医療費がかさむ原因は、不必要に「手厚い」検査と投薬?

本記事では医療法人八事の森理事長であり、杉浦医院院長の森亮太氏が、事例をもとに高齢者医療の問題点を取り上げます。

「検診が大好き」な日本人

役所や病院、公共施設などに行くと、あちらこちらで「検診を受けましょう」という内容のポスター、あるいはパンフレットを目にします。

 

こうした呼びかけが功を奏してか、さまざまな検診の受診率は徐々に高くなっています。厚生労働省の「平成25年国民生活基礎調査の概況」によれば、過去1年間に胃がん、肺がん、大腸がん、子宮がん(子宮頸がん)、乳がんの検診を受けた40~69歳(子宮がん検診のみ、20~69歳)の人の割合は、次の図のようになっています。

 

[図表1]がん検診を受診した40~69歳

厚生労働省「平成25 年国民生活基礎調査」より作図
厚生労働省「平成25 年国民生活基礎調査」より作図
厚生労働省「平成25 年国民生活基礎調査」より作図
厚生労働省「平成25 年国民生活基礎調査」より作図

 

男性も女性も、2007年より2013年の方が、検診率は高くなっています。なかでも男性の場合、胃がんの検診率は6年で12.0%、大腸がんは13.5%、肺がんは21.1%も高まりました。

 

続いて、各検診の世代別受診率もみてみましょう。

 

子宮がんを除くと、最も受診率が高いのは50~59歳の世代です。また、60歳以上の人々の受診率が比較的高いのに対し、39歳以下という若い世代の受診率は低迷しています。

 

若い人々が定期的に検診を受けることは、素晴らしいことだと思います。特に、幼い子どもを持つお父さん・お母さんには、育児という重い責任を果たしていただくため、きちんと検診を受けて健康を保つ必要があります。私のクリニックが検診のポスターを貼っているのは、こうした若い世代に健康維持の意識を高めてもらいたいからです。また、若い世代ほどがんなどは進行が早くなる傾向があるため、病気がないかどうか、定期的に確かめることは決して悪いことではありません。

 

これに対し、70歳、80歳という高齢者も、年に1度の検診は必要でしょうか? 私の答えは「ノー」です。

病人に仕立てられる高齢者

歳をとると、身体には何かしらの不調が生じます。内閣府の「平成28年版高齢社会白書」によれば、2013年における高齢者の「有訴者率」(入院者を除いたなかで、ここ数日、病気やけが等で自覚症状のある人)は平均で人口1000人に対して約466人、およそ46.6%に達しています。つまり、高齢になると半分ほどの人は、身体のどこかに不調を感じているのです。

 

ところが、「健康上の問題で、日常生活動作、外出、仕事、家事、学業、運動などに影響がある人」は25.8%。なかでも65~69歳で日常生活に影響が出るほどの健康問題を抱えている人は、約15%にすぎません。

 

[図表2]有訴率(人口千対)

内閣府「平成28 年版高齢社会白書」より作図
内閣府「平成28 年版高齢社会白書」より作図

[図表3]日常生活に影響のある者率(人口千対)

内閣府「平成28 年版高齢社会白書」より作図
内閣府「平成28 年版高齢社会白書」より作図

 

有訴者率と、日常生活に影響がある人の割合との間には、おおざっぱにいって約2割のギャップがあります。この2割の層は、「何となく体調が悪い気がするが、日常生活に大きな影響が出るほどではない」という人々だといえるでしょう。私のクリニックを訪れる患者のなかにも、このタイプの高齢者が珍しくありません。

 

こうした人々は、確かに何らかの症状を抱えています。腰が痛む人もいますし、血圧が高い人もいます。ただしこれらは、高齢者であればほとんどの人が悩まされる症状で、病気と呼べるほど深刻なものではありません。極言してしまえば、「長生き病」であり単なる「老化現象」です。

 

しかし、診察を受けると「病名」がつけられてしまいます。そして、それがきっかけとなり、定期的に薬を飲み始める人もいます。次の事例で紹介するBさんは、まさにその典型例だといえるでしょう。

定期検診で「病人」にされて診察代・医薬品代がかさむ

○Bさんの場合

 

【プロフィール】67歳男性。高校卒業後、地方のメーカーに入社してルート営業などを担当。60歳で定年退職し、現在は特に仕事はしていない。

 

【家族構成】65歳で専業主婦の妻、37歳の一人息子と3人暮らし。

 

【経済状況】会社員時代の年収は500万円余り。退職時には2000万円ほどの預金があったが、現在は500万円程度に目減りした。現在の収入は、月約12万円もらえるBさんの厚生年金と、月4万円余りもらえる妻の国民年金。

 

Bさんが私のクリニックを初めて訪れたのは、1年ほど前のことでした。外見は、小柄でやや小太り。診察を受けているときや会計をしているときはとても静かで、声を荒らげることなど一切なさそうな穏やかな雰囲気です。また、私が病状について説明するたびに「はい! はい!」とうなずくなど、いかにも真面目で実直そうなお人柄の方です。

 

Bさんの持病は、糖尿病と脂質代謝異常です。ただし、どちらも深刻な症状ではありません。血糖値(HbA1c)は6%をわずかに上回る程度で、糖尿病と診断されるギリギリのラインです。脂質代謝異常も、血圧と中性脂肪の値がやや高いだけで、すぐに健康に危険が及ぶ可能性は低い状況です。

 

もちろん、足の痛みや立ちくらみ、視力低下といった、糖尿病に特有の初期症状は出ておらず、本人も調子が悪いというような自覚もありませんでした。

 

最初に診察をしたとき、私はBさんに現在服用している薬は何か尋ねました。すると、全部で6種類の薬が処方されていたのです。その内訳は、血圧を下げる薬が3種類、コレステロールを下げる薬が1種類、糖尿病の薬が1種類、胃酸を抑える薬が1種類でした。

 

以前のかかりつけ病院には2か月に1度のペースで通院し、毎回、2万5000円程度の診察代・薬代を支払っていたそうです。

 

Bさんが初めて糖尿病・脂質代謝異常だと診断されたのは、54歳の時に受けた会社の健康診断でした。

 

当時は「ちょっとお腹が出てきたかなあ」と感じていた以外は、何の自覚症状もありませんでした。ところが、検診で再検査となり、糖尿病・脂質代謝異常という病名がつけられてしまいました。Bさんは穏やかで生真面目な人です。医師の治療をしないと悪化して、命を脅かすようになるという言葉に不安を感じ、医師の指示に素直に従い、通院するようになったのです。

 

当初Bさんは、血圧を下げる薬と糖尿病の薬を、1種類ずつ処方されていました。

 

当時、1回当たりの診察代・医薬品代は1万円弱だったそうです。ところが、血圧はなかなか下がらなかったため、血圧を下げる薬が徐々に増えていきました。それと同時に、体調も優れなくなっていきます。毎日数種類の薬を飲むようになってからは、胃がもたれるようになり食欲も減退、当然体力も落ちたため、胃酸を抑える薬も処方されるようになりました。それで、毎回の診察代・医薬品代が増えていったのです。

 

[図表4]一般的な糖尿病の薬

息子のうつ病を契機に経済的な苦況に

Bさんには、今年で37歳になる息子さんがいます。

 

学生時代は優秀で、大学卒業後は大手企業に入社し、前途洋々だと期待されていたそうです。ところが、勤務先で人間関係に悩み、わずか半年で退職してしまいます。その後はアルバイトや派遣社員として働いていましたが、息子さんの収入は常に不安定でした。

 

その息子さんは、27歳のときにうつ病を発症しました。時折やっていたアルバイトは続けられなくなり、完全に家に引きこもって暮らすようになりました。

 

そして、ネットで趣味の買い物をするため、Bさんにお小遣いをせびるようになったのです。Bさんと奥さんは、「気晴らしをして、うつ病が好転するなら・・・」と考え、希望通りのお小遣いを手渡していました。その結果、Bさんの退職時には2000万円ほどあった預金は、どんどん目減りしていったのです。

 

状況が深刻になったのは、息子さんがうつ病になって2年近くなった頃です。息子さんがBさんたちに無断で、クレジットカードを使って高額商品を買っていたことが分かりました。クレジットカードは、息子さんが会社員時代に作っていたもので、限度額は200万円。息子さんは、限度額いっぱいまで買い物をしたのですが、預金口座には残高がほとんどなくて引き落としができず、それで高額商品の購入が明らかになったのです。

 

Bさんは慌てて、息子さんのクレジットカードの支払いを肩代わりしました。さすがに息子さんは反省し、買った商品をオークションサイトで売ったのですが、得られた代金は微々たるものでした。

 

この一件で、Bさんの預金残高はさらに減りました。それまで家族3人で住んでいた賃貸マンションの家賃は約8万円。一方、Bさんと奥さんの収入を合わせても16万円にしかならず、このままでは息子さんを含めて3人の暮らしがまかなえないと判断し、家賃の低いアパートに引っ越しました。

 

そして、近所にあった私のクリニックに通院するようになったのです。

 

高齢者に多い「病院依存症」

既にお伝えした通り、Bさんが希望する薬をすべて処方すると、2か月で2万5000円程度の費用が必要になります。1か月に換算すれば、約1万2500円。現在のBさんにとって、これは決して軽くない負担のはずです。

 

また、薬の副作用も心配です。

 

実は「メリットだけでデメリットのない薬」など、この世のなかには存在しません。どの薬も、多少の副作用があるものです。多くの薬は、効果の方が副作用より大きいために使われているのですが、それでも薬の量が多すぎると、有害な副作用を引き起こす危険性が大きくなります。

 

例えば、Bさんは「ラシックス」という血圧を下げる薬を飲んでいます。これは、身体のなかにある余分なナトリウム・カリウムを排出する効果があり、血圧を下げたり身体のむくみをとったりするのに役立ちます。

 

一方、この薬には利尿作用があるため、脱水症状を引き起こしやすくなるのが難点です。また、水をたくさん飲みたくなるため、お腹がいっぱいになりますし、ただでさえ、大量の薬を飲めば、それだけで満腹になってしまいます。食欲が落ちてしまうデメリットもあります。その結果、栄養が取れなくなり、体力が落ちる原因となるのです。

 

また、Bさんはコレステロール値を下げる薬「リピトール」も服用しています。コレステロール値が高いと血液がドロドロになり、血栓ができやすくなります。そこで血栓を溶かす作用のあるリピトールを飲んでいたのですが、この薬には、筋肉の一種である「横紋筋」を溶かし、腎不全などを引き起こす副作用があります。

 

このようなことから私は、Bさんには6種類もの薬は必要ないと考えました。糖尿病も脂質代謝異常も病状は軽く、食事に気をつけて定期的に運動するようにすれば、薬を飲まなくとも十分に回復が望める状況だったのです。

 

また、Bさんの場合、糖尿病や脂質代謝異常を避けるメリットより、薬の副作用や、薬代の負担の方がはるかに重いと私は判断しました。そこで、血圧を下げる薬を1種類、糖尿病の薬1種類だけに絞り、後は服用をやめてはどうかとBさんに提案したのです。

 

ところがBさんは、薬を減らすことを拒否しました。あくまで物静かないい方ですが、きっぱりと「今まで通りの薬を出して下さい」と私に伝えました。

 

高齢者によくみられるのですが、Bさんは「病院依存症」にかかっているといえるでしょう。定期的に通院し6種類の薬を飲んでいれば、ともかく健康は保てると信じていて、それをやめることが不安なのです。だから、多くの薬を飲むと副作用の危険性があることや、今の病状をみれば6種類の薬を飲む必要はないという説明を受けても、頑として受け入れることができませんでした。

 

もし13年前に健康診断を受けていなかったら、Bさんはどうなっていたでしょうか?

 

恐らく、糖尿病や脂質代謝異常の心配などせず、それまでと同じ暮らしをしていたのではないかと想像します。そして、ムダな薬など飲まず、月に1万円以上の医療費を使うこともなく、暮らしていたのではないかと思うのです。

 

もちろん、検診を受けなければ、がんなどの病気を見逃してしまうリスクもあったでしょう。どちらがBさんにとって良かったのか、私には正直いって分かりません。

 

私はBさんが訪れるたびに、薬を減らす提案をしています。しかし今のところ、Bさんが受け入れてくれる気配はありません。そして薬を減らすことに不安を感じる患者に対しては、私としては以前と同じ薬を出すしかないのです。

「カネのなる木」の検査や薬を押しつける病院

日本の病院には、磁石や電波を利用して体内の断面図を撮影するMRI(Magnetic Resonanse Imagingの略。磁気共鳴画像)や、放射線などを使って体内を撮影するCT(Computed Tomographyの略。コンピュータ断層撮影)などのハイテク機器が多く導入されています。

 

その数は、世界各国と比べても突出していて、経済協力開発機構(OECD)によると、2011年時点の人口100万人当たりの設置台数は、CTが97.3台で、OECD平均の22.6台の約4倍以上、MRIが43.1台でOECD平均12.5台の3.4倍もあります。

 

[図表5]各国の画像診断装置の普及率

「経済協力開発機構参加国における、人口100万人当たりの導入台数」 OECD Health Data 2012 より作図(文教大学情報学部「情報研究」第49 号))
「経済協力開発機構参加国における、人口100万人当たりの導入台数」
OECD Health Data 2012 より作図(文教大学情報学部「情報研究」第49 号))

 

これは人間ドックでCTやMRIを使う検査が定着し、病気の精密検査で保険が適用されることが導入を後押ししているのですが、病院の集患戦略として、最新鋭の機器を導入しているところも少なくありません。

 

CTやMRIは、1度に数千円の支払いが求められる高価な検査です。いわば病院の「カネのなる木」ともいえます。高額な導入費用をまかなうため、経営を優先する病院が、病気への不安を煽り、うまく検査を受けさせるように誘導するケースもあります。しかし、こうした高額な検査が、医療費高騰の一因となっているという指摘もあるのです。

 

もちろん、CTやMRIを使えば、脳疾患や微小ながんなどを見つけやすいというメリットはありますが、CTはエックス線を使うため被ばくの恐れもあります。

 

誤解を恐れずにいえば、60歳を過ぎて、そうした高額な検査を受け、被ばくのリスクを背負ってまでわざわざ病気を見つけ出す必要はないのではないでしょうか。

 

また、医師からみて「処方してもあまり意味のない薬」というものもあります。その代表格は総合感冒薬、いわゆる風邪薬です。

 

風邪とは、鼻やのどの粘膜からウイルスが侵入し、急性炎症を引き起こすことを指します。2016年現在、風邪を根幹から治療する抗ウイルス剤は発見されていません。そのため、鼻水を抑えたり熱を下げたり、咳を抑えたりする成分を混ぜ、風邪の症状を全般的に和らげるのが総合感冒薬の役割となっています。

 

医師のなかには、「総合感冒薬を出しておけば、どんな症状にも対応できて安心だから」という理由で処方する人もいます。でも、薬のせいで眠くなったり、尿が出にくくなったりする副作用が出るケースもあるため、私は安易な処方には賛成できません。どうしても必要な場合、例えば咳も鼻水も出ないが、熱は下がらないという人には解熱剤を出すなど、症状に応じた薬を処方する方がベターでしょう。

 

血圧を下げる薬も、ある一定の年齢を過ぎたら不要ではないかと考えています。

 

血圧が高いと、血管に負荷がかかります。それが長期にわたると、血管が傷みやすくなって血管が切れる危険性が高まるのです。また、高い血圧に耐えるために血管の壁が厚くなり、その結果、心筋梗塞や脳卒中のリスクも大きくなります。

 

ですから、あと30年、40年も生きようと考える40代、50代の人であれば、血圧を下げる薬を飲む意味はあります。一方、80代、90代の人が血圧を下げる薬を飲んでも、「血圧を下げるメリット」より、ふらつきや味覚障害など「薬の副作用のデメリット」の方が大きくなるケースが多いものです。

 

最近では患者さんにも薬や医療に対する意識が高まり、マスコミでも盛んに薬の弊害について特集などを組んで紹介しています。

 

残念なことに医師のなかには、患者本人ではなく、患部や検査値だけを見て診断を下す人が少なくありません。大きな視点で見れば患者のためにならないのに、目の前の病気に効きそうだからという理由で、無意味な検査や投薬をしてしまいます。だからこそ患者も本当に自分に必要な医療はどういうことなのか、自分で判断することが必要なのです。

医療法人 八事の森 理事長

医療法人八事の森理事長(杉浦医院院長)。NPO法人ささしまサポートセンター理事長、NPO法人外国人医療センター理事、名古屋労災職業病研究会代表。1970年生まれ、1998年名古屋市立大学医学部卒。宗教法人在日本南プレスビテリアンミッション淀川キリスト教病院で内科・小児科から救急、ホスピスでの緩和医療まで幅広く研修。2000年名古屋市立大学臨床研究医、名古屋市立東市民病院(現・名古屋市立東部医療センター)で外科医として勤務。2010年4月から杉浦医院の副院長、2011年1月より院長に就任。

著者紹介

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