なぜ「ビタミンD不足」は起きるのか?
前回(関連記事:『日光浴の不足?増加が危惧される「赤ちゃんのビタミンD不足」』、ビタミンDは骨を強くするビタミンであり、太陽の光で産生されるので窓越しでなく直接の日光を安全な範囲で浴びるとよい、と話をしました。先日のあるテレビドラマでも「過度の紫外線対策が原因の一つで子どもがくる病に」、という話があったようです。ビタミンD不足の子どもが増えているという背景を反映しています。
復習ですが、「いまの季節、時間に、自分はどのくらい日光を浴びたらよく、日焼けをしないために何分以上は避けたらいいのか」ということについては、国環研(国立環境研究所)の地球環境研究センターのWEBサイト(モバイル用簡易サイトはこちら)で確認可能です。
ではこのビタミンDが足りなくなる場合はどのような場合でしょうか。これには生まれたときから低い場合と、供給が足りない場合があります。
■生まれたときから低い場合
(1)妊娠中のお母さんのビタミンDが低い
ビタミンDは妊娠の終わりごろ、胎盤を通じて赤ちゃんに移行します。したがって、お母さんの体内のビタミンDがもともと低い場合は、赤ちゃんのビタミンDも低くなります。
(2)早く生まれた赤ちゃん
お母さんから十分なビタミンDをもらう前に生まれてきてしまうので、早く生まれた子は生まれつきビタミンDが低い状態にあります。
■供給が足りない場合
(3)母乳栄養の子、十分なミルクが飲めない子
母乳は赤ちゃんにとって大切な栄養が豊富ですが、実は母乳中のビタミンD濃度は100ml中0.06~0.3μg程度と低く、なんと母乳のみで育つ赤ちゃんの75%がビタミンD不足であるという報告があります。
育児用ミルクにはビタミンDが100ml中0.8μg〜1.2μgになるまで添加されていますが、ある程度の量が飲めて初めて、1日の必要量に達するので、生後しばらくはビタミンDが足りていない状態にあります(具体的な量は後述します)。
(4)日光を浴びない生活が続くとき
なんらかの理由によって家のなかに居続けなければいけないとき、また緯度が高い地域で天候不良が続くとき、日光によるビタミンDの生成ができないので、足りなくなります。特に冬場は赤ちゃんを、窓越しではなく、直接日光に当てること自体が少ないため、ビタミンDが足りなくなりがちです。
(5)完全母乳の子で、離乳食が進まないとき
完全母乳の場合、母乳中のビタミンDが低いので、離乳食で補う必要があります。ただし離乳食でしらすやシャケのようにビタミンDが豊富に入っている食材を食べない、食べられない、なんとなくあげていない場合は、食事から補えずビタミンDが足りなくなります。卵黄にもビタミンDが含まれるためか、先日放送されたドラマでは、カルテにあった「卵アレルギー」という記述がヒントとなり、赤ちゃんのビタミンD不足が判明するというシーンがありました。
(1)~(5)のことを考えると、実は多くの赤ちゃんがビタミンD不足の可能性があるのです。
日本の「ビタミンD基準」はもっと高くあるべき!?
日本のビタミンDの摂取基準は、生後1年間は5μg/日=200IU(国際単位)とされています。この摂取基準は、アメリカ小児科学会が提示をしている「くる病を回避できる必要量」を採用しています。くる病にならないために必要な量が5μg(200IU)/日ということです。参考までにアメリカ小児科学会での乳児のビタミンDの推奨量は倍の10μg(400IU)/日となっています。
日本のビタミンDの基準が世界の基準と比較しても低いのは乳児に限ったことでなく、すべての年代で低い基準になっています。日本人に多い肌の色タイプから考えると、ビタミンD不足になるリスクは白人よりも高いため、本来は少なくとも世界と同じ基準か、少し高い基準にしてもよいのでは、と筆者は考えています。
シラス、シャケ……ビタミンDが豊富な食材
ビタミンDを摂取するには、ビタミンDが多い食材を食べるか、赤ちゃんから使えるサプリメントで補給するか、どちらかになります。妊娠中のママは医師と相談のうえサプリメントを使用するか、以下の食材を意識して食べるようにするとよいでしょう。
■ビタミンDが豊富な食べ物
※カッコ内:くる病にならないための必要量、一日5μgを満たすための量
・シラス(10g)
・シャケ(23g):参考 シャケ1切れ およそ100g
・秋刀魚(25g)
・ヒラメ(28g)
・さばの水煮(45g)
・マグロ赤身(100g)
・ツナ水煮(166g)
・干しいたけ:水で戻したあと(45g)
・きくらげ:水で戻した後(56g)
・卵黄(83g):およそ卵4個分
離乳食時期の赤ちゃんは、たくさんの量を食べることができないため、シラスやシャケなど少量でもビタミンDが豊富に含まれている食材を使用するとよいでしょう。ただし塩分も多いため、しっかり塩抜きしてから、離乳食としてあげるのがポイントです。秋刀魚は小骨があるので、骨がないかしっかりとチェック。ちなみに離乳食でよく使われる生のタラには、残念ながらビタミンDはほとんど含まれていません。上記の食材を組み合わせて、上手にビタミンDを摂取してください。
「ビタミンDサプリメント」の上手な使い方
ビタミンDには、生後1ヵ月から使用できるサプリメントがあります。サプリメントは一滴あたり2μgなので、2滴で4μgになります(一滴で5μgのものもあります)。これは無味無臭のオイルでできているため赤ちゃんでも飲みやすく、大人のキレイに洗った指先に垂らして赤ちゃんに含ませたり、哺乳瓶の乳首に垂らしたりして飲ませます。完全に母乳だけで育てている子の場合は、母乳のビタミンD濃度は100ml中0.06~0.3μg程度であるため、このサプリメントによる補給が必要な場合が多いと考えられます。
先ほど育児用ミルクにはビタミンDが添加されていると説明しました。メーカーによって入れている量に差がありますが、100ml中0.8μg〜1.2μgのため、1日に416ml〜625ml飲めるようになって初めて1日の必要量である5μgを満たすことができるようになります。それまでは、サプリメントで補充してあげるといいでしょう。
参考までにアメリカでは、1日推奨量が10μgであるため、おおよそ1日に1000ml飲めるようになるまでは、ビタミンDをサプリメントで補給することをすすめています。ミルクのみ、もしくは混合栄養の子の場合も、離乳食が進んでいないとビタミンDが足りない場合があります。一度、かかりつけの医師に相談してみてください。離乳食の進みに関しては、受診する前3日間の離乳食を書き出してから行くと、栄養が足りているかどうかがより具体的にわかります。
手軽に摂取できるビタミンDサプリメントですが、用法用量を守って正しく使うことが大切です。使用にあたり少しでも不安があるのなら、かかりつけの医師などに相談してみるといいでしょう。
■まとめ
ビタミンD不足にならないためのポイントや、医師に相談する際の注意点をまとめました。ぜひ、参考にしてみてください。
(1)適度に日光を浴びる(適度な度合いは、国立環境研究所・地球環境研究センターのWEBサイトを参考)
(2)妊娠中、特に妊娠後期はビタミンDを意識して摂取する
(3)完全母乳栄養の子はビタミンDが足りなくなることが多いため、医師と相談しサプリメントを使う
(4)混合栄養、ミルクのみの場合も、飲める量や離乳食の進み具合によっては、ビタミンD不足になることがあるため、医師に相談する
(5)離乳食には少量でもビタミンDが摂取できるシラスやシャケを用いたものを与える
(6)離乳食の進み具合を相談する場合は、受診する前3日間の離乳食を書き出しておく