不動産を活用した相続税対策は広く知られ、多くの富裕層が利用している。しかし、相続税の圧縮にばかり気を取られ、手元現金がゼロになってしまうケースも…。本記事では、相続案件を多数扱う、税理士法人田尻会計・田尻重暁税理士が、不動産を活用した「相続税対策」について改めて解説する。

調査官は重加算税をかけたがる
相続税の「税務調査」の実態と対処方法
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「借金をすると節税効果が大きくなる」といわれる理由

何事もやりすぎは、禁物です。相続税対策の「やりすぎ」は、かえって弊害を生むことがあります。

 

相続税対策のセミナーや書籍で、「賃貸不動産オーナーになって相続税対策をしましょう!」といったキャッチフレーズを目にすることがあるかと思います。賃貸活用している土地や建物については、相続税の財産評価上、一定の減額をすることができるため、所有財産をキャッシュから賃貸不動産にシフトすることにより、相続税の節税が図れるということです。

 

具体的には、所有する土地にアパートを建築すると、相続税評価の上で、その敷地の利用区分が自用地から貸家建付地に変わり、自用地評価より20%程度評価額を引き下げることができます。

 

【宅地評価】…貸家建付地評価

自用地評価額×(1-借地権割合(60%~70%)×借家権割合30%×賃貸割合)

※「借地権割合」は地域によって異なりますが、60~70%の地域が多いです。

※「借家権割合」は30%

⇒よって、貸家建付地評価は自用地評価の79%~82%になります。

 

建物についても、賃貸アパートは貸家評価となり、固定資産税評価の70%の評価となります。

 

【建物評価】…貸家評価

固定資産税評価額×1.0×(1-30%×賃貸割合)

⇒よって、貸家建物の評価は、固定資産税評価額の70%となります。

※固定資産税評価額は、一般に投資資金の約50%~70%となります。

 

たとえば、キャッシュで4億円を持っていると、4億円に対して相続税が課税されることになります。では、2億円で土地を購入して、2億円の賃貸アパートを建築するとどうなるでしょうか。

 

<土地の評価額>

◆路線価評価額2億円の更地に建築した場合(借地権割合:60%、賃貸割合:100%)

土地の評価額=2億円×(1-60%×30%×100%)=1億6,400万円

 

<建物の評価額>

◆2億円の物件(賃貸割合:100%)※固定資産税評価額を1億2,000万円とした場合

建物の評価額=1億2,000万円×1.0×(1-30%×100%)=8,400万円

 

4億円の資産が、アパートを建てると2億4,800万円に!

⇒1億5,200万円の相続財産の圧縮ができます。

 

資産家のなかには、この賃貸不動産による節税対策を借金で行う人もいます。手元資金だけでなく、借金をすると節税効果が大きくなるからです。

 

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下記[図表1]のように、もともと1億5,000万円の財産を所有している人が、4億円の借金をして、4億円で賃貸アパートを建築したとします。先述した例のように、4億円の賃貸不動産の相続税評価は2億4,800万円となり、もともと所有している1億5,000万円と合計しても、プラスの財産は3億9,800万円に圧縮されます。マイナスの財産である借金4億円を差し引くと正味財産はマイナス200万円となり、相続税がかからなくなります。

 

[図表3](対策後)Aさんと不動産所有法人のキャッシュフロー
[図表1]4億円の借金で賃貸アパートを建築したケース

「借金返済」「高額納税」で資金繰りが困難に…

「これで相続税対策はバッチリ、めでたし、めでたし」と喜んでいたのもつかの間、大きな落とし穴がありました。借金をともなう不動産投資は、キャッシュフローをしっかりシミュレーションしないと思わぬリスクが潜んでいます。

 

固定資産税などの必要経費だけでなく、借金の返済、毎年の所得税、住民税の支払いをきちんと試算しないと、結果的にどんどんお金が目減りして、資金繰りに困ってしまうということになりかねません。不動産賃貸により高額納税者となり、毎年の納税額は数千万円超え。そのうえで借金の返済をすると、ほとんど手元にお金が残らないという不動産オーナーさんが、数多くご相談に来られます。

 

このような方は、不動産所有法人を設立してキャッシュフローの改善ができるか検討するとよいでしょう。個人所得税は累進税率で最高税率は45%、高額所得者は住民税と合わせると50%以上の税率で課税されます。一方で、法人に課税される法人税は、地方税と合わせても30%程度の負担ですみます。不動産を法人に譲渡し、所得の一部を法人に移すことで、税率の差分、税額が安くなり、キャッシュフローが改善されるという理屈です。

 

下記[図表2]「(対策前)賃貸マンションを所有するAさんのキャッシュフロー」をご覧ください。

 

[図表2](対策前)賃貸マンションを所有するAさんのキャッシュフロー
[図表2](対策前)賃貸マンションを所有するAさんのキャッシュフロー

 

Aさんの不動産所得(差引利益)は5,000万円で、それに対する所得税は最高税率で計算され、2,270万円でした。納税と借金の返済をすると、Aさんの手元に残る資金は730万円になります。

 

「2、対策」にあるとおり、不動産所有法人にアパート建物を簿価で譲渡し、所得の一部を法人に移すことにしました。ここで、Aさんの子供など相続人の出資で、不動産所有法人を設立するのがポイントです。

 

不動産から得られる法人の利益は、法人の株価上昇につながります。Aさんが自ら出資すると、法人の株式はAさんの相続財産になりますので、株価の上昇はAさんの相続財産を増やすことになります。相続人が法人を設立すれば、法人株式はAさんの相続財産とはならないので、株価上昇がAさんの相続税に直接影響を及ぼすことはありません。

 

では次に、下記[図表3]「(対策後)Aさんと不動産所有法人のキャッシュフロー」をご覧ください。

 

[図表3](対策後)Aさんと不動産所有法人のキャッシュフロー
[図表3](対策後)Aさんと不動産所有法人のキャッシュフロー

 

不動産の一部を法人に譲渡したことにより、対策前5,000万円だったAさんの所得(差引利益)はAさん個人で600万円、不動産所有法人で4,400万円に分散され、個人、法人合わせて税金は1,589万円と負担が軽くなります。負担が軽くなった税金681万円はそのまま手元資金として残り、キャッシュフローの改善につながるのです。

 

不動産の譲渡により不動産が現金に換わるので、Aさんの相続税対策としては効果が薄くなりますが、「手元にお金が残らないので、老後の夢だった海外旅行にも行けない」「物件を売却しないと生活していけない」といった悩みからは解放されるかと思います。いずれにせよ、相続税対策もやりすぎは禁物、バランスが大事です。自分の生活スタイルに合った対策を心がけましょう。

 

 

田尻 重暁

税理士法人田尻会計 税理士

 

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