長期的な運用で安定した資産を形成できるといわれている不動産投資ですが、知識がないばかりに大きなマイナスを抱える投資家がいるのも事実です。本連載は、株式会社CFネッツ副社長・アセットコンサルタントの山内真也氏の著書、『プロが教える 不動産投資の真実』(プラチナ出版)の中から一部を抜粋し、ワンルームマンションへの投資を中心に、不動産投資とはどういうものか、またどのような目線で投資を進めていけばいいのか、多くの数字をもって解説していきます。今回は、最適な投資プランの見つけるのはどうすればいいのかを見ていきましょう。

不動産投資で重要なのは「目標設定」

ここまでで、新築ワンルームマンションと中古ワンルームマンション、そして新築アパートと中古アパートそれぞれの投資シミュレーションをみてきました。では結局のところ、ワンルームマンションとアパートのいずれに投資すればよいのでしょうか?

 

これまでのお話で、新築ワンルームマンションではないということはわかっていただけたと思いますが、実はこの設問には正解がありません。不動産投資を行う投資家の目標や目的によって、その目標に最も効率よくかつ安全に到達できる投資手段が異なるからです。

 

冒頭に触れたように、私は投資相談に訪れた投資家の皆さまには必ず「何のために不動産投資を行うのか」をお聞きすることにしています。繰り返しになりますが、「何のために」という投資の目標や目的によって、こちらが提案する投資物件や投資規模といった投資戦略が自ずと異なってくるからです。

 

将来の年金不安に備えて、不動産投資を行う投資家の方は多いでしょう。ただ、同じ年金不安への対応でも、毎月10万円が必要なのか、20万円が必要なのか、それとももっと上をめざして100万円が必要なのかという、不動産投資によって実現しようとする目標金額が異なるのです。

 

確かに、儲けは多ければ多いほどよいのかもしれません。しかし、より多くの儲けを得ようとすれば、用意しなければならない自己資金の額も、銀行から借り入れるローンの金額も多くなって、人によっては過大すぎるリスクを背負うことになってしまいます。

 

しっかり投資分析を行ったうえで不動産投資を行えば、リスクはある程度コントロールできるのです。目標を達成するために背負うリスク以上のリスクを最初から背負い込む必要はないのです。

 

不動産投資によって実現したい目標金額を明確にしたうえで、その金額に効率よく到達するためには、ワンルームマンションなのか、アパートなのか。仮にワンルームマンションなら何戸購入すればいいのかを考えてみればよいのです。

高いリターンを狙うなら「一棟アパート」

①目標600万円ならアパート投資?

 

たとえば65歳のリタイア後は、ときどき旅行に行ったり、仲間と趣味を楽しんだりと、ゆとりあるシニアライフを実現するために、毎月50万円、年間600万円のキャッシュフローを不動産投資で実現したいと考えたとしましょう(図表1)

 

[図表1] キャッシュフロー600万円の投資シミュレーション
[図表1] キャッシュフロー600万円の投資シミュレーション

 

そうすると、65歳の定年までにローンの返済を終えていることを前提に、家賃収入から運営費などを差し引いて残る営業純利益(ネット収入)が600万円になるように投資を組み立てればよいわけです。

 

大まかな目安として、投資シミュレーションでは空室損に5%、運営費に20%の合計25%を支出として計上します。すると、年間に必要な家賃収入は800万円(ネットの収入600万円÷75%)。年間800万円だから、毎月の家賃収入としては67万円を目指さなければならないのです(年間家賃収入800万円÷12ヶ月)。

 

新築アパートの場合だったら、1戸当たりの月額家賃が6万円として、67万円のためには約11戸が必要です。1戸当たりの物件価格を1000万円として計算すると、仮に11戸の新築アパートであれば1億1000万円の投資規模が必要になります。

 

この投資規模から割り出した適正なローン返済額は、年間460万円(DCR1.3から逆算、営業純利益600万円÷DCR1.3=年間返済額460万円)。65歳の定年時に600万円のキャッシュフローを手にするには35歳で11戸の新築アパートを融資期間30年で購入し、ローン返済中は600万円−460万円=140万円のキャッシュフローが入る計算です。

 

同じ年間600万円の投資目標を、ワンルームマンションで実現しようとするとどうでしょう。先ほど投資シミュレーションした、築27年の中古ワンルームマンション物件Bのケースだと、営業純利益は約50万円でした。すると、同程度の中古ワンルームマンションを12戸ほど購入しなければ、600万円の目標に到達しないのです。

 

ワンルームマンションは1戸当たりの金額が低い分だけ投資リスクは抑制できますが、一方で、投資スピードが遅くなりがちです。銀行も、新築アパート一棟クラスへの融資は規模が大きいため積極的スタンスを取っていますので、1回で600万円の投資目標に向けた資産形成ができますが、中古ワンルームマンション12戸をそれぞれ1戸ずつ融資するには、銀行にとってもそれだけ経費がかかります。

 

また皆さん自身も物件の契約から銀行と結ぶ金銭消費貸借契約、そして決済まで、目標とする資産形成を達成するにはそれなりの時間と手間がかかります。月々50万円ほどの目標であれば、まずはアパート投資から始めたほうがより現実的な数字に近づけやすいということですが、あとは投資家それぞれの年齢、資産背景などによって提案内容は異なってきますので、そこは個別にご相談いただけければと思います。

リスク抑制&分散なら「ワンルーム」が選択肢に

②リスク分散ならワンルームマンション投資

 

あとはその投資家の背負えるリスク感次第です。初めから一棟だとなかなかハードルも高くなるでしょうから、まずはワンルームマンションから契約・銀行手続・決済、そして確定申告までのひととおりの経験を積み、自信がついた時点でアパートに挑戦するようなスタンスでもよいと思います。

 

また、先程のケースである区分のワンルームマンション12戸に投資した場合は、エリアや物件特性によってリスク分散できるメリットがあります。何らかの理由によってエリアの賃貸需要が急減してしまえば、アパート一棟はリスクが伴いますが、最初からエリアを分散してワンルームマンション12戸を購入すれば、こうした事態は避けることができます。

 

一棟アパートよりもワンルームマンション投資のほうが自分には向いているという投資家の方は、長期間でコツコツと資産を積み上げていく投資戦略を組み立てていけばよいでしょう。

 

また、そもそも年間600万円もの不動産収入が必要ないと考える人、たとえば毎月15万円の安定収益があれば足りる人の場合、リスクの低い中古ワンルームマンション1戸から始めてみるのも一手です。

 

中古ワンルームマンション物件Bの価格は、800万円。銀行ローンによってレバレッジをかけるため、自己資金として投入した金額は160万円。そのようにして購入した中古ワンルームマンションから得たキャッシュフローと、毎月の給与収入の中から生まれる余裕資金を、無駄遣いせずにコツコツ貯めて、再度自己資金ができれば中古ワンルームマンションを購入してみます。毎月15万円であれば、1000万円のワンルームマンション3戸~4戸を買ってローン完済できれば、おおよその目標は達成となります。

 

このようにして、その投資家さんの目的によって進める方向性は異なってきますが、一般的にはそのような投資を繰り返して資産を形成し、ある程度の規模まで買い足すことができれば、そこからはリスクを縮めていく作業に入ります。

 

借換えをして金利を下げる、また所有物件を売却してローンの繰上げ返済に充当し、残りの融資期間を短くしてもよいでしょう。そのような作業を長期にわたり繰り返すことによって、投資リスクを着実に下げることができるようになります。

 

不動産投資未経験の方は、まず実際に始めてみることです。やってみてこそわかることも少なくありません。とくに一般のサラリーマンは、ほとんど縁のない確定申告の方法も始めてみないとわかりません。まずは賃貸物件を運営しないと、不動産投資のメリットやデメリットや各リスクも実感できないのです。まずはリスクの低いところから実行してみるというのも重要ではないでしょうか。

 

数百万円の区分マンションといっても、ひとつずつを買い足して6戸になれば、もうそれは一棟のアパートを所有しているのと変わりないですし、最初は不動産投資にまだ半信半疑で慎重だったけど、物件購入を続けていくうちに次第に投資スピードが上がっていく投資家の方が圧倒的に多いのです。

 

また私のオーナーでも、当初は「投資の目標は毎月20万円の安定収入を得ること」「リスクの低い中古ワンルームマンションしか怖くて自分にはできない」といいながら物件を購入してもらいましたが、今ではワンルームマンション10戸以上を保有するまで資産規模が拡大しました。

 

するとどうでしょう。今後は繰上げ返済やリスク圧縮に転換するタイミングかなと思っていたところ、「次はアパートに挑戦したい」「もう少し目標とする収入を上げたい」と方向転換するケースもあるのです。それは実際に経験して不動産投資のリスクを知り、まだ自分でもそのリスクを背負えるだけの余裕があるとわかったからなのだと思います。

 

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