表面利回り7.2%、購入価格8000万円の投資物件
新築アパート投資の事例を検証しましょう。
私が実際、投資家に紹介した横浜市の新築アパート物件Cです。月額家賃は約6万円で総戸数8戸。表面利回りは7.2%で、購入価格は8000万円の投資物件です。
[横浜市新築アパート物件C]
●京急線某駅から徒歩5分
●新築
●木造2階建てアパート
●1戸当たり22m2×8戸
●表面利回り7.2%
この新築アパートCの購入総費用は、8000万円に諸費用700万円を加えた8700万円。購入した投資家は、銀行から物件価格100%、フルローンにて8000万円のローン調達に成功し、残り700万円は、自己資金を投入しました。ローンの金利は1.8%で、期間30年、年間返済額は345万円です。
月額家賃約6万円で、年間家賃収入は576万円。ここから空室損である28万円をあらかじめ差し引いた実効総収入は、547万円です。
総戸数8戸のアパート規模だと、固定資産税などを含めた運営費は86万円。さらにローン返済額345万円を引いた後に投資家の手元に残るキャッシュフローは、プラス116万円です(図表1)。
これを投資分析すると、表面利回り7.2%に対して、実質的な利回りであるFCRは、5.3 %(営業純収益461万円÷購入総費用8700万円)。自己資金の利回りであるCCRは、16.5 %(税引き前キャッシュフロー116万円÷自己資金700万円)。
ローンを利用することによってレバレッジが働き、現金購入時と比較して自己資金の利回りは3倍近くに上昇したことがわかります(図表2)。
さて、これまでの事例と同じように、この新築アパートCを購入から10年後に売却する場合をシミュレーションしてみます。
年間1%ずつ家賃が値下がりしたとすると、売却直前の家賃収入は518万円です。1戸当たり約6万円だった家賃が、5万4000円に下がることになります。
この物件が表面利回り7.5%で売却できたとすれば、売却価格は6900万円。8000万円で購入した新築アパートは、そのときの情勢によるものの10年後には約15%下がった価格ということになります。
それでもこの新築アパート投資を10年後に売却した場合の収支は、大きな黒字になります。売却価格6900万円に対して、10年後の残債5800万円を引き、売却諸経費に4%の約280万円の支出をみても、売却による収益は820万円のプラス(※譲渡税は計算に含まれていません)。
さらに、10年間の運用中のキャッシュフローの合計が1160万円(116万円×10年。ここでは家賃下落はないと仮定)だから、この1160万円を加えて、購入時に投じた自己資金700万円を差し引くと、最終的な収支である1280万円の黒字という結果が出てきます(図表3)。
新築ワンルームマンションに比べて投資額もそれなりに大きくなりますが、10年後には赤字で終わる新築ワンルームマンションとは違って、約1280万円の儲けを手にすることができます。
「新築は売却時に価格が下がるから投資として合わないのでは?」という質問も受けますが、前記のように運用期間中のキャッシュフローが見込めるのであれば、価格が下がったとしても、利益を確保できるケースはあるということです。
新築ワンルーム投資と新築アパート投資を比較すると?
以上の投資事例を元に、新築ワンルームマンション投資と新築アパート投資の違いをまとめてみました。
①新築ワンルームマンション投資は利回りが低い
これは、新築ワンルームマンション投資に少しでも関心を持たれた方なら、実感していることでしょう。
先に見た販売価格2500万円、年間家賃収入120万円の新築ワンルームマンションは、表面利回りでも4.8%。空室率を0%と仮定して、固定資産税など運営費だけを控除した営業純収益を購入総コスト2580万円で割った実質利回りFCRは、3.9%にしかなりません。
さらに、ネット収入が少ないところに、ローン返済が重荷になって税引き前のキャッシュフローは10万円の赤字だったから、そもそも自己資金の利回りCCRは算出さえできません。
自己資金が10%台で回る新築アパートCとは、比べものにならないほど投資効率が悪いことがおわかりいただけたでしょうか。
②新築アパート投資は利益を確保しやすい
新築アパートCを10年後に売却すると、最終的に1280万円の儲けが出ることがわかりました。家賃の下落によって売却価格は落ち込むものの、運営中のキャッシュフローが安定しているため、売却価格の下落を補い、さらに利益を残すことができるのです。
もちろん10年間で入居者の入れ替えがありますから、室内修繕コストは発生しますが、入居者の使い勝手がよほど悪くはない限り、多額のコストが発生する可能性は低いと思われます。
これに対して、新築ワンルームマンションを10年後に売却する先のシミュレーションでは、600万円近くの赤字でした。新築アパートと同じように売却価格の下落が避けられないことに加え、新築アパートでは価格下落をカバーした運営中のキャッシュフローも新築ワンルームマンションの場合はマイナスになってしまうので、損失がさらに膨らむということです。
不動産投資では、運営中のキャッシュフローがプラスで安定している物件は、投資採算が取りやすい。「月1万円の持ち出し」を前提に、投資を組み立てる新築ワンルームマンションは、最初の時点から投資の組み立てを誤っているといっても大袈裟ではないと考えます。
なかには、私の投資家でも短期間での完済を目標にしているために、あえて融資を10年ほどで組み、運営中は毎月数万円の持ち出しですが、定年後にはローンの支払いを終えていたいという希望で、定年後のリスクを限りなく低くしたいがための組み立てをするケースはあります。
このように投資の目標が明確であえて持ち出しにしているケースと、投資の組み立てを誤っているケースとでは、天と地ほどの違いがあります。
③戸当たり価格が大きく異なる
新築ワンルームマンションは、首都圏の場合1戸当たり2500~3000万円が相場です。これに対して、新築アパートCは総額8000万円で8戸だったから、1戸当たりの価格は1000万円です。
取れる賃料から計算してもわかるように価格が高ければ、投資利回りが低下するのは当然です。一般的に、新築ワンルームマンションと、新築アパートでは1戸当たり2倍近い開きがあるものです。