コインランドリーの売上予測と表面利回りの計算例
実際に、コインランドリーはどれほどの収益が上がるのか見てみよう。標準的な店舗の広さは約20坪。コインランドリーとしては大型にあたり、洗濯機と乾燥機を合わせて12機16台の設置を一つのフォーマットにしている。もともと来場者数の多い商業施設に作るため、たくさん利用者が来た時に対応できる店舗でなければ、機会利益の損失となる。この標準的な店舗で運営を開始する場合、初期の投資金額は以下の通りになる。
【初期投資金額】(税抜き)
●建物設備:1500万円(物件により多少異なる)
●機械装置:2300万円
●その他オプション:100万円
●オープン準備費用:100万円
約4000万円ほどの投資金額で、商業施設で大型のコインランドリーをスタートすることができる。
次に毎月の売上予測を計算してみよう。まずは客単価だ。コインランドリーは一般衣類の乾燥のみであれば300~400円程度、布団などの大物洗いと乾燥の場合1300~1500円、平均して1回あたりの利用金額が約800円になる。1時間あたりの利用者数は2人と見積もり、それを営業時間で計算すると、毎月の売上が次の金額になる。
[売上]
800円(客単価)×2人(利用者数)×17時間(営業時間)×30日=81万6000円
[支出]
●変動費(電気、ガス、水道、洗剤等):20万4000円(25%)
●賃料:15万円(物件により異なる)
●店舗運営委託費:16万3200円(20%)
これらを計算すると収支合計は29万8800円。年間の収益は358万5600円となり、約9%の表面投資利回りとなる。収益を上げるには十分な数字だ。
今回は利用者数を2人としたが、これが1時間当たり3人で計算すると、月間で約122万4000円の売上になり、年間収益は627万8400円なので投資利回りは15.6%にもなる。
機器の稼働率12%でも、着実に収益を稼ぐ
先ほどのシミュレーションのように、たった一時間に2人の利用で利回り9%を出しているが、機器の稼働率は12%だ。普通の生産工場であれば即廃業の数字である。しかし、コインランドリーはこの程度の稼働率で着実に収益を稼ぐ。
なぜこのような稼働率なのか? 理由は先に書いたように、利用者が雨降りに殺到するからである。天候の影響をもろに食らうため、晴れている時はほとんど利用者がいない。
下記の図表2は、私たちの管理するコインランドリーの日々の売上をグラフにしたものだ。数字が上がっているところは雨の日、数字が下がっているところは天気の良い日。オープンしてからの経過年数が1年目から3年目の同じエリアの別のお店を比較しても同じ動きとなっている。
また図表3は、先ほどと同じ店舗の月の累計売上を比較したものだが、この年は空梅雨(からつゆ)で秋雨前線がすごかった年だった。年数を経過するごとに全体の売上は上昇していくが、天候と時期にかなり影響されることがおわかりいただけるだろう。
稼働率アップには「車で大物を運びやすい立地」が重要
最近のコインランドリーの利用は、一般衣類の乾燥と、布団などの大物洗いだ。天候に影響されるのは乾燥だけであるから、大物洗いが増えてくれば天気のいい日の売上が底上げされる。つまり稼働率が上がれば収益が上がることとなるのだ。実際に洗濯機が良く回る店舗の稼働率は高い。これは、コインランドリーが、まだまだ本当のポテンシャルを発揮できていないということだと思う。
そしてこのポテンシャルを引き出すためには、車で大物を運んで来やすい場所となる。私たちが商業施設にしか出店しない理由もそこにある。
では今度は、稼働率がどの程度上がると利回りがどのようになるか検証してみよう。次の表は、先ほどの機器の配置で、稼働率ごとの粗利益の比較をしたものだが、仮に先ほど同様に計算をしてみると、例えば稼働率20%の場合、月の売上は138万4222円となり、年間収益779万2657円、利回り19.4%となる。仮に25%の稼働率が実現できれば年間収益は961万9828円となり利回りは24%となる。
しかし、この稼働率をここまで上げることは可能なのだろうか? 試しに商業施設の来場者数から利用客を計算してシミュレーションしてみよう。
私たちは出店する際、商業施設の売上情報をたいていの場合入手できる。仮にその商業施設15億円の売上だとしよう。ちょっとした商業施設であればそれぐらいの売上だ。商業施設のレジ通過人数は年間延べ60万人。月間5万人が来場する計算となる。
日本のランドリー利用率は5%なので約2500人の見込み客が来場している。仮にこの来場者が全員コインランドリーを利用してくれたとしたら、単純計算で月間売上は200万円となり機器稼働率30%で利回り28.5%となる。
もう一つ商業施設の強みをお話しすると、商業施設にはちょっとしたスーパーでも50名ほどのパートさんがいる。このパートさんたちも共働きの見込み客にはならないだろうか。
今はまだ可能性の話だが、これまでの話と欧米のコインランドリー利用率が20%であることを考えれば、日本で特に商業施設でのコインランドリー経営には、潜在的な可能性を大きく秘めていると言えるのではないか。
時間がかかるにしてもマーケティングの戦略によっては、まだまだ利用者を取り込むことができ、伸びしろも大きい。これも私がおもしろいと思っている理由の一つでもあるのだ。
では、これらの予想をベースにした場合、投資資金の回収と収益はどのように進むのか。先述のように、標準的な初期投資金額4000万円として計算したのが、次の表になる。
ここで大事なポイントは、不動産でも同じだか、コインランドリーのような長い年数で行うビジネスは、利回りが少し変わるだけで未来の収益がとんでもなく差がつくということだ。
最低限の予測数値である利回り9%だとすると、回収に11.1年かかり、20年間の運営では3200万円の増加資金となる。仮に、マーケティング施策の成功等により、この利回りを15%にできれば、20年間の収益は1億2000万円で、キャッシュは8000万円も増えることになる。実現可能かは置いておいて、仮に25%の利回りであれば、20年間の増加資金は何と1億6000円のキャッシュが増えることとなる。
少し利回りが上がるだけで、20年ではかなりの差となる。
鈴木 衛
株式会社ジーアイビー代表取締役