お酒を飲みながら先代に「創業の精神」を聞く
先代にとってのパワーパートナー(自分の信念や想いを最大限実行してくれるパートナー)は誰か。後継者は、間違いなくその1人です。
まず父親の創業の精神を聞いてみてはいかがでしょうか。親子の関係では、社長としてどんな願望があるのかを聞くのは気恥ずかしいでしょう。創業ストーリーなら、聞きやすいはずです。話が長くなるかもしれませんが、聞いてあげてください。
お酒でも飲みながら「なんで独立したの?」「よくあの大手と付き合えるようになったよね」「あんなデキる工場長、どうやって採用したの?」「どういう失敗があったの?」などたくさん質問してみましょう。
先代は語りだしたら止まらないはずです。相手の価値観や目的、目標を知るために過去を知る。父親からしたら、息子に自分の半生を伝えるのは最高に嬉しいこと。これを聞くこと自体が親孝行だと思います。
息子が自分の人生に興味を持ってくれている。息子が自分から学ぼうとしている。そんな姿勢を感じられたら、父親はうまい酒を飲めるはずです。
理念が浸透していないと「社長の高級車」は批判される
理念経営にはリスクもあります。それは、理想と現実のギャップが明確になることです。
企業理念とは、形而上(形のないもの)でつかみどころのないものです。それを行動規範にまで落とし込むと、やるべきことが明確になります。一方で、もし経営者が理念や行動規範を踏み外す振る舞いをしていたら、すぐに社員に見抜かれてしまうのです。
たとえば、社長が「社員を大事にする」と公言しているとします。それなのに、社員は安月給で、社長は高級外車を乗りまわしていたら、社員はどう受け止めるでしょうか。「言っていることとやっていることが違うじゃないか!」と反発するはずです。
私は顧問先の社長にはいいクルマに乗るようにアドバイスしています。間違っても軽自動車には乗るべきではありません。
というのも、社長の命は、単に個人や家族だけのものではないからです。もし、社長の身に何かあれば、会社の経営がストップしてしまいます。社員たちが路頭に迷うのです。だから、社長は安全性の高いクルマに乗るべきです。
社長が常日頃から言行一致していれば、非難もされません。理念と現実のギャップが生まれないようにするにはどうしたらいいようでしょうか。理念経営には次の3つが不可欠です。
1.「目的が重要」が社員たち個人の腑に落ちている
2.社長が理念浸透に対して本気
3.社長は幹部と価値観・目標を共有している
後継者が新たに理念経営を取り入れようとすると、古参社員が反発するかもしれません。そのとき、社員をゴッソリ入れ替えてしまうのがラクだと考える後継者がいます。しかし、そのリストラを見ている社員の気持ちはどうでしょうか? いつか自分にも同じような仕打ちがくるのではないかと考える方が自然です。
また、大量の退職によって売り上げの減少が予想されます。よほど強い財務体質を持った会社でなければ難しい。多くの会社では、古参社員が顧客をつかんでいて、大きな売上を上げているからです。
水槽の水を一気にバサッと流して入れ替えるのではなく、少しずつ水質を改善するしかありません。それではどこから手を付けるのか、それはまさしくパワーパートナーからにほかなりません。
揚げ足を取る社員には、どのように対処するか
理念は、あくまでも将来目指す理想像です。今、できているという意味ではありません。社長が「社員を大切にする」と公言したからといって、すぐに給料を上げられるわけではありません。休みをたくさん増やせるわけでもありません。
社長は理念の実現に本気でも、揚げ足を取る社員はたくさん出てきます。そのとき、社長が自分で「がんばっているけど、まだ実現できないんだ」と言ってしまうと、言い訳がましく聞こえるだけ。
そんなときこそ、フォロワーの出番です。ナンバー2による翻訳が欠かせません。そのためにも、まずはナンバー2をはじめとする幹部と価値観を共有しておかなければなりません。幹部が離反すると、会社はあっけなく崩壊します。社長の考えを翻訳して社員に伝えてくれるフォロワーが事業承継の決め手なのです。