亡き父の借金500万、保険金1000万円…相続放棄すべきか?

※本連載では、司法書士法人ABC代表で司法書士の椎葉基史氏の著書、『身内が亡くなってからでは遅い 「相続放棄」が分かる本』(ポプラ社)から一部を抜粋し、さまざまな事例をもとに、「負債相続」の仕組みや解決方法、「相続放棄」の具体的な手続き等について解説します。

トラブルを事前に避けるため相続放棄をすることに…

 事例  相続放棄の申し立ては負債の存在を知っていた証拠?

 

神奈川県の田中聡さん(39歳)は一人暮らしをしていた父・和夫さん(65歳)が亡くなった時、親戚の人たちから、和夫さんが晩年、かなりギリギリの生活をしていたことを聞かされました。

 

母・敏子さんは聡さんが子供の頃に亡くなっており、和夫さんともここ数年は連絡をほとんど取っていなかったと言います。

 

聡さんの話によると、生前の和夫さんは、趣味にギャンブルにお酒にと大変な浪費家で、いつも敏子さんと喧嘩の絶えない日々を送っていたそうです。母親が早くに亡くなったのも父親が心労をかけ続けたせいだと思う気持ちがあり、聡さんは自ら関わりを絶っていたのです。

 

「もしかしたら父は、どこかで借金をしているかもしれない」父親の生活ぶりをほとんど把握できていなかった聡さんが、そんな不安を感じたのも無理はないでしょう。

 

そこで聡さんは、トラブルを事前に避けるため相続放棄をすることを決心しました。

 

親戚の人の話を聞く限り、資産らしきものはなさそうで、それよりも、借金をしている可能性の方がはるかに高いだろうと判断したからです。

 

そこで、インターネットで仕入れた知識を頼りに、家庭裁判所に相続放棄の申し立てをしたのです。

 

ところが、まさにその翌日、生命保険会社から聡さんに思いがけない連絡がはいります。実は、亡くなった和夫さんが生命保険に加入していて、死亡保険金が聡さんに支払われるというのです。その額はなんと1000万円。それはまさに思いがけない事実でした。

 

ただ、こうなると話は違ってきます。

 

相続放棄が認められてしまうと、この1000万円の受け取りも放棄することになる──。

 

そう思った聡さんは慌てて家庭裁判所に出向き、相続放棄の申し立てを取り下げました。

 

そして、その後、聡さんは無事、保険金を受け取ることができたのです。

 

ところが、それから半年後、当初の悪い予感が的中し、和夫さんに500万円ほどの借金があることが判明しました。

 

けれども、相続放棄の申し立ては取り下げてしまっていますから、当然その負債は聡さんが相続するしかありません。

 

「これはもう、保険金と相殺して支払うしかない──」

 

そんな愚痴をこぼす聡さんに、ある知人は思いがけないことを口にしたのです。

 

「死亡保険金って、相続に関係なく、最初から君のものじゃないの?」

 

実は、聡さんの知人が言う通り、死亡保険金は相続財産ではありません。受取人が聡さんに指定されていれば、相続に関係なく、それは聡さんのものです。

 

つまり、相続放棄をしたとしても、保険金は自分のお金として堂々と受け取ることができるのです。

「負債」があるという事実をいつ知ったのか?

さあ、そうなると、今度は、「相続放棄の再申し立て」をしなくてはなりません。

 

[図表]
[図表]

再度の申し立て自体はすぐにできますが、問題は果たしてそれが認められるかどうか、ということです。

 

すでに被相続人が死亡してから3カ月以上経過しているので、ポイントとなるのは、聡さんが「相続すべきもの(負債)があるという事実をいつ知ったのか」ということです。

 

確かに、はっきりとその事実を知ったのは、500万円の借金の存在が発覚した、被相続人の死後半年以上が経過したタイミングでした。

 

ただ、聡さんには過去に「相続放棄の申し立てをした形跡」があります。そのことが、聡さんが「被相続人の負債の存在を予想していたこと」を示していると言われても仕方がありません。

 

そうなると、「借金の存在を知る由がなかった」とは主張できず、実際、家庭裁判所からは、相続放棄の申し立てを「却下する」旨の通知が届いてしまったのです。

 

聡さんは藁をも掴む思いで、その知人に紹介された私の事務所に相談にやってきました。

 

家庭裁判所から申し立てを却下されても、通知を受け取った翌日から2週間以内であれば、家庭裁判所に異議を申し立てることは可能です。これを「即時抗告」と言い、審議は高等裁判所に上がることになります。

 

しかし、こと相続放棄に関する案件で、高等裁判所で判断が覆ることはまれで、家庭裁判所のジャッジが支持されるケースがほとんどです。

 

ただ、このケースの場合、負債の存在を知りえなかったうんぬんよりも、本当の問題は、「相続放棄すると生命保険金が受け取れなくなる」という事実誤認のほうにあったことは明らかでした。

 

もはやそれを強く主張する以外に方法はなかったのですが、幸いにもそれが認められました。そして無事、却下決定が破棄され、相続放棄の申し立てを認めてもらうことができたのです。

 

これは、私の長い経験の中でも非常にまれな、かなりラッキーな案件だったと思います。

 

生命保険金同様に、遺族年金のことを心配する方がいらっしゃいますが、遺族年金というのは、あくまでも遺族に対して支払われるものです。つまりこれも相続財産ではありません。たとえ相続放棄をしたとしても、きちんと支払われますので、心配は不要です。

 

相続財産となるのは、あくまでも被相続人が生前所有していたもの。被相続人の死をきっかけに発生したものはそれに当たりませんから、混同しないようにしてください。

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ABCアライアンスグループ代表
司法書士法人ABC代表社員
株式会社アスクエスト代表取締役
NPO法人相続アドバイザー協議会・理事 司法書士

1978年、熊本県人吉市生まれ。熊本県立熊本高校を卒業後、大阪に出て20代前半までバンド活動にいそしむ。そんな日々に限界を感じていた頃、熊本の母親が連帯保証人になっていた親戚の借金を引き継いでしまい自己破産することに。その際にお世話になった司法書士に触発され、心機一転司法書士を目指す。2005年、わずか9カ月の試験勉強で合格率3%の難関を突破し、一発合格を果たす。大手司法書士法人勤務を経て、2008年、大阪市内にて、つばき司法書士事務所を開業。借金の相続問題の専門家がいない事実に気づき、2011年に同所内に「相続放棄相談センター」、2016年に「限定承認相談センター」を開設。2013年10月に法人化と同時に事務所名を「司法書士法人ABC」に改称。現在、司法書士・行政書士等からなる専門家グループ「ABCアライアンス」の代表を務める。相続の専門家として年間2000件以上(センター合計)の案件に関わるなど業界の有名人として、メディア出演も多数。

著者紹介

連載身内の負の遺産をどうする?事例で学ぶ「負債相続」対策

身内が亡くなってからでは遅い 「相続放棄」が分かる本

身内が亡くなってからでは遅い 「相続放棄」が分かる本

椎葉 基史

ポプラ社

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