※本連載は、ファイナンシャルプランナーでTSPコンサルティング株式会社代表の佐藤毅史氏が、中小企業オーナーが自身の可処分所得を増やすためのノウハウを紹介します。今回は、中小企業オーナーが税金対策として活用してきた「法人向け医療保険」について見ていきます。

「節税効果」がある死亡定期保険が販売停止に…

「節税効果」があるとして、生命保険各社が中小企業経営者ら、法人向けに競って販売してきた死亡定期保険。一種ブームともなっていた仕組みが2019年2月13日に、突如として終わりを迎えました。この日の夕方、国税庁が生命保険会社各社に対して、過度な節税保険の販売が横行する中で、節税保険の従来通りの全額損金算入を認めないとする方針を伝え、各社は14日以降の販売を停止する騒動になったのです(通称:バレンタインショック)。

 

この騒動から5か月後の7月上旬に、死亡定期保険の新制度の詳細が明らかになりました。全額損金とはならないものの、4割損金算入は可能ということでまとまりました。大方の予想よりは甘々の新制度は、法人向け保険は国税庁OBが税理士となって販売している側面もあり、諸先輩方の営業間口を潰すことはできないとする、お役所特有の絶対的縦社会(ソーシャルカースト)がゆえでしょうか。

 

保険販売の現場では、損金率が低くなったため、節税を全面に打ち出しての販売はできなくなり、節税保険の市場は一気に縮小したとされています(一部を除いては)。

 

なぜこのような騒動が起きたのでしょうか。今回は、これまで堅実な企業経営者の多くが加入してきた、法人向け医療保険の簡単な仕組みを見ていきます。

 

[図表1]
[図表1]法人加入の医療保険の仕組み

 

詳細は(図表1)を見ていただくとして、今回一例として取り上げるのは法人加入の医療保険です。保険料の払込を10年程度(商品によっては最短2年)の一定期間として加入し、払込期間が満了後には、名義変更をすることで社長個人に高額な医療保険をプレゼントするというものです。解約返戻金がゼロのものは実質タダとなりますが、解約返戻金が立ち上がるものでも10万円程度の金額になりますので、退職金として一部を現物支給するような形での利用が盛んとなってきました。

個人で「医療保険に入るメリット」は皆無⁉

同じ保険料を支払うことで得られる保障は原則同じなのに、契約者が「法人」と「個人」とで何が違ってくるのでしょうか?

 

冒頭の騒動で説明した法人加入の医療保険は、全額損金算入としての計上が認められていたことが大きな特徴でした。このように法人には資産性の有無で経理処理を選択する一定の自由が認められています。一方、個人で加入した場合は使える控除はせいぜい生命保険料控除(生保:4万円、医療・介護:4万円、年金:4万円)のみで、控除額を超えた保険料については、その部分に所得税・住民税が課税されてしまいます。

 

以前の記事でも紹介しましたが、会社員等多くの人が、もらった給料から様々な支出(保険、家賃等)を捻出するために四苦八苦する一方、賢い企業オーナーは会社の経費を最大限に活用する方法を緻密に考え実践しているのです(関連記事『持家は価値ナシ!? デキる中小企業オーナーが「社宅」に住むワケ』参照)。

医療保険にもメス…今後はどうなる?

そんな賢い経営者に活用されてきた医療保険ですが、前述の騒動のあおりをうける形で、今年の10月8日をもって、「節税効果」の見込める法人加入のものについても待った(制限)がかかることになりました。今回の法人加入の医療保険について、改正内容をざっくり見ると下記の通りです。

 

・資産性の低いものについての全額損金算入の取扱いに変更はない

・過去については遡及しないが、例外として一被保険者あたりの年間保険料が30万円以内となる場合は支払いの都度全額損金算入することを認める

 

全額損金算入そのものは残したものの、1人の社長が10月8日以降に新規で加入できる医療保険の総額が年30万円(月2.5万円)と上限が設けられたことが肝といえます。

 

これまで賢い企業オーナーは損金を計上し、徹底的に経費化してきましたが、そこに、今回は国税庁がメスを入れたというわけです(できるところからはなりふり構わず課税をするのが基本姿勢です)。

 

では、今後の法人向け医療保険はどうなるのでしょうか?

 

まず、医療保険を販売する保険会社各社ですが、すでに新規引受について、法人を契約者とする受け入れを拒否している会社も出始めています(一部の国産生保会社において)。一方、これをビジネスチャンスとして、積極的に販売を展開している会社や代理店も見受けられ、上半期の締めにあたる9月30日までは多くの駆け込み販売が発生することが予想されます。

 

健康診断の結果が必要なものから、告知のみで加入できるものまで多様な保険が用意されているようですので、加入を検討される方は、事前準備と支払いに余裕をもって対応できるように信頼できる営業マンにご相談してください。

 

また、経費性を優先して支払いが多くなることは仕方ないのですが、本質的にその保障が自分に合っているかについても、併せて確認をしてください。

 

 

佐藤 毅史

TSPコンサルティング株式会社・代表/ファイナンシャルプランナー

 

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