日本と異なり、「アート」で子を教育する欧米文化
外国人、特にアメリカやヨーロッパの人は、日頃から芸術に触れ楽しんでいます。というのも欧米では、日常生活のなかに芸術が根付いていて、身近にあるからです。
実際に、外国人の友人や仕事関係の方の家にお招きいただくと、どの家に行っても「アート」が飾ってあります。絵画や、彫刻のような立体造形、額装された写真、季節や行事に合わせた装飾のほか、ヴィンテージギターを飾っている人もいます。家のなかで、その人なりに芸術を楽しんでいるのです。自分の好きな作品を選び美しく飾るという習慣は、無意識に芸術の教養を深めているのです。自分の個性を磨き、表現することにもつながっています。
また、飾られた作品を眺めながら「素敵な絵だけど、誰の絵なの?」「この写真はどこの風景?」などと話しているうちに、最近観たお気に入りの絵画や好きな芸術家など、芸術の話題に自然と話が広がっていくこともしょっちゅうです。
子どもの頃からそういう環境で育てば、芸術を身近に感じ、当たり前に親しめるのは当然でしょう。そのため、欧米の人は特段、芸術を難しく捉えていないように思います。「あって当たり前」という感覚でしょうか。
一方、日本はというと、絵を1枚も飾っていないという家は多いものです。もちろん、欧米の家に比べて狭く、天井の高さも低いといった住宅事情も原因の一つでしょう。けれども、日本の家にも合う小さなサイズの絵は当然ありますし、そのなかから自分のお気に入りを探すこともできるはずです。そもそも「家に絵を飾る」という発想自体のない人が多いのだと思います。テレビは一部屋ごとに置いている家庭もあるのに……。
欧米の人の生活に芸術が根付いていると感じた出来事として、こんなこともありました。ニューヨークにあるサザビーズを覗いたときのことです。
ご存知の方も多いと思いますが、サザビーズとは世界で最も古い美術品の競売(オークション)業者です。創業したのはロンドンですが、現在はニューヨークや香港など、世界中に拠点を設けています。
ZOZOTOWNを運営するスタートトゥデイの前澤友作社長が、ジャン=ミシェル・バスキアの作品を約123億円で落札したことで話題になりました。実は、オークションに出品される作品はサザビーズに展示され、誰でも下見として無料で鑑賞することができます。世界的な名画や彫刻、歴史的価値のある古美術、超高級ジュエリー、人気スターの遺品など、さまざまな美術品を間近でじっくりと見られるので、私も機会があれば足を運んでいます。
あるとき、その会場で、まだ小学校低学年くらいの小さな子どもに、お父さんが一生懸命絵の説明をしていました。子どもも、その絵のすばらしさが分かるのでしょうか。食い入るように見つめて、お父さんに何やら感想を伝えているようでした。
日本では、あまり見られない光景です。日本の場合、小さな子どもをオークションハウスや美術館に連れて行こうという親御さんはあまり多くない気がします。けれども、感受性が鋭い小さな子どもだからこそ、「本物」に触れさせることで豊かな情緒や個性、想像力や創造力を育めます。私が見かけたお父さんは、芸術に親しむことの楽しさ、そして、それによって得られるメリットを分かっていたのでしょう。
私はつい、「お子さんとよく来るのですか?」と声をかけてしまいました。すると、その男性はこう言いました。「美術館は入館料も高いし、ここならタダで本物を見せられるから。しかも、こんなにすばらしいものばかり!」
私はその親子と接して、「小さい頃から芸術に触れるチャンスを与えられて、あの子どもは本当に幸せだな」と感じました。また、芸術に対する価値観が日本とはまったく違うなと考えさせられました。
フランスにおける文化予算の割合は、日本の「約10倍」
海外の美術館では子どもの姿をよく見ます。学校の先生に連れてこられた生徒たちが床に座って学芸員の話を聞いていたり、展示された作品を模写していたりして、とても楽しそうです。
こういった一人ひとりの芸術に対する価値観の差は、文化や芸術に使われるお金の額にも表れています。日本と諸外国の国家予算に占める文化予算の割合を見ると、日本が0.11%なのに対して、フランスはなんと1.06%にものぼります。その他、韓国やドイツなども、日本より高い割合を文化予算に割いていることが分かります。
一方、国家予算に対する文化芸術分野への寄付額の割合を比較したデータでは、日本、イギリスが0.02%なのに対してアメリカは0.32%で、寄付金の推計総額も1兆1470億円に達しています。
また、寄付額に関しては日本と同程度のイギリスですが、国家予算のほかに宝くじによる収入の一部を文化芸術への支援として活用するしくみがあります。2011年の場合、宝くじの売上から306億円が文化芸術のために使われました(平成24年度文化庁委託事業・野村総合研究所『諸外国の文化政策に関する調査研究報告書』より)。
文化や芸術に対して莫大な国家予算が組まれたり、多額の寄付が集まったりするのは、文化や芸術作品が国の財産として大事にされ、守られている証拠といえるのではないでしょうか。また、それに国民一人ひとりが納得し、誇りに思っているのだと感じます。
そこで思い出すのが、以前、フランスの新聞に載っていた話です。ある失業中の男性が、フランスにおける文化・芸術保護のための税金について尋ねられると、彼は次のようなことを話したそうです。
「ルーヴル美術館にある美術品をはじめとした文化・芸術はフランスの誇りだ。フランスの文化や芸術に触れるために、世界中から観光客も来てくれる。だから、僕は税金を払うことに反対はしないよ」
もし、日本だったらどうでしょうか? この男性のような発言はなかなか出てこないかもしれません。ここにもまた、欧米と日本の芸術に対する意識の差が表れているように思います。