2017年版中小企業白書では、日本にある421万企業のうち、中小企業の割合は99.7%に上ると報告しています。一方で、中小企業経営者の子どもを対象としたアンケート調査によると、親の会社を承継することに消極的な子の割合は、なんと約65%。つまり、3人に2人は会社を継ぐ意志がないのです。このような状況のなかで注目を集めているのが、「M&A」と呼ばれる「会社の合併と買収」です。本記事では、個人・法人の事業承継対策を行う山田知広氏が「M&A」について解説します。

 

さて、M&Aから15年経った今、A社がどうなっているかというと、本業だった金属加工事業は、最大の元請会社が部品を中国生産に切り替えたことで大幅減産。逆に、買収した電気部品製造事業のほうが大きく成長しています。A社社長はご子息に事業を譲り、数年前に他界されました。

 

今でも思い出すのは、A社社長の「リスクを取ることが経営です」という言葉です。経営者としての信念を貫く芯の強さが次世代へと引き継がれ、事業は成長し続けています。新社長であるご子息からも、「B社を引き継がせてもらって本当によかった」と事あるごとに言っていただいています。私の事務所がM&A事業に本腰を入れることになったのも、この事例がきっかけでした。先代のA社社長には感謝しています。

 

ここで、買い手のメリット・デメリットについてもまとめておきます。まずメリットからです。

 

●新規開業より初期コストが安くて済む

●従業員や取引先、顧客との繫がりごと引き継げる→事業の走り出しが早い

●事業の先行きが見通せる

●従業員の人材確保ができる

●事業規模の拡大・成長が見込める

 

会社を一から立ち上げる場合は会社をどこに作るかから考えて、土地や建物を探さなくてはなりません。しっかりした事業計画書を作って、金融機関から融資を取り付けたり、人材募集をして従業員を集めたりもしなくてはなりません。

 

その点、M&Aで既存の会社を買い取れば、設備や従業員、取引先との繫がりが全部セットで手に入ります。つまり、事業にあたっての技術、ノウハウ、顧客基盤、流通網といった無形の資産がすでに揃っているのです。すでに動いて利益を上げている会社なので、走り出しのロスが少なく、すぐにトップスピードに持って行けます。

 

買い取るときに会社のスペックや収益性が分かっているので、「今期はこのくらいの売上が見込める」「だから、○年で借入金の返済が可能」などの計画が立てやすいのも、経営者としては安心できるところです。買い手のデメリットについては、次のようなものがあります。

 

●欲しい会社が見つからないことがある

●想定していたシナジー効果が出ない

●後になって簿外債務や偶発債務が生じることがある

●優秀な人材が流出してしまうことがある

 

欲しい会社が見つからないとか、シナジー効果が出ないなどはマッチングの問題なので、売り手と同様「よい仲介者」と出会うことが大切です。事前に仲介者と「どんな会社を求めているか」「事業展開するうえで、どういう会社が必要か」をしっかり情報収集しておけば、マッチングのミスは予防できます。

 

売買後に、貸借対照表上に記載されていない債務が発覚したり、前経営者時代の従業員への残業代の未払いを請求されたりなどのトラブルが生じるケースもあります。そういった想定外のトラブルについては、「表面保障」を契約に盛り込んでおくことで、火の粉をかぶらないようにできます。これも仲介者の腕にかかっているといえるでしょう。

 

予想がつきにくく一番心配なことといえば、経営者が交代になったことで従業員や取引先が離れていってしまうケースです。従業員や取引先との関係込みで買ったつもりが、しばらくすると従業員が辞めていったり、取引先が関係を切ってきたりするケースがあります。中身が入っていると思って買ったのに、蓋を開けてみると空っぽだった、ということにならないためには、前経営者との引き継ぎをしっかり行うことが重要です。

 

私がお手伝いした案件については、前経営者にお願いして、「顧問」として数年間、新社長のバックアップをしていただいています。そうすることで取引先の顔つなぎもでき、買収した社長にとっても安心して引き継ぐことができます。少しずつ前経営者が会社に顔を出す回数を減らしていき、自然に承継を完了させるという方法が理想的です。

高まる中小企業のM&Aニーズ…仲介業者の業績は好調

これまで見てきたように、M&Aは売り手にとっても買い手にとっても非常に魅力的な事業承継方法です。そのため、最近では企業の大小にかかわらず、多くの会社がM&Aに関心を持っています。国内のM&Aの件数について株式会社レコフデータの調べによると、2017年に3050件と過去最高となっています。

 

[図表2]1985年以降のマーケット別M&A件数の推移 出典:レコフデータ「グラフで見るM&A動向」
[図表2]1985年以降のマーケット別M&A件数の推移
出典:レコフデータ「グラフで見るM&A動向」

 

また、下記図表3は中小企業のM&A仲介を手掛ける東証一部上場の3社(株式会社日本M&Aセンター、株式会社ストライク、M&Aキャピタルパートナーズ株式会社)の成約組数について見たものですが、中小企業のM&A成約組数は、2012年に比べて2017年では3倍超となっています。

 

[図表2]中小企業のM&A仲介を手掛ける上場3社の成約組数 資料:東証1部上場の中小企業向けM&A仲介企業3社の公表値等より中小企業庁作成
[図表3]中小企業のM&A仲介を手掛ける上場3社の成約組数
資料:東証一部上場の中小企業向けM&A仲介企業3社の公表値等より中小企業庁作成

 

この調子でいくと今後も数字は増え続け、M&Aが事業承継の主流になっていくものと予想されます。それを裏付けるようなニュースが2017年10月30日の東洋経済オンラインの記事に載っていました。

 

全国上場企業の「生涯給料」の全国版ランキングを調べたところ、トップ5にM&A仲介会社が4社もランク入りしていました。生涯給料とは、会社に新卒(22歳)で入社して定年(60歳)まで働いたときに取得できる給料の総額です。1位のM&Aキャピタルパートナーズが8億3211万円、2位のGCAが8億2317万円です。

 

そして、4位にストライク、5位に日本M&Aセンターと続きます。GCAは世界展開しているグローバル企業なので扱う案件も大会社やグローバル企業ですが、それ以外の3社は日本国内の中小企業のM&A仲介をメインにしている会社です。それだけ今、中小企業のM&Aニーズが高まってきていると見ることができるでしょう。

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山田 知広

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