学習塾・灘学習院の学院長である江藤宏氏の著書『東大・京大に合格する子どもの育て方』より一部を抜粋し、でたらめな答案を書いていた生徒が、京大進学を果たした理由を解説します。

考える練習をしてこなかった「でたらめ答案」君

考えることで子どもの可能性は広がるーーそれを実感させてくれた生徒がいます。彼は、小学生の頃からずっと「めちゃくちゃな答案しか書かない」といわれてきました。先生からすれば、「問題児」と呼ばれるような存在の生徒です。

 

例えば、学校でテストを行う時は、いつも一番先に「できました!」とニコニコしながら手を挙げていましたが、その答案を見ると、そこには全部でたらめとしか思えない答えが書いてあったそうです。先生はバカにされているのかと思ったようですが、本人に悪びれた様子はまったくなかったため、頭を悩ませていたそうです。

 

そんな彼が、私の塾に来たのは小学校6年生の頃でした。塾に通いはじめてからも、しばらく彼の授業を受ける様子は変わりませんでした。手を挙げるのは一番だけれど、答案の内容はめちゃくちゃ。もちろん、何もわかっていないからです。これまで「考えること」をしてこなかったのですから当然です。

 

結局、この「でたらめ答案」君の成績は、中学2年生まで公立中学のクラスでは下位グループ、塾の中では、一人だけ飛び抜けて最下位というものでした。

 

せっかく塾に通わせているのに、それでは意味がないのでは、と思う人もいるでしょう。確かに、成績などの結果がすぐ出ないことで不安になる保護者の方はいらっしゃいます。しかし、彼の母親は違いました。彼の可能性を信じ続けていましたし、彼も進んで塾に通い続けました。一度も休まずきちんと時間通りに来て、席についてニコニコしていた様子を今でも覚えています。

 

そして奇跡が起こりました。塾の授業での様子が、以前とはまったく変わったのです。

 

変わったといっても、最初の頃はただ問題をじっと見ているだけでした。ところが、これは傍から見ている人間には、じっと見ているように思えただけのこと。彼の頭の中では「どうしてこうなるのだろう?」「この問題文の意味はなんだろう?」と自問自答が繰り返され、真剣に考え続けていたのです。考え続けてさえいれば、答えに至らなくとも頭を使う訓練には十分になります。

 

彼はこれまでのような適当な答えを書かなくなりました。やがて鉛筆を持ち、手を動かすようになっていったのです。初めて自分で納得のいく答えを導き出せた時の輝くような彼の笑顔を、私はこの先、決して忘れることはないでしょう。

 

それからの彼の成績の伸びは、まさに「すさまじい」としかいい様がないレベルでした。とくに、中学3年生になってからの伸び具合はまさにロケットのようで、数学、理科第一分野などの教科では、瞬く間に塾のトップクラスの仲間入りを果たしました。

 

その結果、目指していた私立トップレベルの高校に合格。高校時代には数学と物理でたびたび満点を取り、学年一位を取ったこともありました。

 

「考える力」を手に入れた彼は、英語や社会など、覚えることが必要な科目も、苦労しながら着実に力を伸ばしていきました。今では京都大学工学部の大学院に進み、研究者を目指してがんばっています。

彼の力を最大限に引き出した「マジックワード」とは?

「でたらめ答案」君の可能性を引き出した塾と学校の違いは何だったのでしょうか?

 

塾には、彼のめちゃくちゃな答案を真剣に読もうとする人物がいたのです。彼の出した支離滅裂な回答も、私たちは「ここは、どういう意味?」「どうして、そう思うの?」と真摯に向き合い、読み解こうとしました。

 

実はこの「どうして?」とか「なぜ?」という疑問視こそが、子どもの考える力を伸ばす魔法の言葉、マジックワードなのです。このように問いかけられると、子どもは理由を考え始めます。つまり、頭が動き始めます。頭が動き始めることが、思考力を養う上では決定的に重要なのです。

 

ただし、同じ「どうして?」や「なぜ?」を使うとしても、絶対に犯してはならないことがあります。むちゃくちゃな答えに対して「どうして、こんなバカなことを書いたのだ」「なぜ、こんな愚かなことを考えたのだ」となじるような口調でいってはなりません。どれほどとんでもない内容が書いてあったとしても、絶対に非難しないことです。

 

そうでなく「こんなふうに書くのには、きっと、何か理由があるはずだ。その理由を子どもと一緒に考えてあげよう」と寄り添う気持ちを忘れないようにしてください。子どもは、自分に寄り添ってくれる相手を受け入れます。一緒に考えようとします。

 

「どうして?」「なぜ?」と自分で考え続けていれば、すごいことができるよ。東大や京大に入るなんて難しいことじゃないし、頭を使い続けていたらノーベル賞だって取れる、と大きな夢を与えてあげることです。ただ、本当にノーベル賞を取りたかったら、頭を使わないと無理だよと繰り返すことも忘れてはいけません。

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