中小企業経営者の子どもの6割超が「継がない」と回答
少し古いデータになりますが、『2005年版中小企業白書』には、中小企業経営者の子どもたちに「親の会社を継ぎたいか」と尋ねたアンケート結果があります。それによると、49.5%の子どもが「承継するつもりはない」ときっぱり否定しています。「まだ考えていない」(15.7%)という消極的な答えも合わせると、約65%にもなります。中小企業経営者の子どもの3人に2人は親の会社を継がない可能性が高いのです。
なぜ子どもたちが親の会社を継ぎたくないのかというと、「親の事業に将来性・魅力がないから」が45.8%、「自分には経営していく能力・資質がないから」が36.0%で、1位2位を占めています。
実際、事業承継適齢期を迎えている私のクライアントの約半数は、後継者不在の状況です。このデータが示すように子どもがいても子どもに事業承継できない、させられないケースが増えています。
名古屋という土地柄もあって、子どもは自動車関係の大企業や有名企業に勤めていることも少なくありません。親としても子どもがよい給料をもらって安定した暮らしをしてくれるほうが安心だという考えも理解できます。今後の厳しい経営環境を考えると、「自分の会社を継いで欲しい」と説得することまではしていないケースが多いようです。
日本は人口減少、少子高齢化、内需縮小が進んでいきます。今はそれなりにやっていけている会社でも、10年後、20年後となると、先行きは不透明といわざるを得ません。「本当に子どもに継がせてよいのか」と迷いが出てしまうのも仕方のないことかもしれません。
会社を従業員に継がせようとしても、相続上の問題が…
とはいえ、従業員の誰かに継がせるというのもハードルの高いことです。従業員が会社を継ぐ場合は、その従業員が会社の株を買い取るのが一般的です。その資金力がまずネックになります。
中小企業は社長が金融機関からの借り入れの連帯保証人になっていたり、自宅を担保に入れているケースがほとんどです。従業員後継者が保証人や担保を引き受けられない場合は、オーナー社長が社長を辞めても、引き続き連帯保証人と自宅の担保はそのまま残ってしまいます。
万が一、その状態で社長が亡くなったら、連帯保証人は事業に関係のない奥様や子どもたちに承継されますから、担保のついた自宅が相続されることになってしまいます。もし、相続後に事業が行き詰まり、返済不可能になってしまったら、奥様や子どもたちは自宅を失ってしまう事態にもなり得ます。
このようなことから、後継者従業員は「社長」は引き継げても、「オーナー」としての株式や債務が引き継ぎにくいのです。現実問題として事業の承継は難しくなります。
そして、経営能力の問題もあります。従業員はもともと社長候補として入社してきているわけではないので、仕事はできても経営ができるとは限りません。営業ができる、技術者としての腕がある、会社のことをよく分かっているというのは仕事の能力です。それと、利益を上げて会社を回していく、人の上に立ってリーダーシップを発揮する、先を見通して戦略を立てるといった経営の能力とはまったくの別物です。
特にこれから厳しい経営環境を生き抜いていけるような、社長よりもはるかに優秀な経営センスを持った社員が社内にいればよいですが、中小企業ではそういった人材を育てること自体もなかなか難しいのが現状です。有能な右腕社員が必ずしも有能な経営者にはなり得ないというのが、従業員への承継をさらに難しくしているのです。
中小企業庁の発表では、「廃業の危機」の会社が4割
その結果でしょうか。中小企業庁が2016年に調査報告した「事業承継に関する現状と課題」では、60歳以上の経営者のうち、半数超が廃業を予定していると答えています。特に個人企業においては、「自分の代で事業をやめるつもりである」との回答が68%にも上ります。
廃業の理由としては、1位が「当初から自分の代でやめようと思っていた」で38.2%、2位が「事業に将来性がない」で27.9%となっています。ただし、「子どもに継ぐ意思がない」「子どもがいない」「適当な後継者が見つからない」といった後継者不在を理由とする廃業を合計すると28.6%となり、2位の27.9%を超えます。