普段は節約を徹底させる一方で、決算期前になると利益の圧縮を目的に経費の使い道を探し始める経営者は多い。今回は、会社の決算前後で社長の思考が180度変わる理由等について見ていく。※本連載では、アクセスグループ代表、税理士法人アクセス代表税理士・鈴木浩文氏の著書、『親父いつ社長やめるの? ―創業者があなたに事業承継しない決定的な理由―』(アチーブメント出版)から一部を抜粋し、人財・理念承継のポイントを解説します。

「バランスシート(BS)」は経営者の考え方を映し出す

ある社長がA社とB社という業種のまったく違う2社を経営していました。ところが、両社の貸借対照表(バランスシート=BS)を見ると、瓜二つでした。A社はB社よりも10倍ほど規模が大きいだけで、BSがそっくりなのです。

 

社員はお金を稼いできます。しかし、お金の使い道を決められるのは経営者だけです。BSには、経営者がお金を使ったあとの結果が出ます。BSを見れば、その経営者の考え方がはっきりとわかるのです。BSは経営者の思考そのものと言ってもいいでしょう。

 

儲けたお金を現金でそのまま置いておくのか、それとも設備投資して顧客の利便性を大きくし、さらに儲けようとするのか。「社員を大事にします」と言っておきながら、役員専用のリゾート会員権を買っているとか。お客様第一だと言いながら、設備投資をしないとか。社長が言っていることとやっていることが一致しているかは、裏側のお金の使い方を見れば、一目瞭然です。

 

たとえば、カリスマ経営者ともてはやされている人たちがいます。外車を乗り回したり、講演会で「業界はこうすべきだ」と持論を展開したりしていて、まわりからは「あの人はすごい!」と思われているわけです。ところが、そのカリスマ経営者の会社のBSを見てみると、自己資本が数百万しかないというケースもあるのです。経営者の本当の姿は、BSに現れます。

経営者は「1円でも経費を下げよう」と考えるが…

あなたの会社が3月決算なら、1月末くらいから急に経費を使い出すことはありませんか? 1月までは「コピーは裏紙を使え」「パソコンだけじゃなく、ディスプレイの電源も落とせ」とケチケチだった社長が、一転して「エアコンの効きが悪くなったから買い換えようか」「クルマも傷がついてきたな」といった具合に、経費の使い道を探し始めるのです。

 

経営者は普段、1円でも経費を下げよう考えます。利益を最大化するためです。この考え方自体は当然のことです。ところが、期が始まった4月から経費に気を使いつづけてきた社長なのに、1月末くらいになると言うことが一変します。

 

1年の決算の着地予想が出てくるのがこの時期。税理士が損益を予想して「経常利益が3000万円くらい出て、税金が1000万円くらいになります」と概算を報告するのです(そもそも、この損益予想をしていない場合は危機的状況です。すぐに顧問税理士に相談してください)。

 

すると、社長の思考が180度変わります。「税金を1000万も払いたくない」という考えが頭の中を支配するのです。税金を払うくらいだったら、経費で使ったほうがいいと考えるわけです。利益を圧縮するために「必要なものはなんかないか?」と始まるわけです。

 

そして新年度の4月1日から社長は再びケチケチ街道をばく進します。

 

[図表]短期のPL思考は会社を滅ぼす
[図表]短期のPL(損益計算書)思考は会社を滅ぼす

 

現場の社員からしたら、「社長は儲けたいのか儲けたくないのか、どっちなんだ?」と困惑します。

 

なぜ、こんなことが起きるのでしょうか。社長が「いくら税金を支払うか」だけにスポットライトを当てているからです。「いくら残るか」を考えていない。「いくら貯めるか」という目標がない。

 

これは根深い問題です。というのも、税理士すらいくら貯めるかという発想に立っていないことがあるからです。

 

税金が減ってハッピーエンドに見えて、じつはそうではありません。

親父いつ社長やめるの? 創業者があなたに事業承継しない決定的な理由

親父いつ社長やめるの? 創業者があなたに事業承継しない決定的な理由

鈴木 浩文

アチーブメント出版

経営者の平均年齢は66歳・・・ 「うちの親はいつになったら引退するつもりなの?」 後継者のあなたはそう思っていませんか? 2028年まで事業承継税制「特例措置」によって自社株の贈与・相続に税金がかからなくなりました…

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