毎回の食事から摂取するしかない「亜鉛」
前回(関連記事:『小児科医ママが語る子どもの栄養…味覚を育む「亜鉛」の重要性』)説明した通り、「亜鉛」は身体中の様々な部分に存在していて、およそ300種類以上の酵素の活性化に関わり、健康に過ごすために必要なたくさんの役割を果たしています。子どもについても同様で、亜鉛には以下3つの役割があります。これを見れば、子どもの成長にとっていかに亜鉛が大切なのか、離乳食の時期はしっかり亜鉛を摂らせないといけないのか、わかるでしょう。
①おいしいものをおいしいと感じる「味覚形成」の役割
②元気な皮膚と体をつくる「成長発育や免疫の鍵」となる役割
③赤血球を作り「貧血を防ぐ」役割
実は亜鉛は今も研究段階の栄養素で、これら以外の役割に血糖のコントロールや生殖機能の維持、老化などにも関与するといわれています。今回は離乳食時期とはあまり関連がないので、詳しく述べていません。
■亜鉛は体に貯蔵できるのか
このように大切な役割のある亜鉛ですが、我々の体に貯蔵することはできるのでしょうか。以前お話しした鉄は、ある程度、体内に蓄えておくことができました。しかし残念ながら亜鉛は蓄えておくことができません。
そのため日々亜鉛が含まれる食材を食べて、常に亜鉛をある程度体内に維持しておかなくてはなりません。亜鉛は、日頃から食べ続けることによって保たれる栄養素なのです。
無理に「フォローアップミルク」に変える必要はない
■母乳のなかの亜鉛
最近、母親自身がダイエットをしたり、偏った食生活を送ったりすることにより、母親の体内に亜鉛が少ない状態になり、母乳中の亜鉛も減ってきているといわれています。そして母乳に含まれる亜鉛は、最初のころ(初乳)が一番高く、そのあとドンドン減ってきて生後3~4ヵ月にはほとんどなくなってしまいます。そこで生後5ヵ月から始める離乳食からの亜鉛摂取が大切になってくるのです。
■フォローアップミルクに含まれていない亜鉛
フォローアップミルクという種類のミルクがあります。これは離乳食では補えきれない栄養と考えられている「鉄」と「カルシウム」、「ビタミンD」を補充するものです。育児用の通常のミルクには亜鉛は含まれていますが、日本で売られているフォローアップミルクに亜鉛は含まれていません。
生後9ヵ月になったからといって育児用ミルクからフォローアップミルクに変更する必要はありません。また離乳食が進んでいないことだけを理由に、フォローアップミルクに変えると、離乳食からもミルクからも亜鉛が摂取できなくなり、亜鉛が足りなくなるという状態に陥ってしまうため注意が必要です。
鉄を多く含む「赤身の肉類」は亜鉛も豊富
■亜鉛が多く含まれる食材
厚生労働省によると、6~11ヵ月の子どもの亜鉛の食事摂取基準(1日に必要なエネルギーや栄養素量を示した基準)は、3mgとされています。では亜鉛の摂取を考えたとき、どのような食材を離乳食として与えればよいのでしょう。
亜鉛を豊富に含む食品として、よく知られているのが、牡蠣です。しかし牡蠣は食中毒の心配もあり、細かくすりつぶしたとしても離乳食には適しているといい難いでしょう。
次に亜鉛を多く含む食材として、牛肉の赤身、豚肉の赤身、鳥のレバー、豆腐、納豆、卵黄、チーズがあります。鉄が多く含まれる赤みの肉類は亜鉛も豊富に含まれているので、赤身の肉類をうまく離乳食に取り入れていくといいでしょう。
ただし以前も説明したように、肉類は常に食中毒の危険が隣り合わせです。離乳食を作る際には、衛生面に十分に気をつける必要があります。もしくは衛生面にすでに配慮されている、肉類が含まれている市販の離乳食や、亜鉛を多く含む海外製の離乳食を与えてもいいでしょう。
豆腐や納豆などの豆類にも亜鉛が含まれていますが、同時に豆類には亜鉛の吸収を妨げるフィチン酸という物質が含まれています。フィチン酸は亜鉛とくっつくことにより、腸から亜鉛が吸収できなくなってしまう作用があります。そのほかに亜鉛の吸収を妨げるものに、食物繊維やカルシウム、オレンジジュースなどが挙げられます。
これらのことからも、亜鉛を効率よく与えるには、肉類を用いた離乳食や、亜鉛を多く含む海外製の離乳食を用いることだと考えられます。離乳食が進まないことだけを理由に、鉄は豊富でも亜鉛はゼロのフォローアップミルクに変えると、亜鉛が足りなくなる恐れがあるのです。
離乳食は母乳・ミルクだけでは足りなくなる栄養を補うためのものです。日々成長し、動き回る子どもの安全を確保しつつ育児をする…このような状況のなかで、栄養面や衛生面に配慮して離乳食を手作りするのは、難しい場合があります(筆者にとっては、難題でした!)。子どもの発育発達に必要な栄養を大事に思うからこそ、市販の離乳食を用いるという選択肢は、筆者はあると考えています。