前回は、投資信託を株式で運用する場合、分散投資タイプよりも「集中投資」タイプのほうが良い理由を説明しました。今回は、市場全体の株価が下落したときでも強さを発揮する「投資信託」の見極め方を、実例を交えて見ていきます。

大企業の株価がより反映されるTOPIXや日経平均株価

日本株全体が下がったのだから資金を失っても仕方がない・・・そのように割り切っている投資家もいると思いますが、以下のデータを見ると景色が変わります。

 

2000年と2013年の個別銘柄の株価を比較すると、家具のニトリやユニクロのファーストリテイリングは株価が倍以上に上昇しています。この2社は特別なのでしょうか。

 

そこで個別銘柄を見ていくと、TOPIXで見た市場全体が34%も下がっているのに、64.8%の銘柄は株価がプラスになっています。ニトリのように2倍以上に上昇した銘柄も、なんと約3割もあるのです。

 

TOPIXで見ると冷え込んだ株式市場に見えますが、個別銘柄で見ると景色ががらりと変わって、株式投資に向いていた時代だったのではないかと思えるほどです。

 

なぜこのようなことが起こるのでしょう。TOPIXや日経平均株価は「大企業」の株価がより反映された指数です。株式投資にとって大企業とはどのような存在でしょうか。企業によっては「すでに成長した会社」「伸びしろが小さい会社」ということもできます。

 

株式投資は会社の大小ではなく、「会社の変化の幅」で買われたり売られたりするものです。今は注目されず、株価が安くなっていたとしても、5年後に売上が10倍になったり、2年後に利益が5倍になったりする企業の株価は上昇する可能性があります。市場全体が中長期的に下落していても株価が上昇している会社はたくさんあるのです。

 

そこにファンドマネージャーが気づいて、調べて、経営者に会って、徹底的に調査した末にファンドに組み込むかどうかを判断しなければなりません。調査に時間がかかるので、たくさんの銘柄は買えませんが、素晴らしい銘柄をファンドに組み込むことができるのです。それが運用のプロの仕事ではないでしょうか。

3つの条件すべてを満たす投資信託の実例とは?

これまでの連載で、買うべき投資信託の3条件を解説してきました。

 

①キャッシュポジションをとれるかどうか

②ファンドマネージャーの腕は良いか

③集中投資をしているか

 

これら3つの条件を満たした投資信託が起こした、ちょっとした「奇跡」をご紹介したいと思います。独立系運用会社のレオス・キャピタルワークスが運用する「ひふみ投信」についてです。

 

ひふみ投信は、2008年9月30日に運用がスタートしました。あのリーマンショックの約2週間後です。100年に一度の危機といわれ、世界中の投資家が戦々恐々としていたときです。東証株価指数はその後約6カ月で30%以上も下落します。

 

その後アメリカの金融緩和策等で株価は一旦戻りましたが、運用スタート時から1年後の2009年9月30日時点で、東証株価指数は結局マイナス16.33%でした。もし同期間に日本株で運用する投資信託に投資をしていたら損をしたことでしょう。

 

しかし、ひふみ投信は相場が下落するときに何とかほぼ横ばいをキープして、相場が上昇に転じたときには同じように上昇し、1年後になんとプラス20.48%の実績をあげました。

 

なぜ、このようなパフォーマンスをあげることができたのでしょうか。その理由は、2009年9月30日時点の月次運用レポートを読むと見えてきます。

 

まず、資産の内訳を見ると、全体の52.17%が株式で、残りの47.83%が預金その他となっています。相場が悪い時期なのでフル投資せず、守りながら運用されていることがわかります。当時の組入上位10銘柄を見てみると、輸出企業などの円高が不利になる企業の株式が入っておらず、デフレに強い会社や円高に強い会社などが並んでいます。

 

この後、2011年まで為替は円高に動きます。ファンドマネージャーの先を読む力があることもわかります。大抵の日本株の投資信託は時価総額の大きいトヨタ自動車やメガバンクなどが上位に並びますが、まったく違う運用をしていることがよくわかります。また銘柄も27銘柄と集中投資されています。

 

この投資信託はその後も基準価額を上げていき、現在は3万円を超えています。現在は組入銘柄が増えていますが、依然として高いパフォーマンスをあげておりR&Iファンド大賞を投資信託/国内株式部門で直近4年連続受賞しています。

 

[図表]ひふみ投信の特色

実際に、株式に投資をする良い投資信託の3条件をすべて満たしている投資信託は非常に少ないですし、そうでなければ買ってはいけないというわけでもありません。

 

このうちの2条件を満たしているもの――ファンドマネージャーの腕が良く、集中投資をしている投資信託は、アベノミクス以降の株価上昇を捉えて、素晴らしい上昇を見せています。

 

ただキャッシュポジションをとらないため、リーマンショックのような大暴落が起こると対処できない可能性があります。その場合は投資家自身が売却を判断しなければなりません。

本連載は、2015年7月24日刊行の書籍『金融機関が教えてくれない本当に買うべき投資信託 』から抜粋したものです。本書は情報の提供および学習を主な内容としたものであり、著者独自の調査に基づいて執筆されています。実際の投資の成功を保証するものではなく、本書を用いた運用は必ずご自身の責任と判断によって行ってください。本書の内容に関して運用した結果については、著者および株式会社幻冬舎メディアコンサルティングはいかなる責任も負いかねます。なお、本書に記載されているデータや法令等は、いずれも執筆当時のものであり、今後、変更されることがあります。

金融機関が教えてくれない 本当に買うべき投資信託

金融機関が教えてくれない 本当に買うべき投資信託

福田 猛

幻冬舎メディアコンサルティング

ここ数年、投資環境が良くなる中で、投資に興味を持ち、株式や投資信託を購入する人が増えています。特に投資信託は「少額投資」や「分散投資」ができる気軽さもあって幅広い年齢層に人気があり、売れ行きは好調です。しかし、…

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