金融庁による報告書に「要は老後2,000万円足りない」と読める内容があったというマスコミの報道を受け、資産形成を提案する金融サービス業は大いに盛り上がっています。しかし、老後に備えた貯蓄・日々の収入の補充など、目的ごとに「最適な資産運用の方法」は異なるため注意が必要です。そこで本記事では、岸田康雄公認会計士/税理士が、ニーズに沿った「お金の増やし方」を解説します。

老後2,000万円の資産形成に「預金」は効率が悪すぎる

老後の生活費が年金だけでは足りず、自己資金2,000万円を確保しなければいけない事実が巷を騒がせています。65歳より年金給付を受けとるまで、働き続けることを想定しましょう。そのときまでに2,000万円を貯めなければいけません。

 

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銀行預金でコツコツと2,000万円を貯蓄することも可能でしょう。しかし、利回りがほとんどゼロに近いため、資産形成の手法として効率的ではありません。そこで、効率的な資産形成の方法として、株式投資を考えます。長期的には上場企業の株価は上昇します。早い段階から資産形成を行うのであれば、長期的に株式へ投資することを考えるべきでしょう。

 

◆個別株式の購入

 

株式投資は、株式会社への出資です。これは会社が存続する限り払戻しされません。したがって、株主が株式を換金しようとするときは、株式市場で売却することになります。上場株式を売却する場合、原則として、売買成立日から起算して4営業日に決済(受渡し)が行われ、現金化することができます。

 

株式投資は、将来性のある企業、価値ある商品・サービスを提供している企業に出資し、利益を得ることを目的とするものです。キャピタル・ゲイン(株価の値上がりによる売却益)だけでなく、インカムゲイン(配当金)や株主優待なども利益となります。しかし、発行体の経営破綻や株価の値下がりによって投資回収ができなくなるリスクを伴うため、投資対象となる株式会社の状況を常に把握しておかなければなりません。

 

株価を決める最大の要因は、発行体が稼ぐキャッシュです。つまり、キャッシュ・フローが増える会社の株価は上がり、キャッシュ・フローが減る会社の株価は下がるのです。

 

理論的には、投資家(現在の株主と将来の株主)は、株式の市場価値が自らの考える価値より低ければ株式を買い、高ければ株式を売って利益を得ようとします。また、株式の理論的な価値は、その株式が生み出す将来キャッシュ・フローの割引現在価値の合計として計算されます。

投資信託、ETF…各々の「購入目的」を明確にすること

◆投資信託(ファンド)の購入

 

「投資信託(ファンド)」とは、投資家から集めた資金をひとつの大きな資金としてまとめ、運用の専門家が株式や債券などに投資・運用する商品であり、その運用成果が投資家それぞれの投資額に応じて分配される仕組みの金融商品です。集めた資金をどのような対象に投資するかは、投資信託の運用方針に基づき専門家が決定します。

 

投資信託の運用成績は、市場環境などによって変動します。投資信託の購入後に、運用がうまくいって利益が得られることもあれば、うまくいかず損失を被ることもあります。つまり、株式と同様、投資信託での運用には価格変動リスクが伴い、元本は保証されていません。

 

[図表1]投資信託のリスクとリターン
[図表1]投資信託のリスクとリターン

 

投資信託の1日当たりの取引価格のことを基準価額と呼ばれ、投資家が投資信託を購入・換金する際は、基準価額で取引が行われます(1日1円で運用が開始された投資信託は、1万口当たりの基準価額が公表されます)。

 

また、投資信託の資産のうち、投資家に帰属する額を純資産総額といい、この純資産総額を投資信託の総回数で割ると、1回当たりの基準価額が算出されます。

 

上場株式は市場が開いている間、刻々と株価が変動し、その時々の株価で売買が可能です。これに対して、一般的な投資信託の基準価額は、投資信託が組み入れている株式や債券などの時価に基づいて計算され、1日に1つの価額として公表されます。これが基準価額です。この基準価額で、投資信託の購入や換金が行われるのです。

 

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投資信託を購入した投資家は、購入した時点での基準価額よりも換金時の基準価額が高ければ利益を得ることができます。また、投資信託が株式や債券で運用して得た収益が分配されれば、その分配金が投資家の利益となります。分配金は、投資信託の信託財産から支払われるため、分配金が支払われると、当然ながら、純資産総額及び基準価額は下落することとなります。

 

追加型株式投資信託の場合、収益分配金は、個々の投資家の購入時の基準価額(個別元本)に応じて「普通分配金」(利益の分配)と「特別分配金」(元本の払戻し)にわけられます(近時人気のあった「毎月分配型」と呼ばれるタイプの商品のほとんどは特別分配金でした)。

 

投資信託は、原則としていつでも換金の申込みが可能です。ただし、日々決算型(MMF、MRFなど)以外の投資信託の場合、換金の中込みをしてから実際に口座に現金が振り込まれるまで、国内のもので4営業日、海外のものでは5営業日かかります。投資信託の運用に係る主な費用は、購入時に販売会社に支払う購入時手数料と、運用中に信託財産から間接的に負担する信託報酬です。

 

個別のファンド選びを行う際に気をつけたいことは、購入目的をはっきりさせ、その目的にあったタイプのファンドを購入することです。購入目的として想定されるのは、①老後に備えるなど長期的に資産を増やすこと、②現在の収入を補充するため安定した分配金を得ること、③余裕資金を運用することなどでしょう。これらの目的によって、保有期間が決まり、それに適したファンドのタイプが決まってきます。購入目的をはっきりさせることは資産運用の効率性を高めるために極めて重要なことなのです。

 

老後に備えるなど長期的に資産を増やすことを目的とする場合、保有期間が10年〜20年など長期となり、途中で分配金を受け取る必要はないため、株式型投資信託が適当でしょう。なぜなら、株式は、配当金は不確定で短期的には値下がりもあるものの、長期的には企業収益の成長等による値上がり益を期待できるため、株式の長期的な利回りは平均して預金・債券より大きくなるからです。アメリカの確定拠出年金(401k)に加入している人々の多くは、数十年単位で株式型投資信託に毎月積立て投資を行っているといわれています。

 

現在の収入を補充するため安定した分配金を得ることを目的とする場合、当然ながら重要なのは分配金です。そのため、利子・配当など定期収入が多く見込める債券や高利回りの株式などで運用され、分配金額や分配回数が多く(毎月分配型など)、値動きが比較的安定しているタイプが適当でしょう。

 

そして、余裕資金を運用することを目的とする場合、いつ引き出すかわからない資金であるため、国債等で運用され、換金性・安全性に優れているタイプがよいでしょう。

 

◆ETF(Exchange Traded Funds)の購入

 

最近はETFの人気が高まっています。ETF(Exchange Traded Funds)とは、証券取引所に上場し、株価指数などの指標への連動を目指す投資信託のことです。市場が開いている間は、上場株式と同じように売買を行うことができ、取引の仕方は上場株式と同様で、「指値注文」や「信用取引」を行うことができます。

 

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代表的な商品として、東証株価指数(TOPIX)に連動するETFがあります。これはTOPIXの値動きとほぼ同じ値動きをするように運用されるため、このETFを保有することで、TOPIX全体に投資を行っているのとほぼ同じ効果が得られます。これは、パッシブ運用の代表的な商品といえるでしょう。

 

近年は、海外の株式や債券、金などのコモディティー、REIT等の指数に連動するものが上場されるようになり、ETFの対象範囲が広がってきています。

 

[図表2]ETFの種類
[図表2]ETFの種類

 

ETFも投資信託であるため、受益者に分配金が支払われます。また、ETFは一般的な投資信託と比較して信託報酬がかなり低くなっています(年率1%未満)。これは、信託報酬のうち販売会社に支払う部分がないこと、インデックス運用なので、企業調査などのコストが抑えられること、現物商品の売買を行う必要がなく売買コストが小さいことによるものです。

 

 

岸田 康雄

国際公認投資アナリスト/一級ファイナンシャル・プランニング技能士/公認会計士/税理士/中小企業診断士

 

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