米国雇用統計(2月)は米国経済の変調を映す鏡か?
米国労働省が先週3月8日に発表した雇用統計(2月)は、非農業部門の雇用者数が2万人増にとどまり、18万人程度の増加を見込んでいた市場には、大きな衝撃が走った。これは、2017年9月以来約1年半ぶりの小幅な増加で、建設や小売りなどの業種では雇用が減少に転じた。1月の非農業部門の雇用者数は、2月1日の速報値30.4万人増加から31.1万人増加へと改定されたが、市場が予想していた18万人増加から大きく下振れた。
先月の非農業部門雇用者数(1月)は、大幅に伸びたこともあり、反動で減少した可能性があるのだが、市場は、この統計が米国経済が成長鈍化に陥り始めたことを示すとの懸念を強めた。
市場の反射的な反応は、今回の雇用統計を雇用の急減速を映したもので、米国経済の伸びが第1四半期に鈍化に転じたことを示し、また、これが米連邦準備理事会(FRB)が金融政策に関して「忍耐強い」姿勢に転じた根拠となると解釈した模様である。
世界経済、および米国経済の現状を示す指標は、強弱混交の中、どちらかというと弱めの指標に注目が集まっている。米国景気の拡大期間が10年にも及ぶことからの悲観的な見方も根強い。また折しも、ECBもユーロ圏経済の成長率低下を見込み、金融政策に関して緩和の検討を始めることを発表、中国政府は全人代で2019年の成長率目標を2018年の実績6.6%成長から6.0-6.5%の範囲で設定すると発表し、世界的に景気減速に対する懸念は高まるムードにある。
弱い数字だけではない雇用統計全般
雇用統計の中身に話を戻そう。もともと、この指標は予想を裏切る数字が出ることが多く、3か月平均でならしてみるのが妥当といえるだろう。1月までの3カ月平均では、18万6000人増と、非常に良好な雇用状況を示している。
また、非農業部門雇用者数は予想を大きく下回った今回の雇用統計だが、市場予想を上回った部分もある。先ず、失業率は3.8%と前月1月の4.0%から再び低下した。市場予想は3.9%だったのでこれを下回る強い結果だったといえる。時間当たり賃金も前月比が+0.4%、前年比で+3.4%で、いずれも市場予想の前月比+0.3%、前年比+3.3%を上回って上昇した。
雇用統計、特に非農業部門雇用者数には、天候要因も影響が大きい。専門職やヘルスケアなどの雇用者数は堅調に増加しているのに、建設が減少に転じたことや、サービス業やレジャー産業などで雇用者数が横ばいと、まだら模様の状況は、天候の要因が数字に影響したことを示唆している。1月から2月にかけては連邦政府機関が閉鎖されていたという特殊要因を考慮すると、2月の結果は、統計上のアヤの可能性もあり、本当に経済の変調を示すものかを見極める必要があるだろう。
筆者は、最近の雇用統計は米国労働市場の基調的な堅調ぶりを示していると考えていたが、経済面での調整が、2月に突如として表面化したとは解釈できない。通常なら、雇用者の増加数が予想を上回ったり、下回ったりする不安定な状況がしばらく続いた後に、本格的な変調は現れる。
(【第89回】FRB「利上げ停止」示唆後、初となる米国雇用統計を読み解く2019.2.5)
3月19-20日に開催される次回FOMCは注目
FRBは、今後の金融政策の方向性について、指標次第との姿勢を示している。2月の雇用統計の結果だけで、米連邦準備理事会(FRB)の政策軌道を変更することはないといえるだろうが、今後、手掛かりとなる経済指標の重要度は増していくだろう。
主要国の中央銀行による景気判断の下方修正や、それに基づく金融政策の軌道修正の表明を受け、市場では警戒感が強まっている。カナダ銀行しかり、ECBしかりである。市場が、「辛抱強く」景気を判断し、金融政策の方向感を探るFRBの次の一手を読むため、米国の経済指標の重みは一段と増すことになろう。
筆者は、FRBの金融政策の次の一手が、利上げなのか利下げなのかまでは、明確になったとはいえないと考えている。このままなら、年内は利上げをせず我慢する、まさに「辛抱強く」見守る姿勢を取るのではないか。次回のFOMCは3月19-20日に開催される。政策変更はないと予想しているが、景気見通しや金利見通しを示すドットチャートには、一段と注目が集まろう。
長谷川 建一
Nippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank(NWB/日本ウェルス) CIO