一戸建ての特家住宅や賃貸住宅と並び、広く普及したマンション。私法としても「マンション法」は重要な法分野になりましたが、マンション法と一言でいっても、「区分所有法」、「マンション管理適正化法」など、その種類は様々です。本連載は、早稲田大学法科大学院教授・鎌野邦樹氏の著書『マンション法案内 第2版』(勁草書房)より一部を抜粋し、マンション購入の基礎知識、居住地の財産関係をはじめとした法律問題をわかりやすく解説します。本記事では、「マンション管理」に関する法的解釈について見ていきます。

マンション管理の実態と管理の適正化

(ア)マンション管理の実態

 

マンション管理適正化法について解説する前に、マンション管理の実態について述べておきましょう。マンションの管理の実態は、次に述べるように、区分所有法と矛盾・抵触するものではありませんが、同法が想定するモデル[図表1]とはいくつかの点で異なっています[図表2]。

 

[図表1]区分所有法が想定するモデル
[図表1]区分所有法が想定するモデル

 

[図表2]マンション管理の実態
[図表2]マンション管理の実態

 

第1は、規約について、区分所有法は、区分所有者が集会を開催してこれを設定することを基本的に想定していますが[図表1]、実際には、分譲時に分譲会社(または管理会社)があらかじめ作成した規約案(原始規約案[図表2])を、各区分所有者に対し書面で提示して、区分所有者全員の承諾を得るという形で設定される場合が多いです(国土交通省が2003(平15)年に実施したマンション総合調査(5年ごとに実施)によると、規約の8割近くがこのような形で設定されています(2013年度の同調査では同項目はなし))。

 

区分所有法は、全員の書面による合意を集会での決議とみなして(45条2項)、このような方式の規約の設定を認めています。

 

第2に、管理の方式に関しては、集会において管理者1人を選任するという区分所有法が想定している方式[図表1]ではなく、実際は、2013年度の前掲の国土交通省の調査によると、多くのマンションでは、集会で区分所有者の中から複数の役員(管理組合の理事および監事)が選任され、それらの役員により理事会が構成されます。

 

そして、理事の互選により理事長が選任され、理事長が区分所有法でいう管理者となります。同調査では、このように管理者を理事長とする管理組合が88.2%です。理事の選出方法としては、順番(輪番)が72.7%、立候補が32.3%、推薦が22.8%、抽選が9.4%の順です(複数回答可)。

 

このように、実際多くは、区分所有法上の管理者の業務(規約の定めや集会決議の執行業務)が、理事会によって行われており、そして、個別具体の業務については、管理業者(管理会社)に委託している場合が多いです[図表2]。

 

先の調査によると、管理業務のすべてを委託している管理組合の割合は72.9%、一部を委託している管理組合の割合は12.7%であり、多くの管理組合が管理業者と管理委託契約を締結しています。委託管理業者は、分譲時に分譲会社が提示したものが75.8%ですが、分譲後に管理業者を変更した管理組合も約18.3%あります。

 

(イ)マンション管理適正化法

 

上で述べたような管理の実態を背景として、2000(平12)年にマンション管理適正化法が制定されました。同法は、マンション管理の適正化を推進する目的のために、マンション管理の主体が管理組合であることを示したうえで、一方では、①マンション管理の専門家としてのマンション管理士の国家資格を創設して、これが管理組合の援助に当たることができるものとし、他方では、②マンション管理業者の登録および管理業務主任者の制度を創設すること等を通じて行政(国)が管理業者(管理会社)の業務を規制することとしました[図表2]。

阪神・淡路大震災の影響から「再建特別措置法」を制定

●再建特別措置法

 

(ア)阪神・淡路大震災

 

災害等で区分所有建物の一部が滅失した場合においては、区分所有法により建替えが可能です(62条)。しかし、建物が全部滅失した場合には、区分所有法の対象となる区分所有建物が存在しないことから、同法の適用はなく、共有する土地の分割など共有(または準共有)に関する民法の規定が適用されます。

 

ところが、1995(平7)年1月17日に生じた阪神・淡路大震災後の復興においては、同震災によって全部が滅失した建物(現実には一部が滅失した場合との差異は相対的であり、必ずしも明確なものではありません)について、区分所有法の建替えに関する規定に準じて建物の再建を望む声が少なくありませんでした。

 

そこで、同年3月24日に再建特別措置法(「被災マンション法」とも呼ばれます)を制定され(同日公布・施行)、将来の場合も含めて、大規模な災害で政令で定めるものに限っては、建物の全部が滅失したときにも、区分所有法の建替えに関する規定に準じて特別多数決議により再建を可能としました(1条、2条参照)。

 

(イ)東日本大震災

 

2011年3月11日の東日本大震災においては、区分所有建物の全部が滅失した例はないものの、倒壊の危険等があることから全員の合意により建物を取り壊した例がありました。そこで、このような建物の一部が滅失した場合等の措置が検討され、2013年6月に、主として次の①~④の改正がなされました。

 

すなわち、①区分所有建物の全部が滅失した場合に、その敷地の売却を集会の特別多数決で決議することができること(5条)、②区分所有建物の一部が滅失(大規模一部滅失)した場合に、区分所有建物および敷地の売却を集会の特別多数決で決議することができること(9条)、③②の場合に、区分所有建物を取り壊し、およびその敷地の売却を集会の特別多数決で決議することができること(10条)、④②の場合に、区分所有建物の取壊しを集会の特別多数決で決議することができること(11条)です。

 

なお、④において、その後に、その敷地に建物を再建したり(4条1項)、その敷地を売却する旨の集会の特別多数決議を行うことも可能です(5条1項)。

 

 

鎌野 邦樹

早稲田大学 法科大学院

 

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    本連載は、2017年11月20日刊行の書籍『マンション法案内 第2版』(勁草書房)から抜粋したものです。最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

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