「死後離婚」?配偶者が死亡しているケース
●DV(家庭内暴力)で離婚を決意したが、夫がガン末期
小出五月さん(旧姓:永野)は夫の小出浩さんとの離婚を考えていました。五月さんへのDVだけでなく、高校生の長男への暴力もあったからです。DVはいつもあるわけではなく、飲酒後がひどく普段は優しいところもあるので「私さえ我慢すれば」と思っていました。また長女には手を出しませんでした。
ある日酔っぱらった夫が長男を殴りつけ、長男も反撃しました。体力のある長男は夫に負けていません。五月さんはこのままでは夫と長男のどちらかが「殺人者」になりかねないと思って、いよいよ決意を固めました。
ところが、医者嫌いの夫が「体調が悪い」と受診したところ、ガン末期で手術もできず即入院となりました。五月さんは「こんなときに離婚を切り出せない」と思って夫の看病を続けましたが、数か月後に夫が亡くなりました。五月さんと夫の親兄弟との関係もよくなく、葬儀やお墓のことでゴタゴタが続きました。
●「死後離婚」
五月さんはどこかで「死後離婚」ということを聞いたことがあるので、そんなことができるのだろうかと調べてみました。答えは「夫婦関係は配偶者が死亡した時点で法律上当然終わるので離婚届を出す必要はない」「死後離婚という制度はない」ということでした。
●死亡による婚姻の解消
配偶者の死亡による婚姻解消の場合は離婚の場合と扱いが異なります。
(1)生存配偶者が婚姻によって氏を改めた者である場合、そのまま婚姻中の氏を称するか、婚姻前の氏に復するか自由に選択できます(民法751条1項)。
(2)姻族関係は当然には解消しません。「姻族関係終了届」を出すことによって終了します(民法728条2項)。
(3)婚姻中の氏を称しながら姻族関係を終了させたり、婚姻前の氏に復しながら姻族関係を存続させることもできます。姻族関係を存続させながら再婚することもできます。
(4)死亡した配偶者の親族側からは生存配偶者との姻族関係を終了させることはできません。
(5)上記はいずれも相続関係とは別問題で、氏をどうするか、姻族関係をどうするかにかかわらず、相続は発生します。
●五月さんの選択
(1)五月さんは復氏して永野五月に戻り、「姻族関係終了届」を提出して夫の親兄弟との縁も切りました。これを俗に「死後離婚」と呼ぶのでしょうか?
(2)一方、長女・長男は夫の戸籍に残り、小出を名乗り続けることにしました。しかし、世帯主は永野五月さんです。なお、長女・長男は「戸籍」の選択にかかわらず「姻族関係」を終了させることはできませんし、相続関係も変わりません。つまり、祖父母等と「縁を切る」ことはできないのです。
離婚届に判を押したものの、「夫とやり直したい」
●離婚届
木島貴子さんはうつ病を患い、夫と別居して実家で療養しています。その間に離婚話が持ち上がり、「離婚届」に判を押してしまいました。しかし、貴子さんは最近、「夫とやり直したい。病気を治して、また家族と暮らしたい」と思うようになりました。離婚届は夫が持っていますが、子どもがいるので役所に提出するのをためらっているようです。
●離婚したくない
いったんは離婚届に署名押印したとしても、届け出前に「離婚の意思を撤回」した場合、離婚は無効になります。でも夫が離婚届を出してしまうかもしれません。書類に不備がなければ、役所は離婚届を受理します。夫婦間の合意の上でなければ離婚は無効ですが、離婚届を役所に一度受理されてしまうと、離婚の無効を認めてもらうまでに多くの労力と時間(調停・訴訟)が必要です。
●不受理申出書
こんなときは、役所に「離婚届不受理申出書」を提出しておけば、夫が離婚届を出したとしても受理しません。貴子さんが不安に思っているのなら、とりあえず「不受理申出書」を提出しておいて、夫とじっくり話をしてみましょう。役所の窓口で所定の用紙をもらい、必要事項を記入後、本人が署名捺印して提出するだけです。
●生活費
別居していても夫婦には扶養義務がありますから、収入と生活状況に応じた「婚姻費用」の負担を夫に求めることができます(民法760条)。話し合いが難しい場合は、家庭裁判所の調停なども利用できます。
●有効期間
申出をした日から「不受理申出取下げ書」を提出するまで有効です。6か月の有効期間は2008(平成20)年5月1日からなくなりました。
●申出ができる届出と申出人
不受理申出ができる届出と申出人には、以下の5種類あります[図表1]。
本人が15歳未満のため法定代理人が行った申出については、本人が15歳に到達した時点で失効します。引続き不受理の意思がある場合は、本人が改めて申出書を提出する必要があります。
申出人以外(使者、代理人)からの申出はできません。「不受理申出書」のことを知らないで悩んでいる方が多いようです。そんな方がいらっしゃったらぜひ教えてあげてください。
養子縁組①:子がある場合の養子縁組
●養子縁組の相談
妻が一人っ子で、このままだと妻方の姓が途絶えるので、妻の母と養子縁組したいという相談がありました。戸籍筆頭者:本田彰二、配偶者:美也子(旧姓:橘)、長男:一郎(独身34歳)、二男:朗(独身32歳)という方でした。
妻の父はすでに亡くなっていて、母は橘安芸さんです。橘安芸さんと本田彰二さんが養子縁組すると、橘安芸さんの戸籍に入籍するのではなく新たな戸籍が編製されます。筆頭者:橘彰二、配偶者:美也子です。
●二人の子は?
その場合、成人した二人の子はどうなるのでしょうか? 何も手続きをしなければ、二人は父の戸籍に残ったままとなります。すなわち、筆頭者:本田彰二(養子縁組により除籍)、配偶者:美也子(夫とともに除籍)、長男:一郎、二男:朗という成人した子二人だけの戸籍となります。
●どうすればよいか?
橘姓を残したいという趣旨ですので、長男:一郎、二男:朗の両方あるいは片方を橘性にする必要があります。この場合、長男、二男の意向を尊重することが大切です。親が勝手に決めてはいけません。二男だけを橘姓にし、長男は本田姓を名乗り続ける場合を考えましょう。
本籍地の市町村に、二男:朗さんを橘彰二さんの戸籍へ入籍する届けをします。子の入籍届の場合、家庭裁判所へ「子の氏の変更許可申立書」を出しますが、父母が婚姻中の場合は不要です(民法791条2項)。戸籍は以下のようになります。
A 筆頭者:橘彰二、配偶者:美也子、二男:朗
B 筆頭者:本田彰二(養子縁組により除籍)、配偶者:美也子(夫とともに除籍)、長男:一郎、二男:朗(氏の変更により除籍)
●長男の選択
長男:一郎さんは、分籍して自分だけの戸籍を作ることもできます。その場合は以下のようになります。
C 筆頭者:本田一郎
ここで注意を要するのは、分籍した一郎さんは元の戸籍には戻れないということです。Bの戸籍は全員除籍されたので「消除」となりますが、仮に誰かが残っていて、Bの戸籍が存在しても一郎さんはその戸籍には戻れません。ただし、父母の姓が橘となり一郎さんは本田のままなので、Aの戸籍に入籍し、橘一郎になることは可能です。
養子縁組②:養子縁組の効果など
養子縁組について少し整理しておきます。
●養子縁組の効果
(1)養子は、縁組成立の日から、「養親の嫡出子」としての身分を取得します(民法809条)。「身分」といっても、士農工商といった「身分」のことではありません。「身分証明書」の「身分」と考えていただいたらわかりやすいかと思います。法律用語としては、「身分権」「身分行為」などがあります。
(2)日本の民法では、養子縁組をしても実親との親子関係も残り、養親との二重の親子関係が成立します。
(3)養子は「養親の親権」に服します。
(4)養子は「養親の氏」を称します(民法810条)。
(5)養子は縁組の日から、養親および養親の血族との間に、血族間におけると同一の親族関係が生じます。これを「法定血族関係」といいます。
(6)ここで注意を要するのは、子のある人が養子になる場合です。この子は養親の親族にはなりません。したがって(自分の親の)養親に対する相続権もありません。
この場合、養子の子が親族になるには、自分の親の養親と養子縁組するという方法があります。ややこしいので、例を挙げます。
田中太郎さんには子の一郎さんがいました。太郎さんが鈴木正夫さんと養子縁組し、鈴木太郎になりました(養親:鈴木正夫)。このままでは、一郎さんは田中一郎であり、鈴木さんの親族にはなりません。
ここで一郎さんが鈴木正夫さんと養子縁組すると、鈴木一郎となり、鈴木さんの親族になって相続権も発生します。そして親である太郎さんとは法律上「兄弟」関係となります。田中一郎さんが「親の氏を名乗る入籍」をして鈴木一郎になったとしても、鈴木正夫さんとの親族関係は発生しませんので念のため。
養子縁組後に生まれた子は、養親の親族になり、当然相続権も発生します。割り切れなさを感じる方もあるでしょうが、これが日本の民法(727条)の規定です。
●養子の氏の例外
先の(4)で書いたように、養子は「養親の氏」を称しますが、例外があります。夫の氏を夫婦の氏にした場合、夫が養子となれば夫の氏は養親の氏に変わり、妻の氏も当然養親の氏に変わります。しかし、妻が養子になるときは、夫婦の氏が優先され、養親の氏には変わりません(民法810条ただし書)。戸籍には養子縁組をした旨が記載されます。
長橋 晴男
長橋行政書士事務所