誤解1:「借金=悪」と思い込んでいる
小さいころ、親や学校の先生などから「借金はダメ」と教えられたような方も多いと思います。とくに日本では、独立独歩で会社を立ち上げる人が諸外国より少ないこともあってか、「借金=悪」というイメージに捉われる風潮が見られます。
さらに道徳的観点や倫理観からだけでなく、「なるべく借入れはしない」ことを前提に、「無借金経営」を推進するような経営本の類も見られます。しかし、世のなかの数多ある会社、経営者を見てもわかるように、借入れによる投資なくして成功しているケースはほぼありません。
例えば、孫正義社長率いるソフトバンクはなんと10兆円を超す有利子負債を抱え、「借金が多い会社」としても有名です。しかし、積極的に推進する海外M&A事業を見ても、決して“博打”感覚で無闇に借入れや投資を実践しているわけでないことは明白です。
孫社長の例は極端としても、規模に関わらず、企業活動とは「資金調達(借金)→投資→回収」のサイクルを上手に回していくことにほかなりません。もちろん、「自分ひとりの生活費程度を稼げればいい」ということであれば、自己資金の範囲内で事業を回していくことも可能でしょう。
しかし、そうであっても、経営が不安定な創業初期は、手元資金を使い切ったところで、アテにしていた取引先が廃業に追い込まれ、売上がゼロになってしまう事態に追い込まれるとも限らないのです。
近年の世界情勢を見ても、例えばリーマンショック後は、どの会社も数年間、売上・利益が大きく落ち込みました。東日本大震災後も、自粛ムードで消費が一気に冷え込みました。自分に落ち度がなくても、未曽有の金融危機やテロなどの地政学的リスク、あるいは異常気象や天災など、事業を揺るがす不確定要素は年々、増加の一途をたどる状況にあります。
では、こうした緊急事態において借入れがゼロで現預金100万円ある会社と、借入れが5000万円あっても現預金が6000万円ある会社では、どちらのほうが存続する可能性は高いでしょうか。
答えは明白で、ハイパーインフレでも来ない限り現金の力は強く、現預金を潤沢に持っている後者の会社に軍配が上がります。明日から売上がゼロになったとしても、そう簡単には潰れないための経営基盤を作る屋台骨こそが現預金の蓄積であり、そのために借入れは不可欠な企業活動の一つなのです。
誤解2:「利息を払うのはムダ」という思い込み
アンチ借金派が「借入れ=悪」と唱えるもう一つの主張が、利息の存在です。つまり、「差し迫った状況でもないのに、融資を受けて利息を払うなんて、お金をドブに捨てるようなものではないか」というものです。
その主張には一理ないわけではないですが、私は「利息=掛け捨て保険」と位置づけています。万が一の事態に備えて自分自身で医療保険やがん保険などの掛け捨て保険に加入している人は多いと思いますが、経営が危うくなった際に保険金が支払われる会社向けの保険というのはなかなかありません。
あえて該当するものを挙げると、「経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済制度)」があります。取引先などが倒産した際に、中小企業が連鎖倒産や経営難に陥ることを防ぐための制度で、無担保・無保証人で掛金の最高10倍(上限8000万円)まで借入れでき、掛金の全額を経費に算入でき、解約時には掛金が全額戻ってくる場合もあるなどのメリットがあります。
しかし、借入れができるのは、正式な倒産手続きが取られたケースに限るため、中小企業で多く見られる“夜逃げ”のような状態では、借入れは認められません。倒産した場合以外の一時貸付金の制度もありますが、実際に貸し付けを受ける際には積み立てた掛金が大幅に目減りするなどのリスクがあります。
また、「利息がもったいない」といっても、低金利時代にあって貸付金利は低水準にあります。例えば公庫であれば1~2%台。1000万円を借りても年間約20万円、月にして2万円程度です。さらに女性、35歳未満か55歳以上といった方ならば1%台から融資が可能(女性、若者/シニア起業家支援資金)です。
認定支援機関の融資アドバイザーのサポートを受ければ、有利な金利での借入れも視野に入ってきます。大事な会社を守るための“転ばぬ先の杖”として活用するならば、利息を払って融資を受けることは「決して高い買い物ではない」と思います。