税引き後利回り3%で複利運用されていけば、60歳になった時点で利息を足し合わせて2億円という目標を達成することが可能となります。
ただし、5%という利回りで運用するためには、それに応じたリスクを取らなければなりません。また、給与所得や保有資産の規模、住宅ローンなどの負債依存度、投資の経験などによって、リスク許容度も異なってきます。もし5%に見合うリスクが取れないのであれば、消費支出を10万円節約して毎月の積立額を30万円に増やしたうえで、すべての資金を3.2%で運用することができれば2億円の目標を達成することができます。
相続税は重い!不動産への組換えを考えよう
◆金融資産を不動産に変えることで節税できる
金融資産家の相続税対策は、不動産投資が基本となります。これは、地主向けの相続税対策と同じく、土地や建物の相続税評価を活用した財産評価引下げ手法です。
たとえば、生前に1億円の土地を取得すれば、その土地の相続税評価はおよそ8割の8,000万円程度になります。現金が1億円減って取得する資産は8,000万円しか増えませんから、財産評価は確実に2,000万円低下するというわけです。これは、相続財産の評価においては、金融資産はその額面金額のまま評価されるのに対して、土地の場合は、路線価方式または倍率方式で評価されるからです。路線価は実勢価格をもとに算出された「公示価格」のおよそ80%前後で評価されるため、その差額が財産評価の低下となり、結果として税負担の軽減につながるのです。
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また、不動産を賃貸することで、さらに評価を引き下げることができます。たとえば、路線価を実勢価格の80%、借地権割合を60%とすると、購入した土地を賃貸アパートの敷地とすればその土地の相続税評価は6,560万円(=1億円×80%×(1-60%×30%))となり、財産評価はさらに1,440万円低下します。これは、更地に賃貸アパートを建てると、その敷地の評価が自用地から貸家建付地へ変わるからです。
さらに、相続時に賃貸経営を承継すれば、小規模宅地等の特例を適用することができますから、200㎡以内であれば、その土地の相続税評価は、一気に3,280万円(=6,560万円×(1-50%))まで引き下げられることになります。これによって相続財産の評価を大きく引き下げることができ、税負担を軽減させることができます。
不動産購入のための資金が手持ちの金融資産ではなく、借入金によって調達した現金であっても、同様の効果があります。借入金は債務控除として相続財産からマイナスされるからです。
また、建物を建てることによっても相続税対策を行うことができます。これは、手持ちの現金で建物を建築すれば、取得価額から固定資産税評価額へと相続税評価を引き下げる(約50%)ことができることに加えて、建物を賃貸にすると、借家権(30%)に相当する評価が引き下げられるからです。たとえば、1億円をかけて建物を建てた場合、固定資産税評価額は5,000万円となることに加えて、借家権割合30%が減額されるため、相続税評価は3,500万円となります。
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以上のように、土地と建物をそれぞれ1億円で購入し、トータル2億円の金融資産を不動産に転化させた場合、相続税評価は土地が3,280万円、建物が3,500万円のトータル6,780万円まで減額され、評価を6割以上引き下げることができます。その結果、仮に相続税率が50%であれば、3,390万円の節税を実現することができます。
◆不動産のリフォームを行う
金融資産家であっても、金融資産に加えて不動産も併せて所有しているケースが多いでしょう。そのような場合、自宅や賃貸不動産のリフォームを実行すれば、金融資産を減らすことができます。相続財産の評価においては、自宅をリフォームのために支出した場合であっても、その評価額が上がることはありません(大規模改修を伴わないリフォームの場合)。
また、賃貸不動産のリフォームは、将来の家賃収入の増加(または減少の抑制、空室率の改善)を通じて資産価値を高めることができます。つまり、資産価値を高める一方で相続税評価を引き下げることができ、結果として税負担の軽減につながるという仕組みです。つまり、将来収益力という財産には相続税は課されないのです。
ただし、増築を伴うリフォーム、大規模改造等明らかに建物の資産価値のアップにつながるようなリフォームは、固定資産税評価額の上昇につながることがあります。たとえば、用途変更のための模様替えなど改造や改装に直接要した金額や、建物の避難階段取り付けなど物理的に付け加えた部分については資本的支出とみなされ、投資額の一部が固定資産税評価額に反映されることがあります。
リフォーム資金が借入金によるものであっても同様の効果があります。借入金は債務控除として相続財産からマイナスされるからです。金融資産を不動産の価値に転化するリフォームを行うことは、効果的な相続税対策となるのです。
岸田 康雄
国際公認投資アナリスト/一級ファイナンシャル・プランニング技能士/公認会計士/税理士/中小企業診断士