平成27年の税制改正により、相続税の基礎控除額が引き下げられ、課税対象となる範囲が広がりました。相続対策にはさまざまな手法がありますが、正確な予想相続税額を把握しないまま実行すると、的外れの対策になりかねません。本記事では、26年間で5,000件以上の相続税申告・減額・還付実績を持つ「フジ総合グループ」の代表・藤宮浩氏が、無料の「相続税シミュレーション」の落とし穴について解説します。

無料の「相続税シミュレーション」は簡易的なケースも

◆無料の相続税試算に要注意!?

 

相続税が身近なものになり、金融機関や不動産会社、保険会社など、さまざまな企業が相続対策を意識した商品を打ち出すようになりました。どんな対策が必要なのかを検証するために、現状の財産内容から相続税の試算を無料で行ってもらえることもあるようです。

 

確かに、相続税の試算は必要です。ただ、無料の試算は簡易的であることが多く、不動産を詳しく調査すると計算結果に大きな差が生じる例もあります。

 

神奈川県のKさんから「財産に不動産が多く、相続対策として何を実行すべきかアドバイスがほしい」と相談があったときのことです。Kさんがお持ちの資料のなかに、某金融機関による報告書がありました。それは、Kさんの所有財産の一覧や想定される相続税の試算結果、相続対策の提案などがまとめられたもので、取引のある金融機関から半年ほど前に提供を受けたものでした。

 

◆市街地との境にある土地

 

財産一覧には預貯金や株式、不動産などがリストアップされ、不動産にはそれぞれ所在地や面積、相続税評価額などが併記されています。それを参考に、まず不動産の所在を地図に落とし込み、それぞれの立地や規模を把握することにしました。

 

不動産一覧のなかに、面積が約1,800㎡の山林(以下、A土地)がありました。記載されている評価額は約1億800万円と高額です。路線価図を見てみると、A土地は路線価6万円/㎡の道路に面しており、これに面積をかけて算定したものと推察できました。

 

ところが、A土地が位置しているのは「倍率地域」でした。

 

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相続税で土地の評価額を求めるとき、市街地にある土地は一般的に、国税庁が定める相続税路線価を用いた「路線価方式」により評価します。一方、路線価が定められていない地域(倍率地域)にある土地は「倍率方式」により評価します。倍率方式では、固定資産税評価額に一定の評価倍率をかけたものが相続税評価額となります。

倍率地域の土地を「路線価方式」で評価した結果…

◆土地の評価額に1億円以上の差が

 

A土地は、下記図表のように路線価のついた道路に面してはいるものの、倍率地域に位置しています。このような場合は、路線価方式ではなく倍率方式で評価します。 

 

[図表]路線価地域、倍率地域における評価額の差
[図表]路線価地域、倍率地域における評価額の差

 

金融機関は、A土地が倍率地域にあるにも関わらず、路線価を適用して評価しています。このような誤りは、実際の相続税申告で目にすることもあり、よくあるミスといえますが、評価額への影響は小さくありません。

 

倍率地域内の山林は原則として宅地化が見込めないため、大幅に低い評価額になるのが一般的です。A土地は、宅地化が制限される市街化調整区域(建物の建築などを制限し、市街化を抑制するよう都市計画で定められる地域)にあり、固定資産税評価額は約3万9,000円、評価倍率は23倍でした。よって、相続税評価額は約90万円です。

 

最初に試算されていた評価額1億800万円とは1億円以上もの差が生じました。この最初の評価額をもとに計算された相続税額は、あまり参考にはなりません。筆者は、改めて正確な相続税額を計算し直すことをおすすめし、それに基づいて相続対策のコンサルティングをすることとなりました。

 

◆相続対策はスタートが肝心

 

予想相続税額が大幅に異なれば、当然、行うべき相続対策も変わってきます。簡易的な概算では、本当に必要な対策を見誤るかもしれません。特に土地は評価額の大きい財産ですので、土地を持っている人は、その評価額をできるだけ正確に把握すべきです。

 

無料の相続税試算では、現地調査や役所調査をしないのが一般的です。土地の個別性を考慮せず評価額を求めていることが多いため、その精度には注意が必要です。

 

 

藤宮 浩

フジ総合グループ/株式会社フジ総合鑑定 代表取締役

不動産鑑定士 

 

 

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