コインランドリー経営が秘める可能性
中小企業を苦しめる要因は、人、お金、市場の変化そして資金力である。そのため、これらの要素を解決できる第二の事業をスタートできれば、倒産リスクが小さくなり、会社が成長していく可能性が大きくなる。
そこを出発点として、私はこれまでにいくつものビジネスモデルを創出してきた経験を生かし、様々な業種を調べ、あらゆる事業を比較した。その結果、たどり着いたのが「コインランドリー経営」である。
それでは、コインランドリーと聞いてどんなイメージを持つだろうか。あまり使ったことがない人は、いつも人がいない、暗い、汚いといったイメージを持っているかもしれない。たしかにコインランドリーが日本に誕生した頃は、そういった店舗が多かった。
コインランドリーはもともとはイギリス生まれで、日本には1970年代にやってきた。洗濯機がない家をターゲットとした町の洗濯場といっても良いだろう。近年は洗濯機の普及率は100%で、どの家にも洗濯機がある。そのため、洗濯機が壊れた時や、布団やシーツなどの大物を洗う時に使うものととらえている人が多い。
実際、中小企業向けに経営安定や事業の多角化のコンサルティングをしていく中で「これからの事業はコインランドリーですよ」と顧問先に話しても、ほとんどの社長は戸惑った顔をする。
まずはそういった先入観をいったん脇に置いてほしい。私自身、様々なビジネスモデルを構築し、検証してきた経験から判断すると、コインランドリーにはとてつもない魅力と可能性があると確信している。
「人を使わなくてすむ」メリットは大きい
では、具体的に検証してみよう。まず、人にまつわる採用や教育の問題である。この点でコインランドリーが優れている理由は説明するまでもないだろう。
コインランドリーの収益源は洗濯機と乾燥機といったマシンである。そのため、人が原因で悩まされることがほとんどない。機種選びと台数の調整といった点では多少の工夫が必要かもしれない。しかし、人手不足に悩まされるリスクからは解放される。
機械はメンテナンスが必要だが、教育はいらない。突然辞めてしまうこともないし、誰かと揉めたり、感情によってパフォーマンスが落ちるといったことがない。簡単に言えば、人よりも圧倒的に確実に収益を上げる。
もっともコントロールしにくい人のマネジメントが必要ない。通常の事業では、コントロールしにくい要素が大いに存在する中で、コインランドリーは人という要素を全く省くことができる数少ない事業なのだ。
もちろん、人を雇うことによって得られるメリットもある。リスクとリターンの大きさは基本的に同じであるから、人を使う経営の方が、リスクが大きいとともに、リターンも大きくなる。
例えば、優秀な人材が集まれば業績も自然に上向く。「長く勤めたい」と考える人が増えたり「成長しよう」「もっと学ぼう」と取り組む人が増えれば、さらに業績が良くなるだろう。従業員同士がお互いに刺激し合い、成長の相乗効果を生む環境へと変わっていくこともある。
実際、安定的に成長している会社をみると、従業員が皆生き生きと働いている。そういう職場環境を作りたいと思っている経営者も多いだろうし、私自身、コンサルタントという仕事を選んだのは、世の中に楽しく働ける会社を増やしたいと思ったからだ。
ただ、それは言うほど簡単ではない。経営安定のために第二の柱となる事業を作り出すわけだから、リスクはなるべく小さい方が望ましい。その点で、コインランドリーは低リスクだと思う。採用や教育の面のみならず、人件費の高騰、従業員間の人間関係、パワハラ、セクハラなど、人と関わる様々なトラブルをあらかじめ避けることができるのだ。
現金商売であるという強み
3つの壁の二つ目である貸し倒れリスクもない。なぜなら、コインランドリーは現金商売であるからだ。コインランドリーの売上確保はシンプルな構造である。お金を入れて、マシンが動く。そのお金は日々回収される。これだけである。やり取りするお金が手形などに形を変えることもないし、お金をやり取りするユーザーと店の間に銀行などが入ることもない。
だから、お金が回るスピードが早く、売上げたお金が、すぐに手元にくる。ここが現金商売の最大の強みで、キャッシュフローが回っている限り目先の運転資金が足りなくなることがない。とくにコインランドリーは、お金を入れてからマシンが動く前金制であるから、取りっぱぐれることもない。商品ではなくサービスを売っているため、在庫とも無縁だ。そういうシンプルな構造をしている事業はつぶれにくい。
実際、コインランドリーは1970年代から存在しているが、地味に街に馴染み、存在し続けてきた。過去半世紀の間で、消えた商品やなくなったサービスは星の数ほどあるが、コインランドリーはずっと生き延びてきた。生き延びてきたというよりひっそりと粛々と収益を上げ続けてきた。実際、この業界を調べ出した際に驚いたのは、コインランドリーマシンの中古市場が全くないということだ。このことはつぶれるコインランドリーがほとんどないということを物語っている。
生活に密着した市場は消滅しない
第三の壁である市場の変化についてはどうだろうか。市場の変化で怖いのは、市場そのものが縮小することと、その結果として消滅してしまうことだ。
本書(『デキル経営者だけが知っている“デキル”コインランドリー経営』)前章で触れた不動産ビジネスは、市場内のプレーヤーが多く、長期的な人口減少というマクロ要因が市場を縮小させる可能性があった。ただ、家はどんな時代でも必要であるため、衣食住の住に含まれる賃貸市場が消滅する可能性はほとんどない。コインランドリーの市場も消滅する可能性はほとんどないと言えるだろう。
1970年代から長々と存在してきたことがその証明であるし、賃貸市場と同じように、衣食住と関連する市場であるため、時代がどのように変わっても常に一定の需要は見込める。
異業種を見渡してみても、生活密着度が高い事業は安定している。例えば、電気、ガス、水道といったインフラ系の事業は生活密着度が極めて高い。電気やガスが自由化され、多くの企業が参入するようになったのも、事業として安定感があり、収益性が見込めると考える企業が多いからだろう。
似たところでは、携帯電話も生活密着型だ。テレビを観ない日はあるかもしれないが、携帯電話やスマホを触らない日はほとんどないはずだ。肌身離さず持ち歩くという点で、携帯電話やスマホは文字通り密着している。
この分野も、かつては電気やガスのように大手の寡占状態だったが、最近は格安スマホなどの新規参入が増えている。長期的に安定して稼げる期待値が高いから、多くの会社が参入するのだ。
競争の激しさは別として、美容院も生活と密着しているし、化粧品も女性の生活に密着している。最近はコンビニも生活に欠かせないものになった。高齢者が増え続けている中で、病院や接骨院といった医療機関も生活密着型に含まれるだろう。
鈴木 衛
株式会社ジーアイビー代表取締役