父が会長として経営陣に残る…後継社長としての「心構え」は?

平成30年4月1日より施行された新事業承継税制により、先代(父親)が取締役会長として経営陣に残るケースが増えてくることが想定される。後継社長(子)として、会社の発展のために、どのような心構えをもち、どのように振る舞うことが必要であろうか。※本連載では、アクセスグループ代表、税理士法人アクセス代表税理士・鈴木浩文氏の著書『親父いつ社長やめるの? ―創業者があなたに事業承継しない決定的な理由―』(アチーブメント出版)から一部を抜粋し、人財・理念承継のポイントを解説します。

跡継ぎとして知っておきたい「社長の役割」

中小企業の社長には、大きく分けて3つの役割があります。

 

1つ目は、最終意思決定者である「代表者」としての役割です。中小零細企業の場合、意思決定のプロセスで幹部や社員の意見を吸い上げることはあっても、最終的には社長自身がすべてを決断しているはずです。意思決定で大事なのは、情報収集力。情報を収集せずに「えいや!」で意思決定すると、誤った方向に進んでしまいかねません。

 

情報収集とは、単に座学で勉強するという意味ではありません。それも必要ですが、社員から正確な情報が上がってくる仕組みが不可欠。社員たちが「下手に情報を上げると怒られる」と思っていては、いくら情報を上げろと言っても上がってこないでしょう。社員が意見を言いやすい仕組みや雰囲気をつくっていくことが大切です。

 

これにプラスして、経営者には決断力も欠かせません。

 

この決断力のベースになるのが理念です。理念がないと決断がブレてしまいます。自分が何のために働いているのかといった個人理念、人生理念が明確であり、かつその人生理念が企業理念と統合されていること。人生理念と企業理念が一致していないと最終的な決断はできません。単純に意志が強い、弱いという話ではないのです。

 

2つ目は「経営者」として経営に参画する役割です。かつて事業承継税制を使うと、先代は役員を降りなければなりませんでした。今回の制度なら、経営陣として現場に残れるわけです。今まで社長だった先代が、経営参画者として取締役になれるのです。先代が取締役会長という立場になるケースも出てくるでしょう。

 

そのとき、社長になったあなたの真価が問われます。先代の意見を聞く姿勢を持たず、先代をないがしろにすればかえってトラブルとなってしまいます。先代は会長である前に父親です。尊敬の念は忘れてはダメなのです。

 

3つ目が所有者(オーナー)としての役割です。後継者が一子相伝ですべての株を握るということは、経営の全権を握るということにほかなりません。オーナーには、強い権利を持った人間の責任と役割があります。すべての意思決定を自分ができるのです。

 

オーナーになって、自我が出る人がたくさんいます。たとえば、社長を継いだ瞬間に、先代の給料を下げて、自分の給料を上げる人。先日、実際にそういう後継社長がいました。会社が赤字にもかかわらずです。その会社には叔父さんが役員に入っていてカンカンに叱ったそうです。

 

社長になったら自分の給料を自分で決められます。交際費も使いたい放題。これではあまりに視座が低い。もちろん高い給料を取るのはオーナーの自由。しかし、儲かっていての話です。受け継いだからには次の世代にバトンを渡す。そのためにはオーナーとしての自覚や理念が欠かせないのです。

先代とは「会社として」よりも「人として」の対話を

先代が取締役会長として残ったとします。そのとき、会長としての役割は何か。それは理念の代弁者です。会長の最大の役割は、後継社長の決断を正解に導いていくこと。とはいえ、それまで社長だった人ですから、何かと口出ししたくなるでしょう。

 

後継者が決断したら、それに従うべきだというのは、先代もわかっているはです。後継者に任せなければいけないのはよくわかっている。しかし、ついつい言いたくなってしまうものです。

 

よくあるのは、社内が会長派と社長派に分かれてしまうこと。会長が昔の部下を呼び出して、「今の社長のやり方どう思う? 違うよな?」と言っている企業は、ありませんか?そうならないために後継者には、親孝行を優先してほしい。

 

父親も息子も自分の正しさを主張する。自分の考えを押しつけ合う。しかし、会社経営の正しさは1つではありません。100人いれば100通りの正しさがあります。短期的に見るか、長期的に見るか。全体最適か、現場優先か。見る角度によって、正しさは異なります。

 

経営者としての正しさを主張し合ったら、答えは出ません。お互いに経営者だからです。人として親孝行の視点で考えたら、答えは1つ。

 

親の意見を尊重することです。

 

先代は、株をすべて後継者に渡しています。黄金株(会社の合併などの重要議案を否決できる特別な株券。拒否権つき株式とも呼ばれる)も持っていません。ということは、先代は息子に解任される恐れがあるのです。丸裸です。それが事業承継税制だからです。

 

先代の気持ちを想像してみてください。自分が人生を賭けて育ててきた会社の行く先を決める権利が、もうないのです。

 

先代がどんな気持ちで会社を大きくしてきたのか?

どんな想いで社員を守ってきたのか?

どんな想いで家族を守ってきたのか?

 

会社は、先代の人生そのものと言っていいかもしれません。後継者は、そんな会社を継いだのです。後継者にも考えがあるでしょう。しかし、先代の気持ちを汲まなければ、会社は持ちません。譲歩するのは、後継者です。

 

悩んだら親孝行。迷ったら親孝行。これがベストだと断言できます。というのも、親孝行は、誰もが正しいと思っている価値観だからです。親孝行を否定する人はいません。日本どころか、世界中で共通する価値観でしょう。

 

親子で話し合いがつかなかったら、会社としてどうすべきかではなく、人としてどうすべきかを優先すべきです。親子で意見が食い違ったとき、それが唯一の解決方法だと私は思います。

さらに次の世代へと会社を引き継ぐ「価値観」を

「なんでこれしか(給料を)もらえないんですか?」

 

少し育ってきた若手社員が、こんな不満を漏らすことがあります。「自分は成果を上げているのだから、もっと給料を上げてほしい」というわけです。

 

その若手は新入社員のとき、成果を上げたでしょうか。なんの成果も上げない時期でも、会社から給料をもらっていたはずです。苗を植えて、育てて、果実がなるものですが、新人はいきなり実だけをもらえるのです。それは先輩たちが果実を育ててきたから。これはどの会社でも同じこと。先輩たちが育てた果実を、新人はもらうわけです。

 

それならば、次は自分が後輩に果実を渡す番です。自分が預かったバトンを、次に渡すのです。しかも、できれば利子を付けて。バトンをピカピカに磨いて渡す。プラスティックのバトンを金属にして渡す。それが先輩の責務です。一人前になったからといって、いきなり自分の給料を上げろというのは、順番が違います。

 

後継社長も同じです。後継者は自分が創業したわけではありません。先代からバトンを受け取ったにすぎません。そのバトンをどれだけきれいにして次に渡すか。この価値観が大切です。せめてそのまま渡す。できればさらにピカピカのバトンにして次に渡す。次の人が、そのまた次に渡しやすくするのです。

 

そんな後継社長の姿を、社員たちは見ています。

 

[図表]

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アクセスグループ代表
税理士法人アクセス 代表税理士
一般社団法人財務コンサルティング協会 理事長
日本相続知財センター大阪中央支部 理事 

1970年生まれ。関西大学経済学部を卒業後、元マルサ税理士に師事。日本有数の会計事務所系の専門家グループである税理士法人マイツに転じて
企業再生・M&Aなどの財務コンサルティングの経験を積む。
年間100件ペースで相続税申告や事業承継対策をおこない、現場主義を貫いている。
現在は大阪・京都に事務所を開設し幅広く活躍。飲食チェーンの監査役や出版社・自動車教習所の社外取締役として経営実務にも携わっている。
アクセスグループ http://act-cess-souzoku.jp
事業承継診断チェック http://act-cess-souzoku.jp/shindan/

著者紹介

連載事業承継を真の成功に導く「人財・経営理念」の引き継ぎ方

親父いつ社長やめるの? 創業者があなたに事業承継しない決定的な理由

親父いつ社長やめるの? 創業者があなたに事業承継しない決定的な理由

鈴木 浩文

アチーブメント出版

経営者の平均年齢は66歳・・・ 「うちの親はいつになったら引退するつもりなの?」 後継者のあなたはそう思っていませんか? 2028年まで事業承継税制「特例措置」によって自社株の贈与・相続に税金がかからなくなりました…

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