親の離婚…「成年の娘」の戸籍に影響は?姓の変更はどうなる?

結婚、離婚、親子、養子、扶養など、個人と家族に関する法律を対象とする「家族法」。私たちの日常生活と密接に関係した法律であり、その理解は欠かせません。本連載では、書籍『知って役立つ! 家族の法律――相続・遺言・親子関係・成年後見』(クリエイツかもがわ)より一部を抜粋し、結婚・離婚と親子関係にまつわる法律をわかりやすく解説します。

子が「成年」か「未成年」かで、必要な手続きは変化

●電話相談

 

ある日、「近く夫が退職するが健康保険や年金をどうすればよいか」という相談の電話がかかってきました。「これは私の仕事ではないけれど」と思いながらしばらくお話を聞いていました。ところがどうも話がかみ合わないので、よくお話を聞いてみると「離婚」が絡んでいました。そうなると話が変わってくるので、電話ではなく面談でご相談することになりました。

 

●成人した娘がいる

 

ご家族は、山下悟郎さんと妻夏江さん、一人っ子の茜さん(25歳)の3人です。今回は離婚協議のことはさておいて、離婚にまつわる戸籍のことを考えてみましょう。ご夫婦は離婚することについてはほぼ合意していて、茜さんも反対はしていません。

 

●婚氏続称

 

山下夏江さんの旧姓は「木本」ですが、夏江さんは「婚氏続称」で、山下を名乗り続けるつもりです(民法767条2項)。そうすると、離婚後の戸籍は次のようになります。

 

A……筆頭者:山下悟郎、配偶者:夏江(離婚により除籍)、長女:茜

B……筆頭者:山下夏江

 

すなわち、茜さんは父である山下悟郎さんの戸籍に残り、夏江さんだけ新しい戸籍が編製されます。

 

●子が未成年の場合

 

離婚に関する本には、必ずと言っていいほど「未成年の子」の「親権」「養育費」の説明があります。さらに、戸籍を母の方に移す場合、「子の氏の変更許可申立書」を家庭裁判所に提出し許可を得ることが必要であると書いてあります。今回の場合、茜さんは成年なので「親権」「養育費」は問題になりません。それでは、戸籍はどうなのでしょうか? 私が見る限りではそれに触れた本もネット情報もないようです(書籍『知って役立つ! 家族の法律――相続・遺言・親子関係・成年後見』刊行当時)。

 

●子が成年の場合

 

子が成年でも両親が離婚した場合、父の戸籍から母の戸籍へ移るには家裁の許可が必要です。「子の氏の変更許可申立書」を出し許可の審判を得て母の戸籍への入籍届をします。今回とケースは違いますが、親が婚姻中の場合は別で、親が養子になる縁組をするとき、子の氏の変更は家裁の許可は不要で市町村への入籍届だけで済みます。

 

●身分事項

 

養子縁組などを「身分事項」と呼ぶことがあります。これは単なる「届」だけでなく、今回の場合で言えば、茜さんの意思を尊重しなさいよということです。茜さんは、父の戸籍に残ってもいいし、母の戸籍に移ることもできる、あるいは分籍して自分だけの戸籍を作ることもできます。親の都合だけでなく茜さん本人の意思を尊重することが大切だということです。

離婚しても姓を変えたくない場合、3ヵ月以内に申請を

◆離婚と戸籍②~旧姓に戻るのが原則だが婚氏続称も自由

 

●婚氏続称

 

前項で、離婚しても旧姓に戻らないケースを取り上げました。これを「婚氏続称」と言います。「旧姓に戻る」とか「旧姓に戻らない」とか言いますが、ここで一度立ち止まって、少し整理しておきましょう。

 

●離婚したら

 

結婚して、「氏」(=姓=苗字)を変えた人が離婚したら、以前の「姓」に戻るのが原則です(民法767条1項、771条)。前項の例で言えば、山下悟郎さんと離婚する夏江さん(旧姓:木本)は、木本夏江に戻るのが原則だということです。でも夏江さんは「山下夏江」を名乗り続けることにしましたね。

 

社会的に長年使ってきた「姓」を変更すれば、いろいろと支障もあるでしょう。そんなときは、離婚から3ヵ月以内(離婚と同時でもよい)に、市区町村に「離婚の際に称していた氏を称する届(婚氏続称届)」を出せば、結婚していたときと同じ「姓」を名乗ることができます(民法767条2項)。夏江さんはこの「届」をしていたわけです。

 

この「届」に元夫の許可・了解は要りません。元夫だけではなく、元夫の親を含め、誰も異議を申し立てることはできません。すなわち、夏江さんは自分の意思で、自由に「山下」を名乗り続けることができます。

 

●3ヵ月経ってしまった!

 

離婚の際、何らかの事情で「婚氏続称届」を出さず、通称で「山下夏江」を名乗っているうちに3ヵ月をすぎてしまったということもあります。「しまったと思ってももう遅い!」ことはありません。こんなときは、家庭裁判所の許可を得ればOKです(戸籍法107条1項)。難しいことはありません。けれども「婚氏続称届」は「離婚届」と同時に出すほうが、手間暇がかかりません。

 

●再度の変更

 

「婚氏続称届」をして、「山下」になってから、「やっぱり木本の方がいい」と思った場合も「届出」では変更できません。変更は、家庭裁判所に申立てて「特別な事情がある」と判断された場合に限られます。このことを知った上で、よく考えて、どちらを選ぶか判断しましょう。

 

●子どもは?

 

何回も言います。「子」は「親」とは別です。茜さんが未成年で夏江さんが長女である茜さんの「親権者」になったとしても、茜さんは山下悟郎さんの戸籍に長女として残っています。茜さんが成年である場合も同じです。これは夏江さんが、「山下」を名乗り続けようと「木本」に戻ろうと同じです。茜さんを夏江さんの戸籍に入れようと思えば、家庭裁判所に「子の氏の変更許可申立書」を提出して許可を得なければなりません。

 

 

長橋 晴男

長橋行政書士事務所

 

長橋行政書士事務所 特定行政書士
宅地建物取引士
相続コンサルタント

1948年生まれ。兵庫県朝来市(旧:朝来郡生野町)出身。立命館大学法学部卒業。憲法(社会保障と国家)専攻。

<職歴>
社団法人(現:公益社団法人)京都保健会勤務
 同法人理事、総務部長
長橋行政書士事務所開設
*相続・遺言など「家族法」関係を専門とする

<現在>
京都府行政書士会会員
 会報編集委員長、第3支部副支部長等歴任
一般社団法人コスモス成年後見サポートセンター会員
長橋行政書士事務所

著者紹介

連載行政書士がわかりやすく解説!結婚・離婚にまつわる「家族法」の基礎知識

本連載は、2017年12月20日刊行の書籍『知って役立つ! 家族の法律――相続・遺言・親子関係・成年後見』(クリエイツかもがわ)から抜粋したものです。最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

知って役立つ! 家族の法律 相続・遺言・親子関係・成年後見

知って役立つ! 家族の法律 相続・遺言・親子関係・成年後見

長橋 晴男/著
浅野 則明/監修

クリエイツかもがわ

1テーマ見開き2頁×98項目+コラムで、家族のための身近な法律をわかりやすく解説。 「普通の市民」が、「普通の生活」をする上で、知っておきたい「家族法」の基礎知識が満載。 日常生活に密接に関係した法律。でも案外、…

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