「アクティブ型」の投資信託はコストが高すぎる
投資信託のなかでも、「テーマ型」と呼ばれ、ロボットやAIなど注目を集める銘柄を集めて投資するアクティブ型ファンドは人気があります。
しかし、これらアクティブ型ファンドの信託報酬は、2%前後と非常に重いものです。運用コストが極めて高い商品ですが、高い利回りを期待する一般の投資家は、それに気がついていません。高い信託報酬を継続的に取られてしまいますと、長期的な運用利回りは低くなります。
もちろん、投資信託ですから、複数銘柄への分散投資効果(ポートフォリオ効果)によって、長期安定的な運用を行うことができるメリットがある点はインデックス型ファンドと変わりません。しかし、毎年1%~2%という重い運用コスト負担は、複利効果を通じて、投資家に莫大な損失をもたらします。
たとえば、アクティブ型投資信託で10年間運用することをイメージしましょう(わかりやすくするために、購入時から売却時まで基準価額が変わらないものとします)。購入時の手数料3%と毎年2%という重い信託報酬の10年分、すなわち20%(=2%×10年)が取られることによって、▲23%の損失が確定します。10年間運用するだけで、資産の2割を失ってしまうのです。これでは、個別の投資対象の株価がどれだけ上昇しても、投資信託から大きな利益を得ることは難しいでしょう。
具体的に計算しましょう。仮に1億円を投じて、株式対象のアクティブ型ファンド(利回り5%)を購入するとします。仮に信託報酬がゼロであれば、20年間運用しますと、そのファンドは約2億5千万円まで増加します。
しかし、信託報酬1%の場合には約2億1千万円、信託報酬2%の場合には約1億7千万円までしか増えません。結果として、20年間トータルの差額は、4千万円から8千万円です。これは莫大なコストを金融機関に取られているということを意味します。
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信託報酬が高く設定されるのは、金融機関の収益を増やすためです。3%という売買手数料を取り(不動産売買も同じですが)、毎年1%~2%もの高い信託報酬を取る、それが資産運用ビジネスです。
金融機関が、一等地に店舗を構え(その家賃の高さを想像してください)、豪華な内装を施し、大勢の従業員に高給を与え続けられているのは、お客様が高い手数料と信託報酬を払い続けているからです。
金融機関に運用を一任できる「ラップ口座」も要注意!
最近流行りの「ラップ口座」という商品も同様です。これは、金融商品の運用管理を金融機関に一任する仕組みであり、商品売買の都度に手数料を取られるのではなく、資産残高に対して一定の手数料を支払う契約です。この「ラップ」は、「包む」という意味の英語から来ており、運用と手数料が一まとめにされていることを意味しています。
確かに、ラップ口座であれば、投資する金融商品を組み替えても売買手数料がかからず、安上がりになるように見えます。また、サラリーマンなど本業に忙しくて資産運用まで考える時間がない、運用方針を考えることが煩わしい、信頼できる専門家に運用を任せたいという方々には適した商品といえましょう。
しかし、ラップ口座には、信託報酬に加えて口座管理料などが上乗せされ、運用コスト負担は極端に重くなっています。
たとえば、1億円をラップ口座に預けると、年率2%つまり毎年200万円ものラップ口座管理手数料が取られます。これに加え、ラップ口座内で投資された金融商品にも手数料や信託報酬が取られています。
ラップ口座で運用する投資対象が、ETFと個人向け国債のような良心的な金融商品であればいいでしょう。しかし、運用会社に丸投げしていると、外国株式、REITなど信託報酬の高い投資信託を好き放題で組み入れられてしまい、年率1%以上の信託報酬を取られることになるはずです。そうすると、年間トータルで3%(=2%+1%)は金融機関に取られることを覚悟しなければなりません。
つまり、ラップ口座は毎年▲3%のマイナス利回りが確実な金融商品です。3%を超える株価上昇がなければ、運用資金は減る一方です。ラップ口座には投資対象として検討する余地がまったくありません。すでにラップ口座で運用されている方は、今すぐ解約すべきでしょう。
このような現実にもかかわらず、高齢の資産家のお客様は、お任せ運用にメリットを感じ、身近な証券営業マンからいわれるがままラップ口座を契約しています。しかし、彼らはお金に困ることがない富裕層であるため、運用コストの無駄遣いをまったく気にしません。資産運用で損失が出ても、お金が増えなくても、日常生活に影響がないためです。
投資家が適切な資産運用を自ら判断せず、他人に判断を委ね、自分の持つお金を証券営業マンに丸ごと見せた時点で、金融機関の「いいカモ」になっているのです。
最近、このようなラップ口座に、相続の遺言代用信託を組み込んだ商品が大手金融機関から販売されています。筆者が繰り返し主張しているように、相続のタイミングでは、金融商品から不動産へと投資対象を組み替えなければいけません。
しかし、遺言代用信託が組み込まれたラップ口座は、相続のタイミングまで金融商品での運用を強要し、重い相続税負担を強いるものです。親子間を通じた運用利回りは、相続税支払いを通じて、確実にマイナスとなります。これは史上最低の金融商品だといっても過言ではないでしょう。
岸田 康雄
島津会計税理士法人東京事務所長
事業承継コンサルティング株式会社代表取締役 国際公認投資アナリスト/公認会計士/税理士/中小企業診断士/一級ファイナンシャル・プランニング技能士