離婚にまつわる諸問題①:婚姻関係の終了で変わること
離婚にまつわる諸問題を整理しておきましょう。
●婚姻関係の終了
離婚したのだから婚姻関係が終了するのは当然ですね。その結果は次のように整理できます。
(1)再婚の自由
民法に「重婚の禁止」規定がありますが、離婚したのだからもはや「重婚」は問題になりません。ただし、女性に限り「再婚禁止期間」の制約があります。
(2)姻族関係の終了
婚姻によって生じた姻族関係は、離婚によって当然に終了します(民法728条1項)。ここが「死別」と違うところです。「死別」の場合は、姻族関係を継続するか終了するかを選択できます(同条2項)。
(3)夫婦の氏
婚姻によって「氏」を改めた配偶者は婚姻前の氏(旧姓)に戻ります(民法767条1項)。ただし、婚姻中の氏を継続することもできます。これは離婚の日から3か月以内に市町村役場の戸籍係に届けるだけで済みます(同条2項)。実際問題としては、「離婚届」と同時に届出ます。
最近では約4割の方が「復氏」せずに「婚氏」を継続しています。それでは、「婚氏続称」を選択した方が、その後の事情の変化により婚姻前の氏(姓)に戻りたいという場合はどうなるのでしょうか。安心してください。「やむをえない事情」があれば、家庭裁判所の許可を得て氏(姓)の変更ができます(戸籍法107条1項)。この「やむをえない事情」というのもあまり厳しく判断されないようです。
また、「何年以内」という制限もありません。たとえば、「野中(旧姓)→〈結婚〉友田→〈離婚〉友田(10年以上経過)→(家庭裁判所の許可)野中」という具合です。
(4)相続は?
「死別」の場合は配偶者間で「相続」が発生しますが、当然のことながら「離婚」の場合は発生しません。ただし子がある場合、その子は「親権者」いかんにかかわらず、両親に対して「推定相続人」となります。
たとえば、岸下健一、美奈子(旧姓:大木)夫妻が離婚し、美奈子さんは復氏し大木美奈子となったとします。子:由佳里さんの親権者は美奈子さんとし、戸籍も大木に変更しました。その後美奈子さんは佐藤祐三さんと再婚して佐藤美奈子となり、由佳里さんは祐三さんと養子縁組しました。このケースでは、佐藤由佳里さんは実父:岸下健一、実母:佐藤美奈子、養父:佐藤祐三の3人の推定相続人です。
●親子の縁を切る?
夫婦は離婚によって「縁を切る」ことができますが、「親子の縁を切る」ことはできません。子は祖父母と「親族関係」を終了することもできません。旧民法には「勘当」(正しくは「離籍」)の制度がありましたが、現行民法にはありません。ただし、養子縁組の場合は「離縁」ができます。
離婚にまつわる諸問題②:財産分与、慰謝料、子の親権
●財産分与
財産分与とは、夫婦の協力によって築き上げた共有財産を、離婚に際して精算することです。名義のいかんにかかわらず、婚姻後に夫婦の協力によって取得した財産が対象です。金額の大小は問いません。また、将来の退職金を対象として考慮することもあります。
財産分与は、当事者の協議が調わないときは家庭裁判所の審判によって決められます(民法768条2項、771条)。夫婦共働き、専業主婦を問わず夫婦平等の見地から原則として2分の1とするケースが増えているようです。ただし、医師・タレントなど、特別の事情があるときは修正されることがあります。
●慰謝料
離婚されたこと自体を原因として生じる精神的損害の賠償のことを「離婚慰謝料」と呼び、「有責配偶者」が支払いますが、必ず慰謝料が発生するというものではありません。また、慰謝料には相場のようなものがあり、ケース・バイ・ケースですが、だいたい200万円前後、最高でも500万円程度と思ってください。よくマスコミで話題になる芸能人の離婚に当たっての「慰謝料○○億円」というのはきわめて例外的なケースです。この場合でも、裁判になればそのような高額になることはまずありません。
●子の問題
(1)親権者・監護者の決定
未成年の子がいる場合、離婚に際し父母の一方を親権者に定めなければなりません(民法819条1項、2項)。親権者になったほうが子を引き取って監護・教育をする場合が多いのですが、親権者と監護者が別々になる場合もあります(民法766条1項)。
普通、親権者は「協議」で決めますが、協議が調わない場合は家庭裁判所が「審判」で決めます(民法819条5項)。現実には、母親が親権者になる割合が約8割を占めます。両親の離婚を経験する子は最近では毎年25万人くらいいます。したがって、離婚する夫婦のことだけでなく、「子の問題」をどう解決するかが重要になっています。
(2)面会交流権
親権者・監護者でない親(別居親)が、子と会ったり、手紙や電話で交流する権利を面会交流権と言います。これは、子育てに関わる親の権利・義務であると同時に、親の養育を受ける子の権利でもあり、両者の利益が対立する場合には、子の利益を第一にすべきであると考えられています(民法766条1項)。これについても、協議が調わないときは、家庭裁判所が審判で決めることになります(同条2項)。
(3)養育費
離婚しても親であることに変わりはありませんから、別居親も子を扶養する義務があります(民法766条1項)。これは親権の有無とは関係がなく、親権者である親と親権者でない親との間に差異はありません。ただし、離婚後親権者である親(母親が多い)が再婚し、再婚相手が子と養子縁組をした場合には、養親が第一次的な扶養義務者になります。
長橋 晴男
長橋行政書士事務所