何度もブームを繰り返し、今や生活に定着した感のあるワイン。一方、欧米に目を向けると、ワインは株式や債券と同じように投資対象として人気を高めているという。本連載では、ワイン研究の第一線で活躍する堀賢一氏が、ワインマーケットの現状と今後の見通しについて解説する。

欧米では株式のように「ワイン」が取引されている

株式市場における日経225やダウ平均株価のように、イギリスのインターネット上の高級ワイン取引市場であるLiv-ex(ライヴ・エックス)は2004年以来、指標ワイン銘柄の取引価格を指数化した “Liv-ex Fine Wine 100(ライヴ・エックス ファインワイン ハンドレッド)”を発表しています。

 

2004年1月を100とした投資銘柄ワインの指数は2018年10月末時点で上昇率が213.94%に達しており、この間のダウ平均株価の143.50%や日経225の98.52%などを大きく上回っています。世界的な低金利や低迷する株式市場を背景として、代替投資としてのワインの比重が高まってきました。しかしイギリスや米国では1970年代末にはワインも投資対象として認知されていたのですが、日本ではまだ理解が深まっていません。

 

欧米における1990年代までのワイン投資は個人の収集家が主役で、プリムール(先物予約)やリリース時点で購入したワインを、10年を超える年月の熟成後にオークション会社経由で売却し、利ざやを稼ぐスタイルでした。欧米のワイン投資家に個人資産家が多いのは、ワインの売買であげた利ざやには一般に、キャピタルゲイン課税が行われていないためだといわれています。通常、各国の税務当局は、耐用年数が50年に満たない消費財を再販したときに利ざやが発生するとは想定しておらず、株式や債券への投資ほど、その所得に対して目を光らせていないようです。

 

一方、ワインに対する投資が日本で発達しなかった最大の理由は、転売するための市場が存在しなかったためです。1999年にYahoo!オークション(現ヤフオク!)がサービスを開始して以降、一部のワイン愛好家の間では熱狂的に支持されてきました。しかし出品者みずから1本ずつ手売り・発送するような状態であり、また、事前に現物の状態を確認できないことから、「ワイン愛好家の交換会」程度の状況で、投資用に購入したワインを換金するための市場としては不十分です。

ワイン投資は愛好家が個人ですべき

欧米のオークション・ハウスが日本でのワイン・オークション開催にあまり熱心でないことの背景には、複雑な輸入手続きの問題があります。

 

現在の日本の食品衛生法では、営業目的でワインを輸入する際に、検疫所に食品等輸入届出書を提出する必要があり、ワインの場合はアルコール度数や二酸化イオウ含有量、エキス分や、使用された添加物すべてのリストアップとそれぞれの含有量を証明する、第三者機関発行の成分分析書を添付する必要があります。ワイナリーから直接出荷されたボトルであれば、こうした分析書は生産者側で準備してくれるのですが、一旦生産者の手を離れたボトルに関しては、オークション・ハウス自らが準備する必要があります。

 

こうした化学分析を行うために、1アイテムあたり邦貨にして2万円程度の費用を分析機関に払い、しかも分析用に1本を抜栓しなければなりません。同じアイテムが12本以上出品されるのであればまだしも、シャトー・ペトリュス 1945年といったような2~3本しかない高額ワインを1本つぶして日本向けの分析書を作成するくらいなら、こうした煩雑な輸入手続きのない香港でオークションを行ったほうがコストを大幅に抑えることができます。

 

※SHINWA AUCTION株式会社は2001年からワイン・オークションを実施していますが、出品されたワインはほぼすべて、国内の富裕層からのものです。

 

またファインワイン(樽から瓶に移されてコルク締めされてからも熟成が進行して、年を追うごとにワインの品質そのものが向上するもの)投資の背景を説明するためには、その黒歴史もお伝えしなければなりません。

 

ボルドー・プリムールが高騰した1990年代後半から、欧米では機関投資家の参入が目立つようになりました。ワインを単純に投資家に販売するだけでなく、出資者を募ってボルドー先物等を購入し、価格が値上がりした時点で売却して利ざやを出資者に配当するという、投資ファンドの形態を取るものもあり、2000年のいわゆるミレニアムヴィンテージ以降の急激な価格上昇の原因のひとつとされました。

 

しかし、こうした投資ファンドのなかには悪質な業者も多く、イギリスでは無知な投資家にボルドーの第一級シャトーを市場価格の二倍以上で売りつけたり、先物代金を受け取ってすぐに雲隠れしたりするケースが散見されました。日本においてもVIN-NET(ヴァンネット)というワイン投資ファンドが2000年に設立され、言葉巧みに投資家を募っていましたが、途中から自転車操業に陥り、2016年に破綻しています。

 

世界中でワイン投資ファンドが破綻した経緯を考えると、ワイン投資はやはりワイン愛好家が個人で行うべきもので、一般の投資家が参加すべきものではないように思います。

「Liv-ex Fine Wine 100」採用銘柄に注目

それでは、ワイン愛好家が将来の値上がりを見越してワインを購入する場合、どのような銘柄を選択すればよいのでしょうか。

 

ひとつのヒントとなるのは “Liv-ex Fine Wine 100” に採用されている、流動性の高い銘柄です※1。投資を考える場合は、値上がりする可能性が高いかどうかだけでなく、常に買い手が容易に見つかるかどうかも考慮しなければなりません。“Liv-ex Fine Wine 100”は、投資向きとされる100アイテムのワインについて、トレーダー間取引の価格の推移を月次で反映させているのですが、各国の株価指数と同様に、指標100銘柄は定期的に入れ替えを行っています。

 

2018年末での指標銘柄の内訳 は、ボルドーの赤ワインが65、同甘口白ワインが2、ブルゴーニュ赤が6、ブルゴーニュ白が2、シャンパーニュが7、ローヌ赤が6、イタリア赤が7、スペイン赤が1、米国赤が3、オーストラリア赤が1アイテムとなっており、「ワインの投資=ボルドーの赤ワイン」という図式が読み取れます。

 

※1 指標100銘柄の内訳は、Liv-exのサイトで閲覧できます。

 

しかしながら、ボルドー赤が100銘柄中の65を占めるからといって、「ボルドーの赤ワインが一番流動性が高く、かつ、値上がりする可能性が高い」と考えることはできません。ボルドーの比率が高くなっているのは、新ヴィンテージの売り出し時点で、誰でも簡単に十分な量のワインを購入可能だからです。

 

一般に、ボルドー以外の高級ワインは輸出市場において、独占販売代理店制度を採用しています。たとえば日本においては、ロマネ・コンティはサントリー・グループの株式会社ファインズが輸入販売を行っていますし、シャンパーニュでもっとも値上がりが見込まれるクリスタルはエノテカ株式会社が独占販売代理店となっています。ワインはそれぞれの会社から流通業者に割り当てで販売されており、一般消費者や投資ファンドが一括して大量に購入することは不可能です。

 

これに対して、ボルドーのトップ・シャトーはごく一部を除き、この独占販売代理店制度を採用しておらず、ボルドーの複数のネゴシアンを通じて、同じ銘柄が複数のインポーターの手によって日本に輸入されています。

 

各ネゴシアンやインポーターはともに、取扱高を増やすために躍起になっており、大量に購入してくれる顧客を優遇する傾向にあります。このため一般消費者でも、シャトー・ラフィット・ロートシルトやシャトー・マルゴーといった優良投資銘柄のまとまった数量を、先物予約で購入できます。この購入のしやすさのため、ボルドーのトップ・シャトーがワイン投資ポートフォリオの主体となっているのであり、必ずしももっとも値上がりしているわけではありません。

 

次回は、個人愛好家がファインワイン投資を行う上での、具体的なポートフォリオの構築について検討します。

 

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