家族の状況にあわせた柔軟な設計が可能な「民事信託」ですが、長期安定させるためには注意するべきポイントがいくつかあります。今回は、民事信託を長期間、安定的に維持していくための留意点について見ていきます。※本連載は、株式会社継志舎代表取締役・石脇俊司氏の著書『民事信託を活用するための基本と応用』(大蔵財務協会)から一部を抜粋し、「非営利型の一般社団法人」を活用した民事信託における実務のポイントを整理し、わかりやすく解説します。

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受託者が適正に信託事務を行なえるための仕組みとは?

Q 民事信託の受託者が適正に業務を行っていくためにはどんなことに気をつければよいか?

 

A 受託者が適正に信託事務を行っているか、義務を果たしているかについて監督することが必要です。受託者を監督するだけではなく、受託者が適正に事務を行えるよう受託者を支援する仕組みも必要です。

 

 Point 

□客観的な立場で受託者を監督する者が必要

□受託者の能力を把握し、受託者ができない業務を委託する

 

商事信託では、受託者が適正に信託事務を行い続けていくために、①受託者の社内のガバナンス体制の構築、②信託の引受け、信託事務等に関する各種規程・マニュアルの整備、③当局の定期的な検査の実施、などが行われています。信託の引受けを業とするため、問題が起こらないようその監督の仕組みは多重です。

 

民事信託では、商事信託のような多重な監督体制を導入することは難しいと思います。家族等が受託者を務める民事信託では、委託者と受託者の信頼関係があり厳重な監督まで必要ではありません。しかし、安定的な民事信託を実現するため、最低限のガバナンス、監督体制は必要です。民事信託における受託者を監督する方法は、信託監督人の設置、受益者代理人の設置などが考えらます。

 

信託監督人は、信託契約に別段の定めがある場合を除き受益者のために自己の名をもって裁判上又は裁判外の行為をする権限があります。具体的には、受託者の権限違反行為の取消権、受託者の利益相反行為に対する取消権、信託事務の処理状況についての報告請求権、帳簿等の閲覧等の請求権、受託者の行為差し止め請求権、受益者代理人に対する就任承諾の催告権、信託法の規定による裁判所に対する申立権、などがあります。

 

信託監督人は権限を行使するにあたって善管注意義務と誠実公平義務を負います。信託監督人は、信託契約に定めがなくても、受益者が受託者を監督することができない特別な事情がある場合、利害関係人の申し立てにより裁判所が選任することができますが、信託設定時にあらかじめ信託契約に定めておくことがよいと思われます。

 

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受益者の権利の保護のためには受益者代理人を設置します。受益者代理人は、受益者のために受益者の権利を代理して行使します。受益者が、高齢、病気や精神的な障害などの理由で自身が権利を行使することができないときに活用します。受益者代理人が設定されると、受益者は、受託者監督の権利を除いて権利を行使することができなくなります。

 

家族等が受託者を担う民事信託では、信託を設定する際、受託者の能力を検証することが必要です。

 

大前提として、善管注意義務と自身の利益を優先しない(利益相反行為の禁止)ことができる者でなければなりませんが、定めに従い忠実に業務ができる「真面目さ」も求められます。受託者としての義務を果たすことができる者であることがわかったら、財産管理能力について確認します。

 

例えば、収益不動産が信託財産の場合、不動産の実務を理解していることが求められます。信託財産にかかわらず信託帳簿の作成も必要です。収益が生じる財産の場合、信託財産の損益も報告する必要があり、会計の基礎的な知識が必要です。

 

家族等が受託者を務める民事信託では、上記のような能力をすべて有している人は少ないと思われます。不足する能力については、第三者の専門家に委託することとします。

 

[図表1]委託する項目と委託先の候補について(一部)

専門家の支援がなければ民事信託は正しく続かない

Q 家族等の受託者が行う信託事務を長期間にわたり安定させるにはどうしたらよいか?

 

A 受託者に任せきりでは安定的な信託の継続に疑問があります。信託事務に理解と実務経験のある者が継続的に受託者の事務を支援していくことが求められます。時には怠慢に陥る受託者を注意することも必要です。長期間にわたり受託者の伴奏者として受託者が行う信託事務を支援していきます。

 

 Point 

□専門家が受託者を支援する

□受託者が行うべき信託事務のリストを作成し実施状況をチェックする

 

民事信託が注目されるようになり、その仕組みを説明する書籍やセミナーが多数提供されています。信託の仕組みの検討、信託契約書の作成、金融機関に信託口口座を開設、(信託財産が不動産の場合)信託登記を行うなどの民事信託の設定について支援する専門家の数も増えてきました。超高齢社会の日本では信託のニーズも多く、このように民事信託の活用と専門家が次第に増えていくことは大変よいことと筆者は思っています。

 

しかし、大切なことは設定した民事信託が長期間にわたって安定することです。民事信託の設定を支援した者は、その民事信託をずっと支えていく必要があると筆者は思っています。受託者が義務を果たすことで受益者の権利が満たされ続け信託目的が実現するよう、民事信託の伴奏者として支援者は受託者を導いていかなければなりません。

 

勘違いしてはいけないのが、受託者の信託事務は、受託者が主となって行わなければならないということです。支援者が代行することは、その家族のための民事信託ではなくなり、支援者は信託業法に違反することにもつながる可能性もあることを理解しておかなければなりません。

 

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正しい信託事務を行うための「チェックリスト」

信託契約には、受託者の信託事務や受託者が果たすべき義務の定めがあります。定めはあっても受託者が義務を負い適正に信託事務を行っていけるのか不安があります。筆者は、受託者任せの民事信託は、いつか受託者の怠惰が発生し、信託事務が適正に行われなくなるようになると思っています。また、初めから怠けるつもりはなくても、具体的にどのようなことをしていけばよいのか、受託者がわかっていないこともあり結果的に信託事務が行われないことへとつながると思っています。

 

それらを防ぐため、受託者が行う信託事務のチェックリストを作り、受託者と支援者が共有して定期的にチェックリストを確認することが必要と思っています。支援者によるチェックでなく、受益者又は信託監督人がチェックリストについてその実行状況を確認することでもよいと思います。

 

民事信託は、受託者が定期的に行わなければならに信託事務を怠っていても、商事信託のような当局の監視がないため、罰則が科せられないこともあります。ペナルティーが科せられないためしだいに信託事務がおろそかになり、信託財産が大きく棄損する、受益者の権利が損なわれることが将来発生し、その時点で大きな問題となる可能性もあります。

 

将来、家族の間で問題を生じさせないよう、チェックリストを定期的に確認することで安定的な民事信託を維持し続けることができます。受託者の信託事務とそのチェックリストについては、本書(『民事信託を活用するための基本と応用』大蔵財務協会)第3章「受託者の財産管理の実務」で取り上げます。

 

[図表2]受託者の信託事務チェックリストの例

 

 受託者の信託事務マニュアル

 

民事信託の支援において、筆者の業務は大きく分けて2つあります。①【民事信託設定の支援】委託者の思いと財産の状況を把握して信託の仕組みを検討し、信託契約の締結を支援、②【受託者が継続的に信託事務を行えるよう支援】受託者に移転した信託財産の管理について受託者の相談窓口となり支援、の2つです。

 

特に後者は、長い期間に渡るため、受託者の相談者になり、受託者が自立して自身が行うべき信託事務を実行できるようサポートしていかなければなりません。その際、何をすべきか共通の認識を得るために、筆者は「受託者マニュアル」を作成し、マニュアル内にToDoリストを載せます。このリストに従って、ある事務は委託する、この事務は受託者が行うという風に事務を行う者を明確にしていきます。あわせてそれをいつ実施するのかといった期日も管理できるようにします。

 

自宅のみ信託財産とする民事信託であれば、詳細な項目までのリストを作る必要もないかもしれません。そのような信託事務の手間の少ない信託でも不明な点があれば、問い合わせ窓口としていつでも連絡を受けて相談先となるようなサポートをしています。

 

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民事信託を活用するための基本と応用

民事信託を活用するための基本と応用

石脇 俊司

一般財団法人 大蔵財務協会

実務目線による経験に基づく情報を盛り込み、「非営利型の一般社団法人」を活用した民事信託における実務のポイントを整理し、わかりやすく解説します。

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