節税のために利益を圧縮する企業が、銀行に見捨てられる理由

法人税などの支払いをいかに抑えるかを優先的な課題と捉えている中小企業の経営者は多い。今回は、手元のキャッシュを残し、内部留保を増やす「ストック型」の経営目線の重要性について見ていく。※本連載では、アクセスグループ代表、税理士法人アクセス代表税理士・鈴木浩文氏の著書、『親父いつ社長やめるの? ―創業者があなたに事業承継しない決定的な理由―』(アチーブメント出版)から一部を抜粋し、人財・理念承継のポイントを解説します。

「税金を払う」か「手元に残る額」か?

質問です。マイカーを普通車から軽自動車に変えて税金が減ったら、貯金は増えますか? 答えはイエス。10万円だった自動車税が5万円になったら、年間の貯金が5万円増えます。

 

それでは10万円だった固定資産税が8万円になったら、貯金は増えますか? 答えは、これもイエスです。単純に年2万円貯金が増えます。

 

それでは、所得税が減ったら、手取りは増えますか? 貯金は増えますか? たいていの人は「増える」と答えます。税金が減れば、それだけ多く手元に残るという発想です。でも、ちょっと待ってください! 確かに、自動車税も所得税も同じ税金です。しかし、所得税は何に対して課税されますか?

 

年収500万の人と年収1000万の人で考えてみましょう。年収500万円の人の所得税が50万円なら、手取りは450万円です。年収1000万円で所得税が150万円ならば、手取りは850万円です。

 

所得税は累進課税。仮に年収1000万円の人が所得税を50万円にするためには、年収を500万円に減らさなければなりません。そうすれば、確かに所得税は50万円になりますが、手取りは増えましたか? 850万円だった手取りが450万円になります。

 

これこそ、前回お話した法人税対策で経費を使いまくる社長がやっていることです(関連記事『会社の決算直前に「ケチケチ社長」が経費を使い出す本当の理由』)。何かおかしくありませんか?

 

税金を払うことにスポットライトを当てるか、それとも手元に残る額にスポットライトを当てるか。年収1000万円の人が「所得税を減らしたいから、給料を減らしたい」と言うでしょうか。そんなことは考えられません。

 

個人の収入で考えれば、誰でもすぐにわかることです。それなのに、会社経営の法人税となると、いくら残すかにスポットライトを当てられなくなってしまうのです。

「法人税を下げると手取りが多くなる」の大いなる誤解

なぜ、法人税となると思考が停止してしまうのでしょうか。その理由の1つは法人税が後払いであること。サラリーマンの所得税は天引きで、前払いです。年末調整で払いすぎた分が返ってきます。

 

ところが法人税は、利益が出たあとに払うもの。社長からすればせっかく頑張って出した利益からもぎ取られてしまう感覚があるのです。だから払いたくなくなるのです。

 

税理士が「どうしたいですか?」と社長に聞くと、たいてい「税金を安くしたい」という答えが返ってきます。今払う税金を少なくしたいのが人情。その気持ちはわかります。しかし、法人税を下げると手取りが多くなるというのは大いなる誤解です。

 

これだけは覚えておいてください。個人だろうが法人だろうが、税金を払わないと貯金できないということを。税金を安くしたいというのは、社長の本心でしょうか?

 

本当は、社長自身も会社を永続させるためにできるだけお多くのお金を手元に残したいのではないでしょうか。

利益を出せば出すほど「税金」は多くなるが…

個人の場合、貯金の目標額を設定している人が多いでしょう。毎月3万円は貯金する。10年後にいくら貯めたい。こうした目標があるはずです。ところが、会社としていくら貯めたいかを聞いて、答えられる社長に出会うことはまずありません。大まかな目標額すら持っていない社長が大半です。

 

業種によっては設備投資で大きなお金が動くにもかかわらず、ストックの目標設定がないのです。このストックを表すのがBSです。

 

どの会社も単年度の売上や利益の目標は設定しています。今期は利益をこれだけ出すぞ、といった具合に。これは短期的な損益計算書(PL)の目標設定です。PLとは、会社の一会計期間における経営成績を示すものです。

 

多くの社長はPLばかり気になって、利益をどれだけ内部留保するか、どのように再投資するかといった目標設定がありません。これは致命的です。中期の計画がなく、単年度の計画しか持っていない会社は、お金を貯めずに使ってしまうからです。

 

1年単位で経営していると、法人税がいくらかかるかだけにスポットライトが当たってしまいます。会社が利益を圧縮するのは、先ほどの例のように手取り850万円の人が、450万円でいいです、と言っているようなものです。個人ではありえないことが会社経営では起きるのです。

 

利益を出せば出すほど確かに税金が多くなりますが、手元に残るお金も増えるのです。いくら貯めるかというストック型に発想を変えるべきです。

会社の未来を左右する「内部留保」の重要性

2011年の東日本大震災のとき、多くの会社が被災しました。工場や社屋が被害にあい、事業がストップしてしまった会社が数多くありました。それでも残った会社には、共通点があります。それは、メインバンクが助けた会社であること。それではメインバンクはどんな会社を助けるのでしょうか。

 

内部留保があり銀行と信頼関係があった会社です。

 

これが会社の生命線です。内部留保があるということは、つぶれない確率が高い。銀行がお金を貸すのは、つぶれそうにない会社です。「こっちが困ったとき、あいつら銀行は手のひら返しやがって」と言う社長がいます。当たり前です。銀行も慈善事業ではなく商売です。確実に返してくれる会社に貸すのです。

 

内部留保は単に利益を出し続けたことを裏づけるだけではありません。経営者の未来への投資に対する考え方・スタンスを反映するのです。万が一、不測の事態が起きても、財務体質が強い会社は残ります。

 

私たちの手取りは、税引き後です。企業も、税引き後に内部留保していくのです。個人も法人も、税金という関所を通らなければ、お金は貯まりません。

 

内部留保をいかに計画的に進めるか。これが会社の未来を左右するのです。内部留保を進めるために不可欠なのが、PLではなく、BSの目標設定です。いくら税金を減らせるかではなく、いくら貯めるのか。ここをつねに意識しなければいけません。

アクセスグループ代表
税理士法人アクセス 代表税理士
一般社団法人財務コンサルティング協会 理事長
日本相続知財センター大阪中央支部 理事 

1970年生まれ。関西大学経済学部を卒業後、元マルサ税理士に師事。日本有数の会計事務所系の専門家グループである税理士法人マイツに転じて
企業再生・M&Aなどの財務コンサルティングの経験を積む。
年間100件ペースで相続税申告や事業承継対策をおこない、現場主義を貫いている。
現在は大阪・京都に事務所を開設し幅広く活躍。飲食チェーンの監査役や出版社・自動車教習所の社外取締役として経営実務にも携わっている。
アクセスグループ http://act-cess-souzoku.jp
事業承継診断チェック http://act-cess-souzoku.jp/shindan/

著者紹介

連載事業承継を真の成功に導く「人財・経営理念」の引き継ぎ方

親父いつ社長やめるの? 創業者があなたに事業承継しない決定的な理由

親父いつ社長やめるの? 創業者があなたに事業承継しない決定的な理由

鈴木 浩文

アチーブメント出版

経営者の平均年齢は66歳・・・ 「うちの親はいつになったら引退するつもりなの?」 後継者のあなたはそう思っていませんか? 2028年まで事業承継税制「特例措置」によって自社株の贈与・相続に税金がかからなくなりました…

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