パターン1:「わからない」と言わない(言えない)
相続における不動産の評価の難しさは、「10人の人が同じ土地を評価しても、10通りの評価ができる」といわれるほどです。
広大地評価の計算式は以前よりもシンプルになったものの、広大地に適用できるかどうかの判定は非常に難しくなっており、小規模宅地等の特例等の適用についても、判断のハードルが高くなっています。
つまり適正に相続税を算出するには、不動産の知識はもちろん、申告の経験値、税法改正についてのまめなチェックや勉強も肝要となります。
しかし多くの税理士は、確定申告や法人の決算申告については〝プロ〟でも、一年に一回も扱わないような相続について、時間を割いて知識や経験を蓄積することは、正直難しいというのが実情でしょう。
「わからない」ことに関しては、不動産のプロの力を借りればいいだけなのですが、多くの税理士にお会いしてきた経験から申し上げて、わからないことを「わからない」と明言し、こちらの意見を真摯に受け止めてくださる方もいれば、わかったふりをして、巧みにはぐらかすような方も少なくありません。
相続の経験が少ないことが顧問先に知られ、信頼関係を壊すリスクを考えてのことかもしれませんし、もっとドライに定期収入である顧問料や決算料に加え、相続税申告によって得られる〝臨時収入〟を逃したくないという本音もあるのかもしれません。士業としてのプライドも働くのでしょう。
相続に関しては申告の経験値を必ず確認しましょう。根拠なく、「大丈夫です」「任せてください」などと自信たっぷりの人に対しては、注意が必要です。
確定申告や法人決算などでは全面的に信頼できる税理士でも、実は相続については、 〝セミプロ〟あるいは〝アマチュア〟かもしれないのですから。
パターン2:無難な安全策をとりたがる
実は相続に詳しくない税理士でも、申告が成立するのはなぜなのでしょうか。〝逃げ道〟というと語弊があるかもしれませんが、そのやり方の一つが「無難な安全策をとる」というものです。
たとえば、私の会社でも新たなスキームや手法について、複数の税理士に意見を聞いたり、相談したりすることがあります。みなさんも、「こんな方法があると聞いたんだけど、どうでしょう?」と、お付き合いのある税理士に尋ねてみてはいかがでしょうか。
その時に、どんな反応が返ってくるか。
すぐにわからなくても、「調べておきます」と一旦持ち帰り、その手法のリスクやコスト、メリット、デメリットについて詳細を解説してくれるのか。あるいは、「グレーなので手を出さない方がいいです」「それは税務署に目をつけられるリスクがあるので、そのような危険はあえて背負わない方がいい」などと全面的にシャットアウトするのか。
後者であれば、自分が理解している、あるいはやったことがある範囲でしか申告をやりたくない、という自己保身の表れである可能性もあります。意地悪い言い方をすれば、そもそも税金については、〝無難な策をとって、多めに払っておけば問題はない〟のです。
税理士は、特に職業柄なのでしょうか、不慣れなことに手を出し、ミスが発覚することを嫌がる傾向が見られます。一度でも失敗すれば、顧問契約の打ち切りどころか、損害が発生すると賠償問題などにも発展しかねないため、念には念を入れてリスクヘッジをしておくという気持ちはわからないではありません。
しかし、お金回りのことに限らず、会社経営然り、何であってもリスクはつきものです。大事なのは、そのリスクを評価した上で、リターンと比較し、その判断材料を提供できるかどうかがです。
「8割は通ると思いますが、2割程度は否認されるケースがあります。どうしますか?」などとリスクをしっかりと説明した上で、オーナーの意向を聞き、万一、修正申告が指摘された際も、税務署と適切な形で落としどころを探ってくれてこそ、本物のプロではないでしょうか。
逆に、「ミスがない」「失敗がない」ことをアピールするためか、「当事務所では修正申告をしたことがありません」と明言する税理士もいますが、果たしてそれが本当にお客様寄りの姿勢といえるのでしょうか。非常に疑問です。
特に相続については、課税強化を背景に、税金をしっかりと回収したい税務署から、さまざまな指摘を受けるケースが増えています。相続税申告の4件に1件は税務調査が入るというデータもあります。
顧問税理士がいらっしゃる方も、その税理士は、いざという時にしっかりと裏付けをもって対応し、時に税務署と上手に戦ってくれるでしょうか。必要に応じて修正申告や更正の請求を厭わずしてくれるでしょうか。
ミスが少ないことは評価されるべきですが、さまざまな選択肢や可能性を検討せず、分かる範囲で保身ばかりに走っている、いわば〝税務署寄り〟の税理士に大事な財産を任せていいものか。ぜひ冷静に見極めていただきたいと思います。
パターン3:新しいことをやりたがらない
前例がないことや新しいことを避けて通りたがるのも、税理士業界に見られる傾向の一つのように思います。
一例を挙げましょう。
相続税対策としてよく使われる手法に、所有する財産について、法人を活用する手があります。たとえば、賃貸経営をする際に、法人を設立し、その法人に不動産管理を委託する、あるいは建物の所有を法人に移すなど、経営の主体を法人にすることで、財産が個人に集積するのを防ぎ、所得税や相続税の節税をはかる方法です。
これは、個人にかかる所得税の最高税率(住民税10%含め55%)に対し、中小法人にかかる法人税の実効税率の上限が低いこと(約25~30%程度)、賃貸経営を法人に移転することで、その賃料収入を配偶者や子どもなど、所得(税率)の低い人に給与という形で分散させることが可能な点などに着目した手法です。
法人税が減税方向なのに対し、個人への課税強化が進行していることもあり、従来にも増して法人化の動きは活発化しており、賃貸経営などに関しても、税理士が法人設立を勧めるケースも増えています。
ただし、実は法人化にはデメリットもあります。
最大のポイントは、自社株が相続財産となり、相続税が課せられる点です。事業が好調なほど、売り上げおよび資産価値が上昇するとともに、自社株の評価額も高額となり、相続発生時に多額の相続税が発生する可能性が高まります。放っておけば、節税対策のはずが逆効果ともなりかねません。
住宅メーカーの営業マンが、「相続対策ならば、賃貸経営は儲からなくていいんです」などと口にするのもそれゆえなのですが、実は〝法人=株式会社〟と限定しなければ、収益性と相続対策を両立することも可能なのです。
たとえば、一般社団法人などの形態を視野に入れれば、一般社団法人には、株式(出資)という概念がないため、ネックとなる自社株対策を回避できるのです。
ちなみに、税率は一般法人と変わりません。相続対策として法人を活用するならば、株式会社以外の形態をとった方が有利になるケースも多いのです。
しかし、税理士の間では、一般社団法人設立に二の足を踏む人も多く、否定的な意見も聞かれます。
実は、一般社団法人については、平成20年以前は、社団法人という形式一つで括られ、対象となる公益事業の制限、行政庁による公益性の認定が必要など、設立に際しても複雑な手続きを要しました。
今は新たな法律施行により、一般社団法人の活用についてはグッとハードルが下がっているのですが、勉強不足で旧来の社団法人のイメージに捉われてしまっている税理士も多いのかもしれません。
また、ある税理士からは、その是非について「社団法人で税務調査が入った事例がありますか」と問われたこともあります。まだ新しい手法なので、先陣を切るリスクを考えてのことでしょう。やはり「前例のないことに挑む」ことを厭う傾向は強いのかもしれません。
法律が変われば、有効な相続対策のあり方も変わります。また、所有する財産によっても、株式会社がいいのか、あるいはその他の法人がいいのかが変わってきます。
旧来のやり方に固執するのではなく、時流へのアンテナを張り、新たな提案、可能性を指示してくれるかどうかも、本当に頼りになる税理士を見極める大事なポイントだと思います。
秋山 哲男
株式会社財産ブレーントラスト 代表取締役