FOMCで、利上げとFRB資産縮小の停止を決定
米連邦準備銀行FRBは、3月19-20日に開催した米連邦公開市場委員会(FOMC)で、政策金利を据え置いた(フェデラルファンド(FF)金利の誘導目標を2.25-2.50%のレンジのまま)。同時に、今後の金利見通しを示し、年内の利上げ予想回数をゼロとした。また、FRBの保有資産の縮小を今年9月に停止することも明らかにした。
金利見通しが示された前々回、昨年12月のFOMCでは、2019年の利上げ回数は2回としていた。今回のFOMCでは1月FOMCを踏襲し、政策金利を「辛抱強く」判断していくとしたうえで、利上げの見通しも年内にはないと変更したのである。
パウエル議長は、会見で、現状は、金融政策の変更を引き締めるとも緩めるとも肯定するデータはないことから、FRBは辛抱強い姿勢を続けると述べた。また、辛抱強く判断するということは、政策金利が適切な水準にあると考えているということでもあり、判断を急ぐ必要がないからだと述べた。
また、「雇用とインフレの見通しが変更されるには時間がかかるかもしれない」とも述べた。背景としては、景気減速懸念に加え、国外リスクが見通しを不透明にしていることを反映して、世界経済が圧迫されているうえ、エネルギー価格が下落したことからインフレも抑制された状態にあり、政策金利を維持することが可能な状況だと説明した。
FOMC後に公表された声明によると、米国経済に関しては、1月の前回FOMC以降、雇用の伸びは堅調で、失業率は歴史的にも低い水準が続き、雇用市場は力強く推移したものの、経済全般に、成長は2018年第4四半期のペースから鈍化したことが示唆されたとした。
具体的には、この第1四半期に家計支出(消費)と企業の設備投資の伸びが減速したことが背景にあるようだ。インフレ率は、食品とエネルギー以外の項目のインフレ率は2%付近にとどまっているが、主にエネルギー価格の低下により、前年比ベースで下落し、全般には落ち着いて推移しているとした。
よりハト派に転換したFRB…市場の反応は?
FRBは、経済見通しに関しては、経済活動の持続的拡大と力強い労働市場環境が継続する可能性が高いとしているが、インフレ見通しは前回の予測から明らかに下方修正した。2020年〜2021年見越しても個人消費支出(PCE)価格指数が2.0%にとどまるとの予想が示されたほどで、当面、インフレを警戒する姿勢は取らず、政策金利を上げる必要がないとの判断に至ったということである。
市場では、1月のFOMCを受けてなお、FRBは米国経済を堅調と判断し、インフレには警戒姿勢を維持すると見て、年内に1回は利上げすることを予想していた。しかし、今回示された予測(ドットチャート)によれば、17人の委員のうち、11人が今年は利上げがないと予想。利上げ1回の予測が4人、利上げ2回の予測は2人にとどまり、利上げが必要との意見が少数派に転じた。
また、2017年9月から続けてきた、量的緩和の出口戦略としてのFRBのバランスシート(保有資産)の縮小を今年9月に打ち止めにすることも明らかにした。つまり、資金供給を絞ることを止め、景気に配慮して、政策金利と同様に、我慢して経済成長の推移を見守る姿勢を明確にしたのである。
今回のFRBの姿勢の変化は、市場に、より景気配慮が色濃くなったことを印象付けた。市場は、FRBがハト派に転換したと評価するだろう。世界的なリスク要因に注意が必要なことは言うまでもないが、各国中央銀行が緩和的な金融政策姿勢を示し、経済成長を見守るスタンスでいるという安心感は、プラスとなるのではないか。2018年ほどの経済成長は望めないが、年内、マイルドに成長が望めるシナリオは描けるのではないだろうか。
市場では、米国債券市場では、長期債に買いが入り、金利は低下した。利回り曲線は平坦化が一段と進んだ。為替市場では、金利上昇見込みが後退したことから、米ドルが売られ、ドル円で110円台半ば、ユーロドルは1.14ドル台半ばに、ドルが下落した。米国株式相場はまちまちだったが、金利低下を理由に金融株が値を下げた。
ただ、ここから米ドル金利が、継続的に低下するということも、直ぐには予想し難い。債券市場には、長期債を中心に資金は緩やかに回帰する落ち着いた展開を、為替市場では、消去法的に米ドルが買われる展開を、株式市場では、経済成長の緩やかな軌道維持からのじり高の展開を予想する。
長谷川 建一
Nippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank(NWB/日本ウェルス) CIO