結婚、離婚、親子、養子、扶養など、個人と家族に関する法律を対象とする「家族法」。私たちの日常生活と密接に関係した法律であり、その理解は欠かせません。本連載では、書籍『知って役立つ! 家族の法律――相続・遺言・親子関係・成年後見』(クリエイツかもがわ)より一部を抜粋し、結婚・離婚と親子関係にまつわる法律をわかりやすく解説します。

離婚した妻の子(養子)に相続させたくない

●妻の連れ子と養子縁組した

 

池田洋一さんは吉田悦子さんと結婚するとき、悦子さんの元夫との子、三郎さん、康弘さんと養子縁組しました。戸籍は筆頭者:池田洋一、配偶者:悦子、養子:三郎、養子:康弘です。洋一さんと悦子さんの間に子はありません。その後洋一・悦子夫妻は離婚し5年経ちましたが、養子縁組はそのままです。

 

●養子に相続させたくない

 

池田洋一さんは養子たちに自分の財産を相続させたくないのですがどんな方法があるでしょうか。

 

離縁

 

最も単純明快なのは「離縁」することです。そうすると次の「遺言」のような問題は発生しません。

 

●遺言を書く

 

離縁はしないが相続させたくないという場合は、「遺言」を書きます。遺言を書かないと、洋一さんの財産は2人の養子が相続します。

 

洋一さんは高齢の母親の生活を考え、母親に財産を譲りたいと考えています。「母にすべての財産を遺贈する」という遺言を書けばよいでしょう。ただし、民法には「遺留分」という制度があります。

 

遺留分

 

遺留分については、2人の養子は遺言によって相続できない場合でも、遺留分として遺産をもらえる権利があります。今回の場合、遺留分は法定相続分の2分の1となります。養子2人が本来は法定相続分として2分の1ずつもらえたはずなので、その半分の4分の1ずつとなります。

 

ただし、遺留分は「権利」ですから、請求しないと自動的にはもらえません。この請求のことを「遺留分減殺請求」と言います。

 

母が先に亡くなったら

 

洋一さんより先に母親が亡くなった場合「遺言」は効力を失います(民法994条1項)。洋一さんは母が先に亡くなった場合は財産を妹の有可里さんに譲りたいと考えています。その場合は「遺言」に、母が死亡しているときは、妹の有可里さんに遺産を譲る旨を書いておけば安心です(民法995条ただし書)。なお、洋一さんと有可里さんは二人兄弟とします。

 

●母が相続した後で亡くなったら

 

洋一さんが亡くなり、母親が相続した後に亡くなった場合は、母の遺産は子である有可里さんと、孫にあたる三郎さんと康弘さんが洋一さんに代わって代襲相続します。それを避けたければ、母親にも「遺言」を書いてもらう必要があります。

離婚した娘の夫(養子)との親子関係を解消したい

●娘の夫と養子縁組したが

 

大川勝さんは二女さくらさんの結婚に当たり、さくらさんの夫となる金子史郎さんと養子縁組し、夫妻は大川史郎・さくらとなりました。ところがこのたび、史郎さんとさくらさんが離婚することになりました。二人が離婚した場合、大川勝さんと史郎さんの関係はどうなるのでしょうか。

 

●離婚と養子縁組は別

 

娘夫婦が離婚しても、大川勝さんと史郎さんの養子縁組が当然に解消されるわけではありません。結婚・離婚と養子縁組はまったく別物です。

 

大川さんは、娘が離婚したら自分も史郎さんとは無関係だから養子縁組を解消したいと思っています。この場合、「離縁」の手続きが必要になります。この手続きをしないと、史郎さんは引き続き大川史郎だし、大川勝さんと史郎さんとの間には法的な親子関係が続き、お互いの扶養義務もあります。また、大川勝さんが亡くなったときには史郎さんも大川勝さんの相続人になります。

 

●離縁の種類

 

離縁には、「協議上の離縁」と「裁判上の離縁」があります。養親と養子が話し合って双方が合意すれば離縁の理由は問いません。市町村役場に「協議離縁届」を提出するだけです。このとき「証人」が二人必要です。

 

もし、史郎さんが離縁したくないと言ったら、家庭裁判所に「離縁の調停」を申し立てることができます。調停の場で合意ができれば、「調停調書」を作成して離縁できます。通常は、協議あるいは調停による離縁が一般的でしょう。

 

●調停が成立しないとき

 

調停で話し合いがつかないときは、「離縁を求める裁判」を起こすしかありません。裁判で離縁が認められるのは三つの場合です(民法814条1項)。

 

(1)一方から悪意で遺棄されたとき

(2)一方の生死が3年以上明らかでないとき

(3)その他縁組を継続しがたい重大な事由があるとき

 

今回の場合は、(3)を主張することになるでしょう。史郎さんとさくらさんの婚姻が解消されるという事情は大きな要素ではありますが、結局は、大川勝さんと史郎さんとの親子関係がどの程度破綻しているかで判断されます。

 

 

コラム:実は戸籍に法律上決まっているルールはない

過去、2件続けて「孤独死」の相続案件を扱いました。お一人は80代男性(甲氏)、もうお一人は50代後半男性(乙氏)でした。両氏とも検視で正確な死亡日時が特定できず、除籍謄本の死亡日時には「平成○年○月11日頃から21日頃までの間」と記載されています。ところが住民票除票は「甲氏:○月20日」「乙氏:○月」と記載内容が違うのです。

 

ふと「戸籍の記載ルールはどうなっているのだろう」と思い、「戸籍法」などを調べてみました。しかし規定が見つかりません。長年役所で戸籍係を経験された方に聞いてみました。答えは「法律上絶対にこれ」というものはなく、「わかるように記載しなさい」ということで、最終的には市町村担当者の裁量と、管轄する法務局に委ねられるそうです。

 

「不詳」と記載されるのは何年も経っているケースなのでほとんど例がなく、「平成○年○月下旬頃」、「推定平成○年○月下旬」、「推定平成○年○月20日から○月31日の間」、「推定平成○年○月○日」などがあるそうです。

 

●同時死亡の推定

 

戸籍を調べていると、ご夫婦で「昭和○年○月○日推定午前○時死亡」と、同一年月日、推定同一時刻死亡の記載がありました。自然災害で亡くなったそうです。「同時死亡の推定」は民法に規定があります。

 

民法32条の2

数人の者が死亡した場合において、そのうちの一人が他の者の死亡後になお生存していたことが明らかでないときは、これらの者は、同時に死亡したものと推定する。

 

同時死亡の推定がなされると、相続は相互に開始しません(民法882条)。しかし、他の相続関係に影響することがありますから、注意が必要です。

 

 

長橋 晴男

長橋行政書士事務所

 

本連載は、2017年12月20日刊行の書籍『知って役立つ! 家族の法律――相続・遺言・親子関係・成年後見』(クリエイツかもがわ)から抜粋したものです。最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

知って役立つ! 家族の法律 相続・遺言・親子関係・成年後見

知って役立つ! 家族の法律 相続・遺言・親子関係・成年後見

長橋 晴男/著
浅野 則明/監修

クリエイツかもがわ

1テーマ見開き2頁×98項目+コラムで、家族のための身近な法律をわかりやすく解説。 「普通の市民」が、「普通の生活」をする上で、知っておきたい「家族法」の基礎知識が満載。 日常生活に密接に関係した法律。でも案外、…

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