今回は、家族が受託者となる民事信託等について見ていきます。※本連載では、株式会社継志舎代表取締役・石脇俊司氏の著書、『民事信託を活用するための基本と応用』(大蔵財務協会)から一部を抜粋し、信託活用にあたって理解しておきたい基本事項について解説します。

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信託の受託者は権限を持つだけでなく、義務も負う

Q 信託の受託者の業務について。受託者は何をするのか?

 

A 受託者は、引き受けた信託の目的の達成に向けて、信託財産の管理・処分を行っていきます。

 

 Point 

□受託者は委託者の信託目的を達成するためその信託を引き受ける

□受託者は信託目的を達成するために信託財産の管理・処分に権限を持ち義務も負う

 

信託には必ず目的があります。目的がない信託は信託ではありません。例えば、高齢者の資産を管理する信託では、その高齢者の健全な福祉を実現するという目的があります。病気や精神的な理由で高齢者自身が財産の管理ができなくなった後も、受託者にその管理を任せつつ高齢者は福祉的な生活を送れるようになります。

 

委託者が実現したい目的を信託行為に定め、それを受託者が引き受ける、これが信託の基本的な枠組みです。受託者は委託者より引き受けた信託の目的を実現するために必要な行為をする権限を有しています。また、信託を引き受けてから終了するまでの間、受託者は、様々な義務を果たさなければなりません。

 

受託者となることは「大変なことを引き受ける」その覚悟が必要です。

 

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免許や登録のない者でも「信託の引き受け」は可能

Q 民事信託とは?

 

A 民事信託についてその定義はいくつかあります。本連載

では、信託を業としない者が信託を引き受ける(受託者となる)信託と定義します。さらにその引き受け手は、委託者の家族等が担います。

 

 Point 

□家族等が受託者となる信託

□家族が受託者となるゆえに各専門家の支援が必要な仕組み

 

信託の主な担い手は、内閣総理大臣の免許又は登録を得た信託会社や信託銀行です。複数の者から信託を引受ける信託業の営業を行うことができます。信託会社や信託銀行は、社会のニーズにあわせ今後、様々な信託商品を開発していくことと思われます。

 

一方、信託業の免許や登録のない者でも信託の引き受けは可能です。高齢になった父や母の財産管理を行うため、子供等が受託者となり信託を引き受ける民事信託の取り組みが注目されています。身近な家族に財産管理を任せることの安心感からも今後その取り組みの数は増えていくことでしょう。

 

父や母が高齢となり自身で財産の管理ができなくなる前に、子供たちが務める受託者に財産を移転し、子供たち受託者が財産の保守、修繕、運用し、受益者である父や母に運用益等を給付することができる仕組みは、今後の超高齢社会に必要な財産管理の方法です。

「素人受託者」は様々な専門家からの支援が必要である

信託は財産管理と承継の仕組みです。その信託を業として行うためには、内閣総理大臣の免許または登録が必要となります。一方、信託の引き受けを業としない民事信託は、資産管理の専門家ではない家族等が受託者となり信託を引き受ける信託です。そのため、素人受託者は様々な専門家から支援をうける必要があります。

 

民事信託をより発展させていくためには、金融機関、弁護士や司法書士などの法律の専門家、税理士や公認会計士などの税・会計の専門家、各財産の管理・運用業務に精通した資産管理の専門家、そして受託者の信託事務を支援する信託に精通した実務家の支援が必要です。

 

民事信託の利用

 

高齢者の財産管理と資産承継に対応できる信託は今後さらに活用が進むと思います。様々な利用法が生まれてくることでしょう。

 

家族が家族のために引き受ける信託では受託者が、信託会社や信託銀行のように内閣総理大臣の免許も登録も必要とせず、当局の監視もありません。そのため民事信託を利用する者は、自らを律し信託法に従って正しく活用していく必要があります。

 

家族の状況にあわせて自由な設計が可能な民事信託でも、行き過ぎた利用がなされると現行法に加えて新たな規制がかかることも考えられます。民事信託ならではの柔軟性を欠いてしまうような規制が導入されることは、筆者は民事信託を支援する者として防いでいかなければならないと考えています。そのために、実務家として正しい民事信託の利用を広げていきたいと思っています。

 

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民事信託を活用するための基本と応用

民事信託を活用するための基本と応用

石脇 俊司

一般財団法人 大蔵財務協会

実務目線による経験に基づく情報を盛り込み、「非営利型の一般社団法人」を活用した民事信託における実務のポイントを整理し、わかりやすく解説します。

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