節税対策にかけたコストと効果を比較する
日進月歩、朝令暮改
変化が早い世の中をあらわすのに使われる四字熟語です。昨今、過去の成功が今日の失敗に、今の非常識が明日の常識となる中、企業経営者には即断即決の判断が当然のように求められています。
筆者も経営者ですので、社会・経済情勢が刻々と変化する中、創意工夫を重ね、大いに努力しているつもりです。そういった試行錯誤の末に「税引前経常利益」をなんとかひねり出しています。それはどの企業にとっても汗と涙と努力の結晶だと思います。しかし、国はいとも簡単にそのうちのおおよそ30%を法人税として徴税します(事業税や住民税を含んだ実効税率。資本金1億円超と1億円以下の会社で若干変わりますが、おおよそ30%とします)。
ご存じかと思いますが、納期限に遅れようものなら、このゼロ金利時代には考えられないほどの高い利息で延滞税が請求されます。もちろん、利益を出すまでの苦労や過程は一切評価されません。
「利益が出たのね、はい、30%徴税!」
そうです、情け容赦などはないのです。
企業の財務体質を強くしたい場合には、税引後利益の70%をコツコツと蓄えていくことが良い選択肢のひとつであることも事実です。しかし、それでも仕入れや設備投資、財務活動などでキャッシュアウトしてしまうのでは、後々の倒産リスクに繋がりかねません。
そんな法人税の対応・支払いに四苦八苦している多くの経営者にとって耳障りの良いキーワードが「節税」です。
私もこの響きを聞くたびに、心が躍ります。会社の財務や資金繰りに詳しくない経営者であっても、節税の話(ノウハウ)にはやたらと詳しい人が多いという摩訶不思議な現象が起こるのも、この言葉の魔力に惹きつけられている経営者が多いことの証左かも知れませんね。
しかし、その節税対策としてかけたコストに対して、どのくらい効果があるのかという問いに、はっきりと答えられる人は少ない気がしています。そこで今回は私個人の事業経営者の目線で、巷に溢れる数多くの節税方法の中から、いわゆる「費用対効果」の高さ(得か損か)を基準に選んだ対策の一例を簡単に紹介します。
「保険以上の機能を有する」節税商品とは
<費用対効果が高い>
・小規模企業共済(経営者・役員個人)
日々の業務に追われる中小企業オーナーの場合、引退や承継時に気付くのが自身の退職金がないことです。引退後も生きていくのに必要なお金をどう確保するか? 保険で賄うことも考えたいところですが、保険の場合、「実質返戻率」という表現でお得であることを謳っているものの、払った以上には戻ってきません。
しかし、小規模企業共済は、所得控除の対象であり、対象者が中途で亡くなった場合にはその時点までの拠出掛金が全額戻ってきます。受け取りの際にも、退職所得として控除を受けることが出来ます。
・ふるさと納税(経営者・役員個人)
「官製通販」と呼ばれるなど、都心の自治体首長を中心に批判の嵐となっているふるさと納税ですが、寄付(実は納税)した額の30%近い返戻品が受け取れます。私の知り合いで、これで1年分の食費を賄うツワモノも存在します。ただし、返戻品は一時所得扱いになりますので、50万円の一時所得控除を超えると課税のリスクがあります。最近では、確定申告でふるさと納税の返戻品の時価から、一時所得の申告漏れを指摘されたという事例もありますので注意が必要です。
・中小企業倒産防止共済制度(法人)
本来は、取引先企業の倒産に伴う連鎖倒産を防止するために、あらかじめ一定の掛金を供出しておき、いざという時に累計拠出掛金の10倍を無担保・無利子で借りられる制度です。しかし、掛金は全損で40カ月で元本保証(100%)で返戻することから、保険以上の機能を有する節税商品として注目され、利用されています。拠出金の上限が800万円なのが難点ですが、それを超える場合には保険を活用するなど、ちょっとした工夫をすれば対応可能です。まずはこの中小企業倒産防止共済制度の利用がおススメです。
<費用対効果が高くない?>
・生命保険の加入(実質返戻率100%以下)
生命保険については、課税の繰り延べという観点では節税対策となりますが、前述したように、払った以上に戻る商品ではありません。費用対効果を考えた場合はどうでしょうか。
・国産大衆車の購入
多くの方が燃費の良い国産大衆車に乗られていますが、10年も乗ったら下取りはいくらでしょうか? ドイツの有名自動車ブランドなどの資産価値がたいして目減りしないいわゆる高級外国車であれば節税対策になる場合もありますが、国産大衆車ではなりません。
<場合によって得する節税対策>
・名の知れた中古外車の購入(4年落ち)
・払い済み低解約返戻金医療保険を役員個人で買い取る
これらについては、第4回目以降で解説いたします。
ざっとあげてみましたが、公的制度は主に営利を目的にしてないことから100%返戻であることが分かります。しかし、民間機関(制度)の場合は、必ずしも100%返戻になるとは限らないケースも多いのです。
今回は、大まかな括りのお話をいたしました。次回は、これらの方法を活用するとなぜ節税対策として有効であるのか、またはなぜ損をしてしまうのか、より具体的な例をもとにお話したいと思います。