5日、トランプ米大統領は米国上下両院合同会議において一般教書演説を行った。予算案を巡る激しい対立が続き、打開策の提示に注目が集まる中、演説はこれまでの成果と持論の展開におさまり、野党民主党への配慮を感じる場面はあったが、踏み込んだ新しい政策への言及はなかった。秋の中間選挙で下院を民主党に制され、与野党の協調に依存せざるを得ない局面を迎えているトランプ政権。政策の遂行にあたり、お互いの妥協を訴えてはいるが、2020年に控える大統領選のキャンペーンに向け、従来の主張は曲げず、対立していく公算が高いだろう。

成果と持論を強調、民主党への譲歩を見せる場面も

トランプ米大統領は2月5日、米国上下両院合同会議での一般教書演説を行った。米国では、大統領が議会に出席して演説する機会は少ない。上下両院の多数を、与党共和党と野党民主党が分け合い、予算案を巡って激しく対立するという状況で、大統領としてどのように打開への道を示すのかに注目が集まった。

 

トランプ大統領は、先ず、不法移民の問題を挙げ、米国に差し迫った危機だと指摘して、メキシコとの国境沿いに壁を建設するという従来の主張を繰り返した。従前から、壁の建設費用を予算に計上することに反対する議会民主党へのけん制策として非常事態の宣言をちらつかせてきたため、一般教書演説では非常事態宣言に言及するとの予想も一部にはあったが、そうした急進的な行動に出ることは控え、議会には、2月15日に設定した交渉期限までに、両院の妥協により、予算で合意するよう訴えた。

 

 

連邦政府の一部は、今年に入って約1ヵ月余りにもわたって閉鎖され、ようやく再開されたばかりだが、メキシコ国境沿いの壁建設要求を自ら撤回するような譲歩はなかった。むしろ、昨年の中間選挙の時に主張されたように、移民は米国への攻撃であるといった表現や、国境が無政府状態であることのリスクなど、危機感を煽るような指摘と、国境の壁がどれほど国民にとって有益であるかの説明にかなりの時間が割かれた。

 

また、議会民主党が模索している2016年大統領選へのロシアによる介入疑惑やトランプ陣営との共謀に関する捜査や、国外の戦争に米国が関与する可能性については、米国経済の脅威であると警告。米国で現在起きている奇跡的な経済状況を止め得るのは、くだらない戦争や政治、理不尽な調査だと批判した。一方で、メディケアの分野では、処方薬の値下げや医療インフラの改修に1兆ドル規模の拠出の姿勢を示し、民主党への譲歩も見せた。

 

トランプ大統領は、政権獲得後の成果として、失業率の低さや製造業の雇用増などを経済面での実績として強調した。ただ、今後、米国経済の成長を加速させるような新たな経済政策には、言及しなかった。

 

通商政策では、多国間貿易協定への疑念を改めて示した。そして、二国間での協議を優先する考えを示し、中国を念頭に、諸外国との貿易関係をより米国に有利な条件に見直してきた成果を強調した。中国との交渉では、米国の慢性的で巨額な貿易赤字を削らすことと、米国の雇用を守るような構造的な改革を実現すると述べた。

 

外交政策では、イスラエルと対立するイランを脅威として挙げ、対イラン政策の重要性を強調した。また、中東地域において脅威となってきた「イスラム国(IS)」の掃討がほぼ完了したことが成果として挙げられた。この他には、ベネズエラのマドゥロ大統領の退陣に向けた取り組みを支持する立場を表明した。NATOへの関与を弱めることや、核拡散防止条約の破棄などは語られなかった。

政策遂行へ妥協か、大統領選に向け対立か

トランプ大統領が、今回の一般教書演説で言及した内容は、移民への厳しい対応や国境警備の強化、壁の建設、「米国第一」の外交政策と、従来の主張テーマに総花的に盛り込んだもので、新しい政策への踏む込んだものではなかった点は、盛り上がりに欠けるものだったと言えるだろう。

 

共和・民主両党間で、何らかの大きな妥協を実現できないほど亀裂が深まり議会運営が困難を極める中、与野党の協調に依存せざるを得ないことは明らかで、そのための呼びかけに腐心したこともうかがわせた。

 

やはり、昨年秋の中間選挙の結果、民主党が下院を制し、下院議長の席にナンシー・ペロシ民主党院内総務が就いたことで、民主党が議会運営に一定の力を持つようになった影響は、トランプ政権の政策遂行に大きな影響を与えている。トランプ大統領の言動と、政治的な現実や実現できる政策とのかい離が大きくなったことは否定できない。

 

2020年の大統領選のキャンペーンに向けて、トランプ大統領は、従来の主張を継続することに妥協せず、対立型の主張を展開する公算もまた高まったのではないだろうか。

 

 

長谷川 建一

Nippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank(NWB/日本ウェルス) CIO

 

 

本稿は、個人的な見解を述べたもので、NWBとしての公式見解ではない点、ご留意ください。

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