※本連載は、ファイナンシャルプランナーでTSPコンサルティング株式会社代表の佐藤毅史氏が、中小企業オーナーが自身の可処分所得を増やすためのノウハウを紹介します。今回は、中小企業オーナーが社会保険料を節約するための「事前確定届出給与制度」を活用する方法について見ていきます。

社会保険制度=平等の上になりたつ不平等な制度⁉

少子高齢化の進展とともに、国も税と社会保障の一体改革の名のもと、取れるところから手っ取り早く徴税することを意識した税制改正が数多く行われています。

 

平成24年には相続税の基礎控除を40%縮小し、最高税率を55%に引き上げました。また、今年の税制改正においては、給与所得控除の額を引き下げるとともに、最大控除額の適用所得を引き下げるなど、実質的な増税施策の乱発の様な状況下にあります。

 

所得税を抑えるためには、額面収入を減らす所得控除か税額控除、あるいは損益通算などの施策を駆使することで実現することが可能です。しかし、実は所得税よりも悪質な税金があります。それは、社会保険料(税)です。本日はその節約手法の勘所と導入における注意点について触れてみたいと思います。

 

ご存知の通り、日本には世界に冠たる国民皆保険制度があります。

 

「日本のどこにいても、誰もがいつでも均一料金で同じ医療サービスを受けることができる。世界中どこにもない素晴らしい制度」と、一応紹介はしますが、筆者は釈然としないところがあります。あえていえば、「平等の上に成り立つ不平等」ではないでしょうか。

 

保険料を支払っていない人も、手取り月15万円の薄給の人も、毎月うん十万円も社会保険料を払っている人も、基本的に同じ医療サービスが受けられることには異論ありません。

 

しかし、相互扶助という考えで社会保険制度が運用されている背景のもと、高額所得者に相応の負担を求めているのであれば、例えば病院の待ち時間を少なくするとか、何かしらのメリットがあっても良いと思うのです。

 

と、ここまでこのような論調で話をしているのは、社会保険料を当たり前のように払っている人がいるのであれば、これも名前こそ「社会保険料」といっていますが、実態は強制加入で辞めることすらできない「社会保険(税)」という意識を持ってもらいたいからです。

 

民間の生命保険会社の保険であれば、任意で辞めることができますが、社会保険は自己の意思だけで辞めることはできません。その意識を持つことをスタートとして、では、どのようにこれを節約するのかを考えることが重要です。何せ、会社と個人で合わせて対給与の30%近い支払いですから、これにメスを入れることは大いに可処分所得を増やす効果があるのです。

「事前確定届出給与」の勘所と導入に際しての注意点

辞めることもできなければ。高額な支払いをしても一切メリットが受けられない社会保険料(税)。実は、これを節約する方法が1つだけあります。それは、事前確定届出給与制度を活用することです。この制度について簡単に説明しますと、一定期限までに税務署に必要書類を届け出ることで、役員もボーナスを受け取ることができる制度です。

 

[図表]役員給与の扱い【事前確定】
[図表]役員給与の扱い【事前確定】

 

社会保険料は、月給と賞与で計算方法が異なり、賞与は社会保険料の上限が決められています(健康保険上限573万・厚生年金上限150万)。この上限額を超えた「事前確定届出給与」を支給すれば、その超えた部分に対する社会保険料はかからないのです。つまり、定期同額給与(月収)をおさえ、「事前確定届出給与」(年3回まで)を高くすると、社会保険料(健康保険+厚生年金保険)が安くなる可能性があるのです。

 

[図表]の例を見てみましょう。従来は年収1,800万円(月収150万円)の経営者が、月収10万円に引き下げて事前確定届出給与を1,680万円にする場合を考えてみましょう。

 

前者も後者も年収1,800万円であることにかわりはありません。毎月の定期同額給与(月収)を引き下げて、その分を事前確定届出給与に振り替えることで社会保険料(税)の算定については、毎月の定期同額給与を算定基礎として計算することで、社会保険料(税)を大幅に引き下げることができます。つまり、150万円→10万円にすることで社長個人も会社も社会保険料(税)を節約できるのです。

 

「余計に支払っても何のメリットも無いなら、今すぐ導入しよう!」

 

こう早合点する方がいますが、上記はあくまでも理論上の話。導入を検討する際には、以下の2つの要件をクリアする必要があります。

 

①生活費を当面賄えるだけの貯蓄が個人にあるか

毎月の報酬を下げることになるので、住宅ローンや教育費等がかかる世帯にあっては、導入について慎重に検討する必要があります。社会保険料の節約ありきで報酬を下げたために生活が苦しくなり、その不足分を会社から借入するようでは本末転倒です。

 

②会社の業績が赤字になっても問題ないと言い切れるか

事前確定届出給与の最大のネックは、届出通りに支給するか、不支給とするかの二者択一ということです。つまり、100か0です。届出した金額より1円でも過不足があれば、支給額の全額が損金不算入となります。毎月の給与が低額で、事前確定届出給与をアテにしていたのに、期末になって満額支給したら赤字になってしまうという懸念があるなど、不測の事態に対しての対応が後手になる懸念があります。

 

以上より、現実に生活できる所得と節約したい社会保険料(税)とのバランスを検討の上、無理のない範囲内での導入をお勧めしています。

 

社会保険料は本当に高いです。多かろうが、少なかろうが、受けられる医療サービスの質に差はなく、例えば病院の待ち時間も同じです。だからこそ、これを節約する方法についても頭を巡らせていただければ幸いです。

 

※本件導入にあたっては、税理士及び社会保険労務士等の専門家を交えて検討されますことをおススメいたします。

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