※本記事は、2019年6月20日に楽天証券の投資情報メディア「トウシル」で公開されたものです。

 

成長株投資と並んでメジャーな投資法である「割安株投資」。でも思っている以上に難しくて注意すべき点も多いのです。

「割安株投資」していますか?

割安株投資とは、PER(株価収益率)やPBR(株価純資産倍率)、配当利回りといった各種指標をもとに、企業実態に比べて割安になっている銘柄を買い、値上がりして適正な株価になるまで保有を続けるという投資法です。

 

例えばPERであれば、銘柄や業種によっても異なりますが、15~20倍が適正水準とされます。これよりもPERが低ければ割安だと判断されます。そういった銘柄を買っていきます。他に、PBRが1倍を大きく割り込んでいる銘柄や、配当利回りが高い銘柄も、割安株として評価されます。

 

筆者の感覚では、個人投資家の多くは成長株よりも割安株に投資する傾向が強いという印象があります。

 

確かに、成長株は大きく株価上昇する可能性もありますが、逆に株価が大きく下落することもあります。そのため、成長株投資はリスクが高いと考える、というのが理由の1つなのでしょう。

 

一方、割安株の場合はすでに株価が割安な状態にあるので、仮にそこから株価がさらに下がっても、たかが知れているという安心感があるかもしれません。

 

しかし、割安株への投資こそ個人投資家は慎重に行う必要があると筆者は考えています。

 

実際に筆者の周りでも、割安株に投資しているはずなのに、多額の含み損を抱えて塩漬け株に苦しんでいる個人投資家の方を目にすることがあります。

その株、本当に「割安」ですか?

最も注意したいのが、割安株を「割安」と思っているのが自分だけかもしれない、という点です。

 

実は、割安株投資は難しいのではないかと筆者は感じています。なぜなら、一見、株価が割安に見えても、実際はそうではないケースが見受けられるからです。

 

例えば、こんな状況を考えてみてください。

 

●株価1,500円、EPS(1株当たり当期純利益)が100円のA社株があったとします。

→現時点では、PERは1,500円÷100円=15倍ですから、決して割高ではないものの、かといって割安とはいえません。

 

●その後、A社株の株価が1,200円まで下落しました。その一方で企業側は業績の予想を変えていません。するとPERは1,200円÷100円=12倍となり、かなり割安な水準となってきました。

→割安株投資をしている個人投資家は、このようにPERが15倍から12倍になり、かつ企業業績にマイナスの変化がないならば、かなり株価は割安になったとして、このA社株に積極的に投資をしていきます。

 

●株価はさらに下落し1,000円になります。A社の業績の予想に特に変化は見られません。

→PERは10倍にまで低下し「さらに割安になった」と買い増しをする個人投資家も少なくありません。

 

でも、この投資行動こそが極めてリスクを伴う可能性があることに、一刻も早く気付く必要があります。

外国人投資家やプロ投資家は、その株を「割安」と思っていない

本記事をご覧の個人投資家の皆さんにお伝えしたい方法の一つが、「別の投資家の立場から考えてみるクセをつける」ということです。

 

株価が値下がりを続けPERが低下してくると、個人投資家はその株が「割安になった」と喜んで買うことでしょう。

 

その一方で、PERがそこまで低くなっているのにもかかわらず、現にその株は売られ続けているという事実にお気付きでしょうか?

 

株価を大きく下げるほど大量の売りを出せる投資家は、外国人投資家や機関投資家(例えば投資信託を運用しているファンドマネージャー)である傾向が多く見られます。

 

ということは、個人投資家がPERなどから判断して「割安」と感じている時に、一方では、株式投資に長け、銘柄分析の能力・精度が格段に高い外国人投資家や機関投資家はその株を「割高」だと判断しているのです。

 

もし、彼らが個人投資家と同様に、株価が大きく下がりPERも低下している株を割安と感じているなら、その株を売却することはないはずです。

 

ですが現実にPERがかなり低くなっているのに株価が下がり続けているということは、彼らが決してその株に対して割安という評価を下してはいないということになります。

PER10倍でも「割高」?

ですので、株価が値下がりしPER10倍になった株を「割安」と判断して買うと、その後は株価が上昇しないどころか、さらにPER9倍、8倍と値下がりを続けていきます。

 

そして最後には、会社から業績予想の下方修正が発表され、さらに株価は大きく下がってしまう可能性も十分にあり得るのです。

 

PER10倍にまで株価が値下がりしたのは、割安になったのではなく、外国人投資家やプロ投資家が、会社が業績予想の下方修正を発表するかなり以前から、その株の業績悪化などを察知し、売却を進めていた結果なのです。

 

念のため申し添えると、株価が割安な水準で放置されているケースも確かにあります。

 

しかし、本当に割安なのか、それとも表面上で割安に見えているだけなのかを個人投資家レベルで正確に判断することは難しいかもしれません。

 

そのため、株価が値下がりしPERが低下した保有株に対して、個人投資家が手放しで喜ぶというのは早計です。

 

そうではなく、外国人投資家や機関投資家はその株を決して割安とは思っていない、だから株価は下落している。この事実から目を背けないようにしましょう。

 

 

足立 武志

足立公認会計士事務所

 

※本記事は、2019年6月20日に楽天証券の投資情報メディア「トウシル」で公開されたものです。

 

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