小児科医ママの離乳食…「鉄」を生後6ヵ月から摂らせる理由

今回は、赤ちゃんはどんな時に鉄が足りなくなるのか、さらに赤ちゃんにいつごろから鉄を与えればいいのかを見ていきます。※子育ての悩みは色々ありますが、「食事」に関して頭を抱えてしまうことは珍しくありません。子供の成長には何が重要で、どのように食べさせたらいいのか…考えれば考えるほど行き詰まりを感じてしまう方も多いでしょう。本連載では都内のクリニックで年間1万人もの子どもを診察する工藤紀子小児科医が、赤ちゃんの発達に欠かせない栄養素と、その栄養素の与え方を説明していきます。

「鉄欠乏」が子どもに様々な影響を与える

「鉄を制するもの、育児を制する」といってもよいくらい、「鉄」は赤ちゃんの成長に欠かせない大事な栄養素です。では、どんなときに鉄は足りなくなるのでしょうか。

 

●摂取不足(体に入ってくる量が少ない)

つまり、食べ物から摂取する鉄が減るときです。鉄が含まれている食材を食べていないことが原因で起こります。また低出生体重児で生まれた赤ちゃんは、母親からの鉄を十分にもらえないまま生まれてくることが多いので、もともとの蓄えが少なく、鉄がすぐ足りなくなってきます。

 

●需用量増加(使う量が多い)

乳児期の赤ちゃんは、人生のなかで一番成長します。生まれたときの体重が平均約3キロ、これが1歳半には平均約10キロになります。身長は平均約50cmだったのが平均約80cmになります。このように1年半程度の短期間で体重が3倍以上に増え、身長が1.6倍に伸びる時期は、人生でこの時期しかありません。これだけ成長すれば、筋肉も骨も急激に増え、鉄を使う量も一気に増えます。

 

もし一年半後にあなたが体重は3倍、身長は1.6倍になると考えてみたら…いかに凄いことか、イメージが湧くかもしれませんね。

 

●損失増加(体から出て行く量が多い)

血液=鉄が体の外に出てしまうとき、たとえばアレルギーなどで腸管から少しずつでも出血してしまっているときや、不慮の事故で頭のなかや体内で大出血を起こしたときは、鉄が足りなくなります。鉄も足りなくなりますが、血液自体が足りなくなり、最悪輸血ということになりかねません。しかしこれは普段の生活ではあまり考える必要はないでしょう。

 

次に、体のなかに鉄が足りなくなるとどうなるか考えてみましょう。

 

前回話した通り(関連記事『小児科医ママが、必ず摂取させたい栄養素に「鉄」をあげる理由 』)血中のヘモグロビンの鉄(例えるなら、財布のなかのお金)が足りなくなってきても、鉄にはフェリチンという貯蔵庫(例えるなら、銀行の預金)があり、そこから補充されるので、しばらくはなんとか過ごせます。しかし貯蔵されている鉄を使い切ってしまうと本格的に貧血になり(例えるなら、財布も預金も空っぽの状態)、「鉄欠乏性貧血」という状態になります。

 

鉄が不足すると、酸素の運び屋がいないので、身体中が酸欠状態になります。脳が酸欠だと頭が痛くなり、筋肉が酸欠だと疲れやすくなります。食べ物からのエネルギーを効率よく摂取できないと、体も大きく育ちにくくなります。心のバランスを司るドーパミンやセロトニンのコントロールもできなくなり、癇癪を起こしやすくなり、グズりやすくなります。

 

さらに近年、貯蔵されている鉄が空っぽ(=預金がない)だけど、リサイクルで新しい赤血球を作るのに最低限の鉄はあるという状態(手持ちのお金だけでなんとか回っている状態)でも、鉄不足の症状を起こすことがわかりました。つまりヘモグロビンの鉄はとりあえず足りているのだけど、フェリチンという貯蔵庫が空っぽだと、鉄不足と体が判断してしまうのです。

 

このようなことは、すでに多くの文献で報告されており、鉄欠乏が言語機能、視覚認知、空間記憶など学習機能、運動機能に影響を及ぼすということは広く知られているのです。

子どもはいつから鉄不足になる可能性があるのか?

この鉄不足、一体いつから起こりうるのでしょうか。

 

赤ちゃんはみな、お母さんのお腹のなかにいる間に、体に必要な鉄を十分に蓄えてから誕生します。しかし、母乳で育てている子の場合、この鉄の蓄えである「貯蔵鉄」は次第に減っていき、6ヵ月を過ぎるころにはほぼ使い切ってしまうとWHO(世界保健機関)でも報告されています(早産児の場合は蓄える前に生まれてきてしまうのでもっと早く減ってきます)。

 

2019年3月、厚生労働省が出している『授乳と離乳の支援ガイド』が12年ぶりに改定されました。そのなかでも「母乳育児の場合、生後6ヵ月の時点で、ヘモグロビン濃度が低く、鉄欠乏を生じやすいとの報告がある」(同ガイドライン32ページから抜粋)と記載がされるようになりました。

 

鉄は脳にも筋肉にも神経にも欠かせない大事なものなので、何とかして鉄欠乏は防がなければなりません。だからこの時期に離乳食を始めて、補充をし始めないといけないのです。

 

ご存知の方もいるかもしれませんが、改定前のガイドラインでは生後9~10ヵ月から鉄不足になるとされていました。これは、ヘモグロビンの鉄がなくなり始めて貯蔵鉄のフェリチンからの補充を使い切り(これが6ヵ月のころ)、そしてそのあとヘモグロビンの鉄がなくなり鉄欠乏性貧血になるのが生後9~10ヵ月といわれていたためです。

 

しかし、ヘモグロビンの鉄がなくなり(財布が空っぽ)、貯蔵鉄のフェリチンもない状態(預金がない)から、再びヘモグロビンもフェリチンも満たされるまで(財布も預金もお金で満たされる)には、鉄を補充し始めてから3ヵ月程度かかるといわれています。

 

鉄が6ヵ月からなくなり始め、9~10ヵ月で気がつき、そこから鉄を積極的に補充しはじめて1歳で鉄が満たされるとしたら、心身ともにグングン伸びる生後6ヵ月から1歳までの時期に、鉄が足りない状態で過ごさなければならないということになります。

 

これは大きな問題で、成長発達に重要な時期に鉄が欠乏状態にあることで、そのあと鉄欠乏が解消されても、4~5歳と大きくなったときに学習能力や言葉の発達、運動機能が遅れることがあるという報告があります。

 

私は、日本の子どもたちの将来のためにも、日本の国力をあげるという意味でも、少なくとも生後6ヵ月からはなんとしても鉄を摂取し始めるということを広めて、変えていかなければならないと思っています。絶え間ない鉄の補充が大事だからです。

 

そこで、今この記事を読んでいる皆さんには、ぜひ「鉄の使者」になり、家族にも周りの友人にも、鉄を摂取するように呼びかけてもらえませんか。今すでに我が子の離乳食を始めているという方は、さっそく今日から鉄を摂り始めましょう。

 

次回は、子どもにどのようにして鉄を与えればいいのかを説明していきます。

 

小児科専門医・医学博士

順天堂大学医学部卒業、同大学大学院小児科思春期科博士課程修了。栄養と子どもの発達に関連する研究で博士号を取得。日本小児科学会認定小児科専門医/日本医師会認定産業医/日本医師会認定健康スポーツ医/こころ新橋保育園嘱託医/東京インターナショナルスクール中目黒キンダーガーデン嘱託医。夫の仕事でアメリカに渡り子育てを経験する。現在2児の母。都内クリニックにて、年間のべ1万人の子どもを診察しながら子育て中の家族に向けて育児のアドバイスを行っている。
最新著書『小児科医のママが教える 離乳食は作らなくてもいいんです。』(時事通信社)

著者紹介

連載子どもに食べさせたい!離乳食期に必要な栄養素

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