成長鈍化は不可避
3.中国経済の減速をどう見るべきか?
周知のように、生産を規定する要因は、生産要素である労働力と資本、そして技術革新や労働の質的向上などのいわゆる全要素生産性(Total Factor Productivity、TFP)と呼ばれる要因である。中国経済が現在、労働と資本の両面から見て、中期的に高成長から中速度成長への転換期を迎えていることは否定し難い。
逆に言えば、構造改革が進み、成長が徐々に抑えられていくことが、むしろ、ハードランディングを回避する上で望ましいとも言える。習近平政権になって以降、まず2014年頃から、中国経済は「経済速度のギアチェンジ(換档)期」、「構造調整陣痛期」、「前期刺激策消化期」という3つが重なった状態に置かれており(“前期刺激策”は、2008年のグローバル金融危機に対応して発動された4兆元の大型財政刺激策を指している)、成長鈍化はやむを得ないという、いわゆる「三期叠加時期」の議論が専門家も活用して盛んに展開された。
そしてそれが、投資と輸出主導の高成長から、消費等内需主導の中速度の安定成長へ移行すること、すなわち経済の新常態への移行が不可避であるという議論につながり、こうした見解が、中国当局、およびアカデミクスの間で共有されているのが現状である。
新常態への移行の鍵を握る「諸改革」の動向に注意
中国の専門家の間からは、海外に対し「諸外国は中国経済に対して、これまでのようなU字型の成長回復を望むのではなく、中国経済がL字型の成長パターンになりつつあることを受け入れるべきだ」との指摘も出されるようになっている。海外関係者も、この指摘を中国経済の自然な流れとして受け入れ、それを前提として、必要な対策を考えていくことが肝要だ。仮に今後5-6%の成長としても世界的にはなお相当高く、またいわゆる“基数効果”も期待できる。
すなわち、2015年のGDPは67.7兆元、09年の34.5兆元の2倍近い規模だ。単純に言えば、絶対額で見ると、現在は5%成長でも、09年時点での10%成長と同等の付加価値を生み出す計算になる。その意味では、減速に対し過剰反応する必要はなく、むしろ、新常態へスムースに移行できるかどうかの鍵を握る諸改革がどう進むのかに注意を向けるべきだろう。