相続争いは「財産が少ない」ほうが深刻化する
「相続で争うのはお金持ちだけ」「うちには関係ない」・・・。実はそれ、大間違いです。最高裁判所の司法統計(2016年)を見ると、遺産分割がまとまらずに、家庭裁判所に申し立てられる遺産分割事件の金額別件数を見ると、遺産額1000万円以下が33.1%、1000万円超5000万円以下が42.4%──つまり、裁判所に持ち込まれる遺産分割事件の75%以上は遺産額5000万円以下の案件なのです。
相続争いは分ける財産が少ない人のほうが、争いが深刻化するのです。一体なぜなのでしょうか?
私は相続財産を平等に法定相続分で分けなくてはいけないと考えていること自体に、揉める原因があると考えています。
皆さんは、相続財産は平等に法定相続分で分けるものだと思っていませんか? 私は、相続対策関係の財産コンサルティングを約20年行っていて、すでに1000件以上の相続税申告書を見てきましたが、実務上は平等に分けるべきではないと断言します。現に、私が今まで担当した相続案件は、法定相続分で平等に遺産分割された申告は1件もないのです。そしてその全ての相続は円満に遺産分割が完了しています。
現代の風潮である『法定相続分で分ける平等相続』という考え方では、相続争いは回避できないのではないかと私は考えています。そして、このまま、『法定相続分で分ける平等相続』という考え方を強く推し進めていくと、ますます相続争いが増えていく気がしてなりません。では、どうすれば揉める相続を回避することができるのか? それが『不平等相続』なのです。相続においては〝不平等な分配〟こそ重要だ──ということです。私の言う〝不平等〟とは一見穏やかではありませんが、「機械的な平等を排し、公平感があるように分ける」という意味です。そして、「相続財産を誰にどのように継がせるか」という分け方さえしっかりしていれば、節税対策も自ずと調います。
では、「家族の誰もが納得し、後悔することのない爽やかな相続」──〝爽続〟の具体的な方法を、実例を交えながら分かりやすく解説していきましょう。
相続争いの原因は「平等相続」にある
相続は一生のうちに誰にでも起こることで、避けることのできない人生のイベントのひとつです。一度、相続争いになってしまえば、親族の間は険悪な状態となり、お互いが納得するまで、争いがずっと続いてしまうことも少なくありません。私のところに相談に来られるお客様のなかにも、相続が原因で親族間の争いがずっと続いている人も少なくないのです。
家庭裁判所に申し立てられる遺産分割の調停・審判の件数は平成29年度で1万6016件、平成20年の1万2879件の1.24倍、平成10年の1万302件と比べると1.55倍となっており、相続争いが増加していることが分かります。
そして、前述したように最高裁判所の司法統計(2016年)の遺産分割事件の金額別件数を見てみると、遺産分割がまとまらずに家庭裁判所に申し立てる人たちの財産額は、1000万円以下が33.1%。1000万円超5000万円以下が42.4%です。実は遺産分割事件によって裁判所で争っている人たちの75%以上が5000万円以下の相続財産額なのです(図表1)。これは、財産が多いことが揉める原因ではないことがわかります。
[図表1]遺産分割事件金額別件数
では、一体、なぜ相続争いは起こってしまうのでしょうか?
私の個人的な感想かもしれませんが、法定相続分で分ける平等相続は、揉めた相続の結果だと思えてなりません。従って、法定相続分で分ける平等相続の考え方では、相続争いは回避できないのではないかと私は考えています。
そしてこのまま、こうした平等相続の考え方を強く推し進めていくと、ますます相続争いが増えていく気がしています。
相続がまとまらず、争族、つまり「家族の争い」となり、最終的に争続、つまり、「争い続ける」状態になって、家族がバラバラになってしまうという事例も耳にします。私のところにもそんな方が相談にみえますが、ここまで揉めてしまっていては、さすがに修復のしようがありません。
これらの相続争いの解決策に「不平等相続」があると私は考えています。その考えをこの本で解説していきますので、是非今までの考え方を変えていただき、「家族の誰もが納得し、後悔することのない爽やかな相続」=〝爽続〟を目指しましょう。
相続争いになってしまう原因は、いくつかあります。
長引く不景気、将来への不安も相続争いの遠因に
まず、相続争いに発展してしまう大きな原因は強くなり過ぎた平等意識にあると私は考えています。
もともと1947年の憲法改正まで日本の相続といえば、家督相続が一般的であり、法律によって定められていた方法でした。家督相続とは、戸籍上の戸主、つまり、家の長、家族を統率する者が死亡すると発生し、通常、長男1人がその家の長としての地位と全ての財産を相続するというものです。
ところが、1947年5月3日に施行された日本国憲法により、家督相続から均分相続に変わりました。均分相続とは、配偶者を除く他の共同相続人の財産を均等に配分するという相続(本書でいう平等相続)のことです。しかしながら、法律上は均分相続になったものの、その後も長男を中心とした家督制度の考え方は長く続いてきました。現在のように平等意識が高まってきたのはバブル経済が崩壊した1989年以降ではないかと考えています。
そこから、日本経済は30年近く続く不況に突入します。いわゆる失われた20年と呼ばれる時代です。
日本経済が低成長で推移するなか、消費税の増税、社会保障費の負担が増えていくことで経済成長率が低くなり(図表2)、企業も事業を維持するためにリストラを行ったり、新たに人を雇ったりするのではなく、契約社員や派遣社員などの非正規雇用社員で代用しようとします。こうして将来への不安が高まってくると、その不安を解消するために、もらえる財産はもらおうという気持ちになる人が増えてきました。それが、権利を主張する人が増え、均分相続という名のもとに相続によって財産を増やそうと考える人が増えた理由だと、私は考えています。
[図表2] 経済成長率の推移
成島 祐一
株式会社財産ブレーンラスト 常務取締役