堅調な米国雇用統計、インフレの懸念は?
2月1日に発表された米国雇用統計 (2019年1月)では、非農業部門雇用者数が304,000人の増加 (前月比)と、約1年ぶりに大幅な伸びを示した。この雇用者数の伸びは、市場予想を上回っており、米国雇用市場の堅調ぶりは変わらないことを裏付けた形である。
平均時給は0.1%増加(前月比)に留まり、市場予想の0.3%増を下回って、賃金の伸びはやや鈍化したと言える。賃金の年率での上昇率は3.2%(前年同月比)となり、これは予想に沿った水準だった。
1月の失業率は、前月の3.9%から4.0%に上昇した。この失業率上昇の主たる要因は、一時帰休に伴う失業者が175,000人も増えたことだった。一時帰休の対象者の多くは、国境の壁の建設費を巡って米国議会が予算を成立させられないために一部閉鎖に追い込まれた、連邦政府機関の職員であったと見られる。2月15日までの期限で継続されている議会での共和党と民主党の協議の成否は、今後の雇用統計に影響する可能性はある。
米国の雇用市場は堅調であるがゆえに、引き続き力強い雇用の伸びが見られる場合には、インフレをどう抑制するかという問題になる可能性は残る。30日のFOMC後、パウエルFRB議長は、金融政策を「辛抱強く」判断すると述べ、市場の一部には2015年12月以来続いた利上げが打ち止めになるとの観測も出てきた。
しかし、今回の雇用統計は、こうした見方には、噛み合わせが良くない部分がある。既に米国債利回りで1年から5年までの金利が2.50%で、平坦化(フラットニング)した状況にあるが、これが10年長期債(1日の利回りは2.68%)にも波及して、ここからさらに平坦化すると見るのは早計ではないだろうか。
一方で、足元の賃金の上昇幅が落ち着いている、すなわち米国経済が差し迫ったインフレ圧力にさらされている訳ではないことも示唆されており、当面、政策金利を現状のまま据え置き、「辛抱して」状況を見極めて判断していくというFRBの姿勢は、かろうじて否定されない。当面、FRBは金融政策を据え置く可能性が高まったと見てよいのではないだろうか。
先週発表された他の指標では、米供給管理協会(ISM)製造業総合景況指数が56.6となり、これも事前予想を上回った。前回12月は、2年ぶりの落ち込みを示していたが、その水準からは回復した。新規受注と生産、いずれの指数も上昇に転じた。米中貿易摩擦の影響など不透明要因は払しょくされていないが、製造業の見通しは、ボーダーラインと言われる50を、これで2016年8月以来下回っておらず、市場の心配をよそに、安定した数値を維持している。少なくとも生産面での堅調ぶりは変わっていないと評価すべきなのだろう。
欧州経済の落ち込みぶりは指標からも明らか
目を欧州経済に転じて、先週の指標を振り返っておきたい。欧州委員会が1月30日に発表したユーロ圏景況感指数(1月)は106.2だった。前月12月の107.4(改定値)から1.2ポイントも低下したことになる。発表前の事前予想の106.8と比べても低下幅は大きく、小売り・サービス・製造業いずれの業種でも悪化が見られた。
ユーロ圏内での景況感の悪化には歯止めがかかっておらず、過去2年で最低水準にまで落ち込んでいる。個別に見ると、「黄色いベスト」抗議行動の影響から12月に大きく指数が低下していたフランスではさすがに1月の景況感には改善が見られたものの、オランダとイタリアでは大幅に低下し、ドイツでも悪化した。これを受けて、ドイツ経済省は今年2019年の成長率見通しを1.0%と、昨年12月時点で予想していた1.8%から大幅に下方修正すると発表した。この1.0%は2013年以来の最低の水準である。
欧州連合(EU)統計局が31日発表した2018年第4四半期のEU域内総生産(GDP)速報値は、前期比0.2%増にとどまった。2018年通年では1.8%成長と2014年以来の低成長にとどまったことが明らかとなった。
足元では、米国経済を心配するよりも、欧州経済の落ち込みぶりが大きいことの方が気がかりである。これに、英国のEU離脱問題がどのような決着に至るのか不透明感を増幅させるため、注意が必要だろう。
長谷川 建一
Nippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank(NWB/日本ウェルス) CIO